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【日本の勝機はフィジカルAI⁉︎】2026年、生成AIは「測定可能な成果」を求められる

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動するメンバーが、それぞれの専門領域で培ってきた知見を持ち寄りながら、生成AIを取り巻く動向を技術・ビジネス・ガバナンスの観点から整理しお届けしています。

鍋谷 美帆

6:30

2025年、生成AIは私たちの日常に浸透し、より身近なものとなってきました。ビジネスの現場でも、実務課題の解決に向けた活用が進んだ年だったと言えるでしょう。

では、2026年は何が起こるのでしょうか。専門家たちの予測によれば、2026年は生成AIに対する期待が、「何ができるか」から「どれだけ成果を出せるか」へと変わる年になりそうです。同時に、現実世界で動く「フィジカルAI」への注目も高まっています。

本記事では、Stanford HAIが示した"評価フェーズへの移行"と、世界で注目が高まるフィジカルAI──この2つの潮流を通じて、2026年の生成AIをめぐる展望を整理していきます。

Stanford HAIが描く2026年
「評価」フェーズへの転換

Stanford HAIの研究者たちが強調するのは、2026年が「AIエバンジェリズム(伝道)の時代から、AI評価の時代へ」という転換点になるという点です。

従来の「AIが何をできるか」という問いは、「どれだけうまく機能し、誰にどんな利益をもたらすか」という評価へと変わると指摘します。この予測は、コンピュータサイエンス、医学、法学、経済学など異なる分野の専門家たちの共通した見解として示されており、AIの価値を実証しながら統制・評価するインフラや指標が重視されることが強調されています。

つまり、単なるデモンストレーションや大規模なモデルの展示ではなく、実際の業務・医療・法律・製造現場での成果、ROI(投資収益率)、データ品質、透明性などが問われる段階になるというのです。例えば法律分野では訴訟で使える推論の精度が、医療分野では診断精度の向上や臨床での実績が問われるようになるとされています。

Stanford HAIの共同ディレクターであるJames Landay教授は、「2026年にAGI(汎用人工知能)は実現しない」と予測。「2026年には、AIによる生産性向上が限定的だという声が増え、多くの失敗したAIプロジェクトについても語られるだろう」と述べています。プログラミングやコールセンターなど特定領域では効果が見られるものの、万能ではないという認識が広がるという見立てです。

また、Landay教授は「AI主権(AI Sovereignty)」の台頭にも注目しています。各国がデータやモデルを自国のインフラ下で管理する動きへの関心が勢いを増すだろうと述べています。

AI主権には、国が独自の大規模言語モデル(LLM)を構築する場合もあれば、自国のGPU上で他国が開発したLLMを稼働させ、自国のデータが国外に流出しないようにする方式も含まれます。米国の特定企業に依存しない独自AIを目指し、各国で巨大なデータセンター投資や国産LLMの開発が加速していくと分析しています。

【出典】Stanford AI Experts Predict What Will Happen in 2026」(Stanford HAI 2025/12/25)

企業は楽観的、しかしROIへの意識は共通

一方で、企業のCEOたちの見方は少し異なるようです。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)の調査によると、ほぼすべてのCEOが、AIエージェントが2026年に測定可能な利益を生み出すと考えています。

また、90%以上の企業が、来年投資が回収できなくても現状のレベル、あるいはそれ以上のレベルでAIへの投資を継続する予定だとされています。

興味深いのは、BCGの調査においても、ROI(投資収益率)が2026年以降、重要な指標となるであろうと指摘されている点です。投資家やその他のステークホルダーは、AI投資のROIが早期に実現することを期待しており、CEOが組織を導くうえで、AIによる具体的な成果を管理し、追跡することは重要なアクションの一つであるとされています。

Stanford HAIが語る「失敗プロジェクトも語られる」厳しさと、BCGが示す企業の楽観的な姿勢--見方に温度差はあるものの、共通しているのは、2026年の生成AIが「測定可能な成果」を求められる年になるという認識だと言えそうです。

世界が注目する「フィジカルAI元年」
日本の勝機

こうした「測定可能な成果」がより求められる中、もう一つ注目を集めているのが「フィジカルAI」です。

フィジカルAIは、ChatGPTなどデジタル空間で働く生成AIとは対照的に、AIが現実世界を理解・学習し、自律的に動く技術です。その市場規模は、2023年の471億ドルから2030年には1247億ドル(約20兆円)へと拡大すると見通され、生成AIに続く「次の成長領域」として注目を集めています。

