連載 [第34回] :
  月刊Linux Foundationウォッチ

LFがエンジニア人材に関するグローバル調査レポートの日本語版「2023年 技術者人材の現状レポート」を公開

2023年7月31日(月)
吉田 行男

こんにちは、吉田です。今回は、Linux Foundationから5月に公開されたレポート「2023 State of Tech Talent Report」の日本語版「2023年 技術者人材の現状レポート」の内容を紹介します。

【参照】 「2023年 技術者人材の現状レポート」最新レポート 日本語版を公開
https://www.linuxfoundation.jp/blog/2023/07/japanese-version-of-open-source-jobs-report-2023/e

このレポートでは、組織内で必要とされる現在および将来のテクノロジー人材要件と、スキルに関する貴重な洞察を提供することを目的に、エンドユーザー組織とテクノロジープロバイダーの両方のニーズに対応する400人以上の採用マネージャーや人材派遣の専門家を対象に行ったグローバル調査に基づいて作成されています。

2022年末から多くのテクノロジーベンダーのレイオフが広まっていますが、2022年中の技術者の雇用情勢は依然として好調です。全体でも61%が技術者の採用を増やしていますが、特に「通信・インターネット サービス プロバイダー(ISP)・Web ホスティング」部門では71%が技術者の採用を増やしています。また、レイオフと自主退職を含めた平均離職率はベンダー/サービスプロバイダ組織が39%と非常に高い率となっています。

【参考】「2023年 技術者人材の現状レポート」PDF p.7

次に、スキルアップのトレンドについて、下図に示すようにクラウド/コンテナ技術(50%)、サイバーセキュリティ(50%)、人工知能/機械学習(46%)、データベース&データ管理(37%)、高度な分析・データサイエンス(37%)と、新しい技術分野で技術者を追加しようとしている組織が多いことがわかります。

【参考】「2023年 技術者人材の現状レポート」PDF p.14

企業は、こうした新しい分野へ対応するために、既存の技術スタッフのトレーニングや新しい人材の採用によりスキルアップする必要性があります。下図のように新しい人材を採用すると回答している企業が全体として70%と多くなっていますが、企業の従業員規模によって対応が少し異なるようです。250名未満の企業では、新しい人材の採用よりも既存の技術スタッフにトレーニングするアプローチの方が多くなっています。これは、中小規模の企業では、新しい技術者の採用が困難だと見ているのかも知れません。

【参考】「2023年 技術者人材の現状レポート」PDF p.19

また、適切な技術者の候補が見つからなかった場合にどのような対応をとるかについては、「既存の技術スタッフ」への教育を実施したという回答が最も多く、見つけるまで探し続けたり、コンサルタントを雇うことはあまり一般的でなくなりつつあると考えても良いようです。

【参考】「2023年 技術者人材の現状レポート」PDF p.20

このように、技術職の人員を維持し他社への転職を防ぐために、企業はさまざまなインセンティブを提供しています。どのようなインセンティブが最も効果があるのかと言うと、下図の回答にあるように「給与の増加」と「ワーク ライフ バランスの改善」を提供している企業が多いようです。また「トレーニングの機会や認定の追加」や「フレックスタイム制や在宅勤務の機会」も2023年は増加している状況を考慮すると、報酬、ワーク ライフ バランス、研修・資格取得は、引き続き雇用と定着のための重要な要素となっていることがわかります。さらに、興味深いところでは29%の企業が「オープンソース プロジェクトにコントリビューションする機会」を提供しているようです。いずれにしても、優秀なエンジニアを確保するためにさまざまな戦略で対応しています。

【参考】「2023年 技術者人材の現状レポート」PDF p.21

新しい技術者を採用までにはどれくらいの時間がかかるのかについては、下図のようにほとんどの回答者が1~6ヶ月と回答しています。また、調査データの平均値によると、技術職の採用には3か月以上かかると回答した人が約48%と約半数を占めています。このことは、優秀な候補者をタイムリーに見つけ、採用することの潜在的な課題を浮き彫りにし、事業運営や成長に影響を与える可能性があることを示していると考えられます。なお、採用した人員が新しい環境に適合するいわゆるオンボーディングにも40%の組織で1~3か月かかると回答しています。

【参考】「2023年 技術者人材の現状レポート」PDF p.24

技術者の採用やオンボーディングのプロセスなどでは技術的なスキルを確認する必要がありますが、最も合理的な方法はテストの実施や保持している認定スキルの確認です。下図にあるように「要求される技術力を確認できる認定証が必要である」に73%が同意しいることを考えても、応募する技術者にとって、認定資格を所有することが最適な職種に採用される一番の近道だと言えるかもしれません。

【参考】「2023年 技術者人材の現状レポート」PDF p.28

また、企業サイドから見ても、認定資格を取得することで自らの組織の技術ポートフォリオを簡単に把握でき、強化ポイントが明らかになるなどメリットが多いと考えて良いでしょう。

このように、新しい技術分野が次々に現れる状況の中で、いかにして人材を確保し育成するかということが、企業が成長していくための指標になっているような状況です。このレポートでは「トレーニングや認定資格を有効に活用することが最も効率が良い」という結論を出していますが、これは、まさに日々新しい技術を習得しなければならない技術者にとって大きな示唆になると思います。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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