出版プラットフォームとしてのiOS
iOSで動作するPDFビューアを作る
かくして、いや、結局のところ、PDFは現実的かつ確実なフォーマットの1つと考えられることになる。今回の記事の残りの部分は、iOSでPDFビューアを作るための情報をお届けしたい。PDFなら、PCなど他のデバイスでもそのまま参照できるだろうし、すでに作った紙のレイアウトをそのまま使えるなどのメリットもある。また書籍に限らず、資料の閲覧などにも適している。結果的にベストな解決策ではないかもしれないが、書籍アプリはもちろん、いろいろなアプリケーションにPDF閲覧機能が要求されるというのが昨今の状況だ。
Mac OS Xを始めとして、PCやMacではPDFに関する開発環境は、標準で付属するものや後から追加するものも含めて、実に多彩なものが用意されているが、iOSでは限定的だ。かといって何もできないわけでもない。どこまでがOSのサポートがあり、どこからが大変なのかということを知った上で開発にかかれば効率的に進めることができる。また、iOSにはたくさんのPDFビューアがあるが、GoodReaderを始めとしていくつかのPDFリーダはぜひとも購入して、その動作をチェックされることをお勧めしたい。
なお、今回の記事ではPDF描画に関して3種類の方法を紹介するが、実行結果は3ページ目を見ていただきたい。
→ サンプル一式は、会員限定特典としてダウンロードできるので、記事末尾をご確認いただきたい。
まず、iOSでは、「PDFビューア」的な安直なコンポーネントはない。画像やWebブラウザのコンポーネントはあるのだが、PDFに関してはない。一番安直な方法としては、WebブラウザのコンポーネントでPDFを見せるというものだ。これは、単にHTMLの代わりにPDFファイルを指定すればいいだけのもので、縦方向にスクロールするブラウザでの見え方しかサポートしていないものの、実は一番確実で楽な方法である。ただ、それが補助的な機能ならさておき、通常はもっとさまざまな機能を組み込む必要が出てくるだろう。
図3:Appleの開発者向けのサイトにあるドキュメントをまずは目を通そう(クリックで拡大) | 図4:PDF描画のサンプルプログラム「ZoomingPDFViewer」を動かしてみたところ(クリックで拡大) |
PDFをドローする機能と問題点
PDFビューアを作るための機能の本命は、CoreGraphics(Quartz 2Dとも言われる、以下CG)を使うことだ。Macでのプログラムを知っている方は、そこの大変さはすでにご存じの通り。Cocoa Touchはオブジェクト指向だが、CGはオブジェクト指向っぽい関数群なのである。特にメモリ管理が昔のCっぽい雰囲気になり、関数の応酬をくぐり抜けながらのプログラミングが待っている。
関数群をクラス分類的に分かれて解説されているが、それが11もある。いきなりやる気をなくしそうになるかもしれないが、文書を読み込む順序も含めて解説しよう。
とは言え、単に1ページだけの描画はそれほど難しくはない。まずは「Quartz 2D Programming Guide」という文書が起点になる。PDFのみならずOSに近いレベルでの、さまざまなグラフィックス機能が解説されており、文書は全体的に面白く読めるだろう。その中に「PDF Document Creation, Viewing, and Transforming」というチャプターがある。大まかに説明すると、CGPDFDocumentCreateWithURL関数などでPDF書類を開き、CGPDFDocumentGetPage関数で特定のページの参照を得て、CGContextDrawPDFPage関数で描画をする。書類の指定等いろいろあるが、PDF関連では「CGPDFDocument」「CGContext」という2つのリファレンスで済んでいる。
ただし、いくつかポイントがある。iOSは左上が原点になるが、CGでは左下が原点になる。Mac OS Xでもこの混在が混乱する大きな原因として言われてきたが、iOSのUIKitは左上が原点と、他のプラットフォームと同じになった。しかし、CGはよりOS内部ということで、昔からの左下原点が復活する。そのため、描画するものをアフィン変換でうまく処理をしないといけない。しかし、ここはがんばって理解をしたいところだ。「Quartz 2D Programming Guide」のサンプルプログラムからスタートしよう。
そして最も重要なことは、描画に対して「コンテキスト」というCG独自の概念があることだ。コンテキストは「描画を受け付ける窓口」と考えて良い。ほとんどのUIKitのクラスでは考えなくても背後でうまくコンテキストの処理を行っていたが、CGでは自分でケアする必要がある。結果的に、UIViewを継承したクラスを作り、drawRect:メソッドをオーバーライドすれば、その中でそのビューのコンテキストが得られるので、そこで描画をする。この手法が基本になる。
「出版プラットフォームとしてのiOS」サンプルプログラム