データ・モデルを維持管理して生かす

2010年10月28日(木)
松田 安弘

データ・モデルは、作りっぱなしにしない

多方面にわたって活用可能なデータ・モデルですが、せっかく手間暇かけて作成しても、作りっぱなしの状態にしていては、システム変更時に迅速な対応ができません。当然、コミュニケーション・ツールとしても、浸透しないでしょう。

ここで、データ・モデリングとITコストの関係に、注目してください(図6)。

まず、図6の中の、2本の実線に注目してください。右に行くほど上に向かう線は、従来型のファイル設計技法(POA*1: プログラム中心アプローチ)を採用した場合のコストを示しています。一方、もう一方の、下側にある線は、データ・モデリングを採用した場合のコストを示しています。

  • [*1] POA: プログラムを中心としているため、最適化されたデータがプログラムごとに複数存在する。データに重複があるため、システムのムダも複数存在する。また、システム統合時には、どれが正しいデータなのか、どれが最新なのかが判断できず、データ統合に難点あり。

データ・モデリングの初動時は、データの意味や内容を確認する時間がかかるため、従来型と比べてコスト曲線は大幅に高くなります。しかし、システムがカット・オーバー(稼働開始)するあたりから、従来型のファイル設計技法のコストが急速に上昇し、データ・モデリングの曲線を越えてしまいます。

ケースごとに曲線の角度に違いはあるものの、データ・モデリングは「仕様変更の影響を受けにくいデータに注目して設計する」という特徴があるため、従来型に比べて冗長性が低く安定性が高いデータ構造を構築できます。仕様変更への対応コストを抑制する効果があります。

とはいえ、ここで注目して欲しいのは、従来型のファイル設計技法との違いではなく、データ・モデリングを採用した場合の、実線とカット・オーバー以降の点線です。この点線が意味しているのは、「一度作成したデータ・モデルを保守していかなければ、データ・モデリングを採用しても、コスト削減効果は薄い」ということです。

図6: データ・モデリングとITコスト(クリックで拡大)


せっかく手間暇かけて作成したデータ・モデルなのですから、その後も維持していかなければ、意味がありません。また、データ・モデリングで得た知識や経験が企業内に蓄積され、変化への対応力の糧となることで初めて、データが企業の経営資源となるのです。逆にいえば、ヒト・モノ・カネは企業で管理されています。企業で管理されていないのは、データぐらいのものです。

人的管理と物的管理の両方でデータ・モデルを維持、管理する

上記の問題は、管理体制(マネジメント・システム)によって解決するしかありません。マネジメント・システムとは、リポジトリと呼ぶデータベースでデータ・モデルを一元管理し、人的管理と物的管理の2つの面から維持、管理していく仕組みのことです。

図7: データ・モデルのマネジメント・システム


(1)人的管理

管理すべき対象は、ER図、データ定義、コード設計書、用語辞書、の4つです。

データ定義には、「アトリビュート」や「カラム」の意味、内容、属性、データ例なども含まれます。コード設計書には、取引先コードや注文番号など、企業で管理しているコード体系や付番ルールが含まれます。用語辞書には、標準化されたデータ名称が含まれる辞書と、名称の標準化ルールが含まれます。データベース・セキュリティに関する定義を包含する場合もあります。

これらの管理対象は、メタデータ(データのデータという意味。例えば、データの属性を示すデータなどが該当)としてリポジトリで一元管理します。複数の関係者が、データ・モデルを同時に参照、更新できる状態が理想です。また、維持管理にあたっては、Oracle Databaseなどを管理するデータベース管理者(DBA)ではなく、全社のデータを管理するデータ管理者(DA)の設置が必要です。

(2)物的管理

上記の人的管理や関連業務を、ハードウエアやソフトウエアで支援するのが、物的管理です。人的管理と物的管理の2つがマネジメント・システムとして機能することで、ビジネス変化に強いデータ構造が維持・管理されていきます。

以上、駆け足でしたが、データ・モデルを活用する意義と方法、さらには管理体系までを解説しました。管理体系まで実現せよ、とは言いませんが、データ・モデルを利用したコミュニケーションは、今日からでも手軽に実践できるものなので、ぜひ採り入れてみてください。

株式会社アシスト コンサルティング室 シニア・コンサルタント

データモデリング分野やビジネスモデリング分野のコンサルティングに従事。支援実績は、製造業からサービス業と、顧客の幅と数とも多い。現場主義に徹することとがモットー。最近は、原点に立ち返り、データモデルでビジネスを語ることを現場で訴求している。

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