世界で進むフィジカルAI開発

この成長市場に、すでにアメリカと中国が大規模な開発・投資を進めています。

NVIDIAは、ロボットや自動運転の学習を支援するプラットフォーム「Cosmos」を発表し、「世界基盤モデル(World Foundation Model)」の構築を推進しています。これは、フィジカルAIが現実世界そのものを学習し、複雑なシナリオを生成できるようにする基盤です。同社はCES 2026で、自動運転技術とヒューマノイドロボット向けのオープンソースAIモデルを発表しました。

世界基盤モデルで生成された物流倉庫のデータ:【出典】「フィジカルAIで変わるロボットの在り方、ヒューマノイドロボットの衝撃」(MONOist 2026/01/22)

Amazonの物流倉庫では、ピッキングロボットや自律搬送ロボット(AGV/AMR)の学習に大量のデータが活用されています。メタバース上で仮想的にロボットの動作を検証し、そこでトレーニングを行うことで、様々な荷物の形状や配置の状況を学習させています。

Amazon.com倉庫におけるフィジカルAI活用:【出典】「フィジカルAIで変わるロボットの在り方、ヒューマノイドロボットの衝撃」(MONOist 2026/01/22)

日本の立ち位置

国内に目を向けると、日本でもフィジカルAIに対する取り組みが本格化しています。

日本ディープラーニング協会(JDLA)は、AIロボット協会(AIRoA)と連携し、現場の操作データを収集・共有して大規模なロボット向け基盤モデルを構築するプロジェクトを進めています。川崎重工業はヒューマノイドロボット「Kaleido」を、川田テクノロジーズは「NEXTAGEシリーズ」を展開しています。

中でも注目されるのが、日立製作所の取り組みです。日立製作所はフィジカルAIを成長戦略の柱に据え、「世界トップのフィジカルAIの使い手を目指す」方針を打ち出しています。

同社のAIソリューション群であるHMAX(エイチマックス)では、列車走行データと環境条件(天候、部品の摩耗状態など)を統合し、最適な部品交換や保守要員の手配を実現。これによりエネルギー消費15%減、列車遅延20%減、保守コスト15%減という成果を上げています。

日立の強みはOT(制御・運用技術)、IT、プロダクトの全領域を一社でまかなえる点にあります。ソフトウェアだけでなく、ハードウェアと制御技術を併せ持つ──この総合力が、フィジカルAI時代の武器になるかもしれません。

【出典】「日立が狙うフィジカルAI「20兆円市場」Google Cloudとの連携で描く勝ち筋」(ITmediaビジネスオンライン 2025/12/02)

こうした日本企業の動きを、日本政府はどう見ているのでしょうか。2025年12月に開催された「Generative AI Conference 2025」にて、経済産業省の渡辺氏はこう語りました。

「製造大国であり、ロボット大国と呼ばれている我が国にとって、フィジカルAIは極めてアドバンテージが高いと考えています。一方で、フィジカルAIの領域にはエヌビディアをはじめとする多くのビッグテックが参入し、米中における投資額は高まっています。我が国の勝ち筋として、フィジカルAIに対してどのように舵取りをしていくのか、大変大きなチャレンジだと感じています」

渡辺氏は、日本発のアニメーションや製造業におけるロボット技術の実績を挙げつつ、「こうした現場のデータを活用して、どのような信頼できるフィジカルAIを育てていくのか。経済産業省として、その点に注力していきたい」と述べています。

現場での実装が進む今こそ、日本としての戦略的なかじ取り—技術投資、制度整備、産業構造全体の変革が問われているのかもしれません。

【出典】「【イベントレポート】生成AI有識者によるパネルトーク「2025年の振り返りと2026年の動向予測」(PRTIMES 2026/01/23)

おわりに

本記事では、Stanford HAIが示す「評価フェーズへの転換」、そして世界と日本で進むフィジカルAIの動向を軸に、2026年の生成AIをめぐる展望を見てきました。2026年は、生成AIに対する問いが「何ができるか」から「それで何を実現したのか」に変わる年になりそうです。

PoC(概念実証)や話題性だけでは評価されず、ROIや継続性、現場での定着度といった“実利の指標”がより重視されていくと考えられます。同時に、フィジカルAIなど最新の動向からも目が離せません。中国や米国に負けない存在感を、日本が示せるか──2026年は、その勝負の年になるかもしれません。

「フィジカルAI元年」。この言葉が示す未来を、ぜひ一緒に注目していきましょう。

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