各高速化手法の利点と欠点
各高速化手法の利点と欠点
チューニングの利点は、新たにハードウェアを増強/追加せずに性能を向上できることです。たとえば、PHPの場合、バイトコードのキャッシュを利用 するように設定するだけで数倍のスループットが期待できる場合があります。Apacheであれば、mod_accessなどのモジュールが不必要な場合、 モジュールをロードしないことで性能を向上できます。Squidなどのキャッシュサーバーを利用しても高速化が可能です。
Webアプリケーションのソースコードをチューニングできる場合では、アルゴリズムを変更したり適切な関数を使用することにより、場合によっては何十倍〜何百倍もの性能向上が実現できる場合もあります。
チューニングは、新たなハードウェア投資を行わずにシステム性能を向上できる魅力的なオプションです。しかし、適切に構築されたシステムの場合、 チューニングの余地はほとんどありません。逆に不適切に構築されているシステムの場合は、チューニングを行いたくても影響範囲がわからないなどの理由で チューニングが難しくなります。チューニングは魅力的なオプションであっても効果的でない場合も少なくありません。
ハードウェアで性能向上を行うスケールアップは、比較的コストが高くなりがちなソフトウェアの変更を行わずに性能向上を実現できることが利点です。 CPU性能は現在でも、1年半で約2倍の性能向上が続いています。3年前のCPUを新しいCPUに交換した場合、約4倍の性能向上が期待できます。
スケールアップもチューニングと同様、基本的に単体のWebサーバーやデータベースサーバーを高速化します。しかし、スケールアップやチューニングで大幅な性能向上が可能な場合はまれです。通常はそれほどシステム性能の向上は期待できません。
ここでスケールアウトが必要になります。中規模以上のWebシステムの場合、複数のWebサーバーが、データベースに保存された情報からプログラム によって生成されたHTMLをブラウザへ送信する構成が一般的です。スケールアウトを意識しないシステム設計の場合、単純にWebサーバーの台数を増やし ても、データベースサーバーの性能がボトルネックとなり必要な性能が得られません(図5)。

図5:データベースがボトルネック
必要な性能が得られないだけではなく、正しく設定が行われてない場合は、データベースサーバーへの接続が不足しデータベースサーバーが利用できないなどの、システム上致命的なエラーが発生する場合もあります。
スケールアウトを意識し正しく設計されたWebシステムでは、サーバーの数に比例した性能を得ることが可能です。商用のロードバランサはスケールアウトを意識しないで設計されたWebアプリケーションもスケールアウトできるようなしくみを提供しています。
しかしロードバランサを利用する場合もスケールアウトを意識した設計を行うことが重要です。必要な性能を得るためにはチューニング、スケールアップ も重要ですが、中規模以上のWebシステムでは、サーバーを追加することで性能を向上するスケールアウトを意識してシステム設計を行うことが最も重要です (図6)。

図6:オープンソースシステムを利用したスケールアウト
次回は、このスケールアウトに必須であるアクセス分散について解説します。