さまざまな領域でブロックチェーン活用が進むも、課題は山積 ー「Hyperledger Tokyo Meetup」に見るHyperlegerの今とこれから
こんにちは、吉田です。今回は、9/8に開催された「Hyperledger Tokyo Meetup」の内容を紹介します。なお、「Hyperledgerプロジェクト」および「「Hyperledger Tokyo Meetup」の詳細については第8回を参照ください。
Opening Remarks+「Hyperledger Japan Chapter」発足
Linux Foundation 福安徳晃氏
まず、Linux Foundationの福安さんから、この「Hyperledger Tokyo Meetup」の運営について、従来はLinux Foundation側で一方的に内容を決めていたが、今後はエバンジェリストの方々に相談して内容を決めることになったとお話しがありました。また、日本語の情報を探すのが大変なため「Hyperledger Japan Chapter」を立ち上げたと紹介されました。
いろはを活用したデジタル地域通貨の運用開始
Digital Platformer株式会社 技術部 部長 西澤和芳氏
Digital Platformer社は、ソラミツ社が開発したブロックチェーン「いろは」をベースにFinTechプラットフォーム「LITA」を提供する会社で、今回は福島県磐梯町で運用開始されたデジタル地域通貨「デジタルとくとく商品券」が紹介されました。磐梯町は人口約3,300人の町で、喜多方市や会津若松市に隣接しています。今回発行された「デジタルとくとく商品券」は1,250万円分を25%のプレミアを付けて発行され、年末まで利用できます。7/15、17の2回に分けて販売されましたが、いずれも即日完売したそうです。利用できる店舗はスーパーやコンビニなど32店舗で、人口の10%程度の274名の住民が登録しました。
この「デジタルとくとく商品券」には、住民用、磐梯町用、店舗用の3種類のスマホアプリと磐梯町向けの管理システム、キーリカバリシステムの2種類のWebアプリが用意されています。住民用アプリはシンプルな基本機能のみを実装したものですが、トランザクションをプッシュ通知で確認するなど、使いやすい機能が実装されています。システム全体は3つのドメインで管理されており、ドメイン間でのデジタル通貨のやり取りは設定のみで制限でき、プログラムレスで実現しています。
「紙の地域振興券に比べて使い勝手が良い」という声もある一方で高齢者が戸惑う場面もあり、UI/UXのさらなる向上や店舗の精算が面倒など、まだまだ多くの課題もありました。来年度も継続して活用することが決まっているため、その中でマルチアセット化やマイナンバーと紐づけた住民サービスのDX化を推進していくようです。
Hyperledger Fabric活用事例:貿易プラットフォームTradeWaltz
株式会社NTTデータ 清水俊平氏
NTTデータでは、さまざまなバックグラウンドを持つ世界中のメンバがビジネス動向や技術ナレッジを共有するBLockChain CoE(Center of Excellence)を組織化しています。CoEは25の国と地域で500名を超えるメンバでブロックチェーンへの取り組みを推進しています。
具体的な取り組みとしては、ブロックチェーン基盤や周辺技術の調査や技術開発とともに社外でのワーキンググループ活動をする「R&D」とソリューション・サービス開発をする「Solution」、コンサルティングやデザイン、システム開発をする「Project」の3つで構成されています。これらのブロックチェーン関連の活動については、調査会社のレポートでも高い評価を獲得しています。
貿易プラットフォーム「TradeWaltz」について
新型コロナ感染症予防の観点もあり、非接触や非近接志向が進む中で業務のペーパーレス化が注目されています。ブロックチェーン技術は電子データに「原本性」を付与し、紙業務の本質的なデジタル化を可能にします。取引書類が法的な効力を持つための「原本性」を確保するには単一性、占有性、完全性3つの要件が求められますが、従来の電子書類では容易に改ざんや複製ができてしまうため、この要件を満たせませんでした。NTTデータでは、このブロックチェーン技術を活用した貿易情報連携プラットフォームである「TradeWaltz」を開発し、2020年10月に共同で運営会社を設立しました。
