クラウド事業の今後の展望
クラウド事業にはどんな変化が起こるのか
第4回ではクラウド事業の今後の展望についてお話しします。
クラウド時代では、これまでと何が変わってくるでしょうか。分野別に分析していきましょう。
<ユーザー、特に情報システム部門>
まず、ハードウエアやソフトウエアを購入する必要がなくなります。 その代わりとして、クラウドサービスを選択して導入することが重要な仕事となります。
クラウドサービス選択のポイントは以下の通りです。
- どのクラウドサービスが自社には適しているか
- 情報をいかに入手するか
- 検討中のクラウドサービスに足りない部分を補足できているか
- 足りない部分を補う手段は見えているか
- クラウド(IT)がどれくらい役に立っているのか
- 問題が起きた時に誰が責任持って対応するのか
難しいポイント
- クラウドの進歩が早いため選択の決断が難しい
- 自分がリスクを負って判断しなければいけない仕事が増える
- クラウドを使いこなすにもそれなりにパワーがかかる
<インテグレータ>
これまでの主力ビジネスであった機器の販売とシステム構築の仕事が減ります。それに伴い高収益であった保守契約も減っていきます。 その代わりにクラウドを使ったシステムインテグレーションやコンサルの仕事が増えます。リセールからソリューション(付加価値)への転換がより求められます。
難しいポイント
- サービス事業にシフトするのか
- どこで付加価値を出すか
- どのクラウドを利用してインテグレーションするか、その時の責任範囲はどうするか
図1:市場シェアの予測 |
<コンピュータメーカー>
ハードウエアの売り先がユーザー企業からクラウドベンダーに変わります。クラウドベンダーはコストパフォーマンス最優先で不要な機能も多くなります。独自の機能は嫌われるため他社との差別化が難しくなります。プリミティブな品質・性能・コストが差別化要因となります。クラウド事業者によるホワイトボックスも増えてきます。
難しいポイント
- 大企業、SMBといったこれまでのマーケット戦略・組織体制が変わってくる
- クラウドはネットを通じてサービスを提供するため、コンピュータ利用者とコンピュータ購入者の地域・国が変わってくる
<パーツメーカー>
インテルなどのパーツメーカーの存在はこれまで以上に重要となります。クラウドベンダーはコンピュータメーカーのブランドよりも、その中身のパーツ製品を選んで購入します。技術はものすごいスピードで進んでいるため、常にその先端の製品を開発し続けることが重要です。
またそのパーツ製品の性能・品質の良さをクラウドベンダーに情報提供することが重要となってきます。
難しいポイント
- 設備投資の増大
- 製品の短寿命化
<エンジニア>
最後にエンジニアに求められるものがどう変わっていくかについて述べます。ユーザー企業やインテグレータと同じで構築作業から、情報収集・利用促進といった仕事のスキルが重要となってきます。速いスピードで進化する膨大な情報を一人で収集・判断・使いこなすのは不可能ですので、エンジニア同士の横のつながりが重要となってきます。
ユーザー会のようなコミュニティでお互いのノウハウを共有しあうことがクラウド時代でのエンジニアの重要な仕事になっていくだろうと思います。
今後クラウドに参入するベンダー
それでは、クラウドに参入してきているベンダーにはどんなところがあるでしょうか。
<USベンチャー系>
もはやベンチャーとは呼べないかも知れませんが、AmazonやGoogleは世界的なクラウドのトップベンダーです。 AmazonはIaaS、GoogleはPaaSやSaaSのクラウドを展開しています。
日本においてもAmazonはIaaSクラウドのトップベンダーで、現在でも新しい機能を追加し続けています。ネットワークの遅延がある、支払いがクレジット、英語のサポートといった日本の企業向けにとっては弱点もありますが、データセンターのアジア拠点化、代理店による請求処理、日本語サポート強化などの改善が図られています。
USベンチャーは圧倒的なビジネスの規模と、クラウド専用ハードの開発などにより、非常に強力な価格競争力を持っています。
日本のベンダーはこれらのUSベンチャー軍団とどう差別化するかが最初のハードルとも言えます。
<ホスティング系>
従来レンタルサーバーを提供している会社です。
宣伝広告や支払い処理など金額の安い商品を大量に販売するノウハウを持っています。 クラウドとして仮想化技術を扱うには技術的なリスクやコスト高要因が伴いますが、最近は安価で安定した仮想化環境も作りやすくなったので、クラウドに参入するホスティング会社が増えてきました。
<SIer系>
筆者が代表を務めるITコアもSIerの分類に入りますが、お客さま向けにシステムを構築している会社が、自社のクラウドシステムを構築してサービスとして提供するところも増えてきました。
インテグレーションからサービス事業への転換は時代の流れとしての必然でもあります。運用や小口取引のノウハウがあまりないというのが弱点ですが、システム構築の上流工程やビジネスに対するコンサルティングといったサービスをクラウドと一緒に提供できる強みがあります。
<設備系>
通信キャリアやデータセンター会社です。いわゆる箱物や電線売りからより付加価値の高い商品としてクラウドサービスを提供する会社が増えてきています。こちらも時代の流れからやらざるを得ないといった事情が大きいようです。
