ビジネス・プロセス・モデリングの最新動向

2010年9月24日(金)
岩田 アキラ (いわた あきら)

コレオグラフィ図

BPMN 2.0では、コレオグラフィ図と呼ぶ表記法を使うことで、企業間でやり取りするビジネス・メッセージと通信手順を、企業内のビジネス・プロセスと関連付けて併記できるようになりました。

コレオグラフィ図は、コラボレーション図で表現した、メッセージ送受信の実行手順と実行ルールを表記します。図23に、BPMN 2.0によるコレオグラフィ図の表記例を示します。

図23: BPMN 2.0によるコレオグラフィの表記例(クリックで拡大)

ビジネス・パートナの組織の内部で実行されるプロセスを「プライベート・ビジネス・プロセス」と呼びます。一方、ビジネス・パートナ間の取引手順を取り決めたプロセスを「パブリック・ビジネス・プロセス」と呼びます。

コレオグラフィ図は、このパブリック・ビジネス・プロセスの可視化を目的にしています。

企業間電子商取引(EDI)のパブリック・ビジネス・プロセスをXML形式で記述する言語に、OASIS標準のebXML BPSS(Business Process Specification Schema)があります。しかし、BPSS仕様では、プロセス定義を図示する表記法は規定されていません。

この背景の下、BPMN 2.0は、新たにコレオグラフィ図の表記法を規定したのです。

コレオグラフィ図は、プロセス図やコラボレーション図と密接な関係を持って設計されます。図24に、その設計過程を示します。

図24: コラボレーション図からコレオグラフィ図への発展過程(クリックで拡大)

図24の上部に、コラボレーション図があります。この図は、コレオグラフィを設計するうえでの基礎データになります。

コラボレーション図で表記されたメッセージ・フローに、コレオグラフィ・タスクと呼ぶ通信作業を挿入し、コレオグラフィ・タスクを媒介にしたメッセージ・フローに書き改めます。コレオグラフィ・タスクの実行手順は、プロセス図と同じシーケンス・フローを使って表記します。

図の中央が、コラボレーション+コレオグラフィ図になります。

図24の下部に、パブリック・ビジネス・プロセスだけに着目したスタンド・アロンのコレオグラフィを記述します。封書型の図形要素はメッセージ・オブジェクトです。メッセージ・フローを通じて受け渡されるデータ・オブジェクトを意味します。このオブジェクトのコンテンツは、XMLスキーマで定義します。このスタンドアロンのコレオグラフィ図は、非常に単純な例を示しています。

通信手順は、取引条件による手順の違いや、障害発生時の補償処理など、さまざまな動的変化要素が存在します。このため、手順のコントロールが必要になります。コレオグラフィ図は、プロセス図と同じゲートウエイやイベント図形要素を使って、フローの分岐や合流を表現します。この例を、図25に示します。

図25: 複雑なコレオグラフィ図(クリックで拡大)

現在のところ、BPMN 2.0では、ebXML BPSSへのマッピング仕様を定義していません。今後、ebXML BPSSの変換に必要な属性が厳密に定義されることが期待されます。これにより、モデルから、ebXML BPSSのXML形式ファイルを生成可能になります。

ビジネス・プロセス・ネットワーク(BPN)と呼ぶ新語が登場

市場調査会社の米Gartnerは最近、こうしたコレオグラフィの標準化動向を受けて「BPN」(Business Process Network)と呼ぶ概念を提唱し始めました。これは、電子商取引を通じて、企業間のビジネス・プロセスをインターネットで連携させる、というものです。

国内では、流通業界の「流通BMS」(Business Message Standard)、化学業界の「Chem eStandards」など、インターネットを利用した企業間電子商取引の標準化と共同実証実験が、業界団体を中心に行われています。

ただし、これらの活動は、あくまでもパブリックなビジネス・プロセスについて企業間で合意を形成することに重点を置いたものです。組織内部のプライベートなビジネス・プロセスを対象にしているわけではありません。

今後、BPMN 2.0を利用した統一的なプロセス・モデル表記が採用され、業界ごとの取引標準の策定/普及が進めば、パブリックおよびプライベート双方のビジネス・プロセスにBPM/SOA技術が適用され、企業間の垣根を越えたビジネス・プロセス・ネットワークが形成されるようになるでしょう。

異種ベンダー・ツール間におけるBPMN 2.0プロセス・モデルの交換

BPMNプロセス・モデルを、異種ベンダーのツール間で交換するための仕様が、これまでずっと望まれていました。

これまでは、国際標準化団体のWfMC(Workflow Management Coalition)が開発したXPDL(XML Process Definition Language)が、唯一のプロセス・モデル交換形式でした。ところが、XPDLは、BPMNだけでなく、そのほかのモデルも対象にするため、形式も複雑で、サポートするツールも限られていました。

BPMN 2.0では、プロセス・モデルの交換仕様として、BPMN DI(Diagram Interchange)仕様を定めました。モデル交換形式としては、BPMNメタモデルをベースにしたXMLファイルを採用しています。BPMN 2.0をサポートするツール間で使うことが前提です。

今後、BPMツールに、BPMN DI仕様に基付いたプロセス・モデルのインポート/エクスポート機能が装備されれば、これまで問題となっていた「複数のグラフィック・プレゼンテーション・ツールを使わなければならないため、モデリング・ツールやビジネス・プロセス・ランタイム・エンジンの選択が制限される」という状況が改善するでしょう。

著者
岩田 アキラ (いわた あきら)

岩田研究所代表。日本BPM協会 運営幹事。自己の研究対象をデータモデリングからプロセスモデリングに6年前に転向。ビジネスプロセス表記標準BPMNの国内普及に邁進。日本BPM協会ではBPM推進フレームワークの開発やセミナーなどの講師を務める。「岩田研究所」ブログで自身のBPM/SOA開発手法研究成果を公開。

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