あらゆるモノの流れに付随する貿易業務には取引の過程で多くの手続きが発生し、手作業での書類作成や整合性の確認作業などに多大なコストがかかっています。また、複数の関係者が取引に介在しているため、より正確かつ安全に情報を受け渡す仕組みづくりが大きな課題となっていました。したがって、貿易のデジタル化にはコスト削減と運用効率の向上、違法行為の防止に加えてデータ管理の合理化など、さまざまな利点があります。「TradeWaltz」を導入することで、これらの利点を享受できるようになります。
パネルディスカッション:
エンタープライズブロックチェーンの活用例
このパネルディスカッションでは、エンタープライズブロックチェーンの活用例が紹介されました。登壇者は、日本オラクル株式会社 大橋雅人氏、ソラミツ株式会社 宮沢和正氏、日本アイ・ビー・エム株式会社 平山毅氏、Linux Foundation 福安徳晃氏の4名。
まず、金融関連では、ソラミツの宮沢和正さんから「Hyperledger Iroha」を活用した導入事例の紹介がありました。ソラミツは金融系やID管理を中心にブロックチェーンで実績を上げています。2020年10月にはカンボジアで中央銀行デジタル通貨「バコン」の正式運用を開始し、開始から10か月で国民の1/3に上る590万人が銀行間決済や送金、店舗での支払い等に利用しています。
デジタル通貨は、通貨そのものをデジタル化するもので、従来までのキャッシュレスとは本質的に異なります。従来のキャッシュレス(口座型)では、後日に銀行振り込みが必要であったり、店舗への現金振り込みまで1か月程度かかるため、資金繰りが苦しくなったり、システム全体が複雑で高コストになっています。これに対して、デジタル通貨(トークン型)は現金と同様に即時に支払いが完了するため、店舗の資金繰りが改善されます。また、システム自体の大幅な簡素化も可能で、決済コストも低減できます。さらに「バコン」を活用することでクロスボーダー送金が行えます。具体的には、マレーシアのMaybankの利用者は、カンボジアの友人や家族、企業などに受取人の電話番号を入力するだけでリアルタイムに送金が完了し、「バコン」で受け取ることができます。
次に「モノ」に関する事例として、日本オラクルの大橋さんが説明していたESGと関連した事例の紹介がありました。オラクルが自動車メーカーのボルボ・カーズ(以下、VOLVO)で電気自動車のバッテリーに使用するコバルトにトレーサビリティにブロックチェーン技術を活用している事例でした。
サステナビリティ(持続可能性)に関して自動車メーカーが直面する重要な課題のひとつとして、コバルトなどのリチウムイオン・バッテリー製造に使用される鉱物原料のトレーサビリティがあります。これは、自動車用バッテリーの原材料が責任を持って調達されていることを顧客が確認し、信頼して電気自動車を利用できるようにするものです。VOLVOは現在、中国の「CATL」と韓国の「LG化学」という2つの世界的なバッテリー供給業者に加え、今年は鉱物コバルトの産地を追跡可能にするグローバルブロックチェーン技術を提供するテクノロジー企業「サーキュラー(Circulor)」および「オラクル(Oracle)」と連携し、これを実現しています。
この事例では、ブロックチェーンで共有するデータにはコバルトの起源、重量やサイズ、保管方法、ブロックチェーン内の各参加者(鉱業会社、部品メーカー、物流会社など)の行動に関する情報が含まれます。このアプローチは、サプライチェーン参加者すべてで信頼関係を築くために役立ち、VOLVOが責任を持ってコバルトを調達することを保証します。今後はコバルトだけではなく、管理対象を電池金属、タングステンなどへ拡大する計画があるようです。今年6月に開催された「Hyperledger Global Forum 2021」でもこのESGに関連する話題が1/3あったということで、サステナビリティへの取り組みにブロックチェーン技術が今後も大きく貢献していくことが予想されます。
ブロックチェーンを広く普及させるためには、すべてをブロックチェーンで解決することにこだわったり、電力消費を気にしたりとまだまだ課題があるようですが、さまざまなノウハウを共有化していくことで普及できるのではないか、という結論でした。
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このように、さまざまな領域でブロックチェーンが活用され始めていますが、まだまだ課題もあるようです。これからも継続してウォッチし、動向を紹介していきたいと思います。
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