太い回線や余剰ラックの有効活用など、コストダウン要因のメリットがあります。余裕のある資金面のメリットを生かして安価に大量なサーバーを購入して、専用サーバークラウドを提供している会社もあります。
ネットワーク技術と設備に強みがあるため、専用プライベートVLANなど、セキュアで本格的なシステム構成を利用することができます。
<コンピュータメーカー>
コンピュータを製造している会社もクラウドに進出する会社が増えてきました。コンピュータリソースは売るほどありますから、特にリソース使用率の高いサーバーに対してコスト競争力があります。
またインテグレーションやアウトソーシングなど、大手顧客向けには上流から下流までサービスを提供しているノウハウもありますので、大手顧客向けのカスタマイズクラウドでは大きな競争力があると考えられます。
図2:市場ポジションのイメージ |
図2は市場ポジションのイメージ図です。それぞれのポジションをわかりやすく表現していますが、実際にはそれぞれ重なる領域がもっと多いです。
クラウドビジネスで生き残るために
最後に、今後のクラウドビジネス生き残り戦略についてお話しします。
昨年はクラウド元年であり、いよいよクラウドが本格的な普及期に入ったと言えます。しかしまだまだ序盤戦であり、本格普及のせいぜい数%が進み始めたところです。これからいよいよクラウドへのシフトが本格化していきます。 それはあまり目立たないようですが、背の低い津波のように、既存ビジネスへの破壊力はすさまじいものとなるでしょう。
そのために多くのプレイヤーがクラウド事業に参入してきていますが、その中で生き残るためには他社との何らかの差別化を図っていく必要があります。生き残り戦略のヒントとなるようなものをあげてみたいと思います。
<顧客対応>
当面は各社のサービスにそれほど大きな違いがないため、顧客がクラウドを選定する決め手としては顧客対応が大きな影響を与えるでしょう。お客様が知りたいことの理解、わかりやすい説明、不安の解消など、ソリューション営業的な対応スキルが求められます。この点ではSIer系は有利と言えます。
<広告宣伝>
何はともあれ顧客に情報が届かないことにはサービスは売れません。インパクトのある広告表現、購入ターゲットに届きやすいメディア選びなど、ホスティング系の会社に有利な戦略でしょう。
<クチコミ宣伝>
コスト以外の差別化が難しかった低価格レンタルサーバーと違い、クラウドサービスは機能面や品質面での差別化の余地が高いサービスです。そのような高機能サービスにおいてはクチコミによる宣伝が大きな影響力を発揮します。
特にインフラサービスは長く利用するものであり、顧客も多くの情報を集め慎重に検討をするでしょう。 そこで重要なのが先進ユーザーや信頼できる人からのクチコミ情報です。スポーツ用品メーカーが有名選手に製品を使ってもらうように、 クラウド利用の達人が発信する情報に載せてもらうことが宣伝の最終ゴールと言えるかも知れません(先進企業や有名エンジニアなど) 。
<ニッチ市場>
インターネットによるEC(ネットコマース)が普及してから、ニッチ商品がにわかに高収益なビジネスとなりました。競争相手がいないため価格を下げる必要がないことと、数少ない対象顧客を検索エンジンによって集めやすくなったためです。 これはクラウドでも同じことが言えるでしょう。
メインストリームの技術だけでなく、全体のシェアとしては非常に小さな製品技術でも、それを提供するサービス業者が少なければビジネスとしては十分成り立ちます。
図3:ロングテール |
クラウドでもロングテール理論は成り立つと思います。メジャープレイヤーがカバーできないニッチな市場を狙いましょう。
<OSS利用>
オープンソースソフトウエアは両刃の剣です。クラウドと同じように既存ビジネスを破壊する力を持っています。逆にうまく利用すれば他社との差別化要因にしたり、ソフトウエアライセンスコストを節約したりすることができます。
インターネットブームが起きたころはSPARCサーバー+Solaris+Netscape(Webサーバー)が主流でした。それが現在では、IAサーバー+Linux+Apacheとなっています。OSとWebサーバーにはOSSが一般的に使われるようになり、その分ユーザーはコストメリットを得ることができ、レンタルサーバー事業者も利益を出しやすくなりました。仮想化ハイパーバイザーでもKVMなどが主流になりつつあります。
今後クラウドに付加価値としてOSSのアプリケーションや運用ツールなどを提供していくことがかなり強力な差別化につながるでしょう。
<コンサルティング>
性能チューニング、アプリケーション設計、ビジネス戦略など、クラウドを利用する上で必要となる要素に対するコンサルも今後需要が高まるでしょう。今後どんどん進化する新しいIT技術をお客様に紹介・提案することもクラウドベンダーには求められてくるでしょう。
最後に
これまで4回に亘ってクラウドについて述べてきました。ITコアで実際に行ってきた仮想化ビジネスから得られたノウハウを多く公開させていただいたつもりです。 これからの社会は競争よりも協力・シェアリングが重要であると考えていますので、今後もできるだけノウハウの公開を行っていきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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