パターンに基づくプロセス設計
Inform→Decide→Act
問題解決プロセスは見方を変えると図5のサイクルとしても見ることができます。
図5:活動プロセス |
問題解決プロセスにおける『解』を1つの『現状』ととらえると、『検証』から『分析』までが『Inform』、『設計』が『Decide』、『実装』が『Act』になります。Inform, Decide, Act はIDAサイクルと呼ばれ、陸上自衛隊の研究本部セミナーからアイデアを戴いています。PDS(Plan, Do, See)やPDCA(Plan, Do, Check, Action)と類似した考え方ですが、IDAはより迅速で的確な判断を継続的に要求される、戦場における考え方です。
戦場においては司令官が大局の意思決定を行いますが、各兵士においても意思決定を行う必要があります。目の前に敵がいる状況で指示待ちというわけにはいきません。企業活動においても同様、マネージャは大局の意思決定を行いますが、メンバにおいても意思決定を行う必要があります。また、戦場においては状況が刻々と変化します。常に最新の情報を入手し、情報に基づき意思決定を行い、即座に行動を起こす必要があります。誤った情報は誤った意思決定を導き、命を危険に晒すことになります。企業活動においても、多様化し予測が困難となった社会環境へ適応しながらの行動が求められています。
図5のサイクルでは、まず『現状』から情報を得ます。Informは「情報を与える、知らせる」という意味を持ち、語源をたどると「何かに形を与える、何かの考えを形作る」という意味から成り立つ言葉です。Informにより形作るものは、未来の『可能性』です。現状には、実際に起こっている事象だけではなく、現状の希望や願望を含みます。現在の事象と願望を「見える化」し、現状を理解した上で未来のバリエーションを描きます。
未来のバリエーションを描いたら、バリエーションのなかから1つの未来を選択します。Decideは「決心する、決意する」という意味を持ちますが、語源をたどると、deは「離す」、cideは「切る」であり、「切り離す」という意味から成り立つ言葉です。未来の可能性から、1つの『未来』だけを切り離し、実現することを決意します。
次に、実現することを決意した未来を携えて行動します。Actは「行動する、振る舞う、演じる」という意味を持ちます。選択した未来を実現するために行動し、選択した未来の姿を演じます。結果として、新たな『現状』がつくりだされます。そして再び、現状に対してInformを行い、未来のバリエーションを描きます。図5のIDAサイクルは活動の主体がなくなるまで続きます。
IDAサイクルは活動主体の規模に応じて1サイクルの時間が異なります。例えば、プロジェクト規模であれば数ヶ月単位でサイクルが回転、チーム規模であれば数週間単位でサイクルが回転、個人規模であれば数時間から数日単位でサイクルが回転します。サイクルの回転の速さが活動主体の機動性となります。機動性が高ければ、状況に柔軟に適応できる可能性が高まります。
また、IDAサイクルを効果的に回転させるために、図6のように検討プロセスを併せて用いることができます。
図6:活動プロセスと検討プロセスの関係(クリックで拡大) |
おわりに
今回はプロセスのパターンをご紹介しました。
自然界に存在するものは循環しています。始まりと終わりは人間の思考が設定した概念です。プロセスも循環しています。循環のパターンをつかんでしまえば、後はその繰り返しです。複雑なプロセスはパターンが入れ子になっているため、パターンをつかんでしまえば、難しさは減少します。日常の仕事のなかに、今回ご紹介したプロセスのパターンを見つけてみてください。
複雑なものを複雑なままに扱うのであれば難しいですが、パターンが見つかると簡単に思えてきます。お試しあれ。
今回ご紹介したプロセスのパターンは、いずれも循環しておりサイクルを構成しています。次回は、サイクルにおいて発生するフィードバックについて見ていきます。
◆◇◆◇ コラム:意見を書き出す効果 ◆◇◆◇
ミーティングでは、意見を出している人が言い終わるのを待たずに次の発言が出ることがよくあります。
- 言いたいことはもうわかるので後は聞く必要がないから
ということなのでしょうが、「もうわかる」と思った人と発言者の結論は違っていたかもしれません。
- 話し方が回りくどいから
ということかもしれません。その場合は、聞く側が発言者に結論を促す気遣いがあってもよさそうです。
- その意見には価値がないと思うから
という気持ちの表れかもしれません。価値の有無は簡単に判断することは難しいでしょう。とんでもないと思われていたアイデアがイノベーションにつながる事だってありそうです。
- 自分の意見と違う発言のようなので、すぐに反論したいから
- 自分の意見を否定する発言のようなので、すぐに反論したいから
- 自分と対立する意見なので、潰してしまいたいから
と思うこともあるでしょう。このような時は得てして声が大きくなるもので、声の大きさで議論が左右されることなりがちです。自分の意見にまとまったことで相手に「勝った」と妙な勘違いをしたり、自分の意見を否定した相手を「憎い」と思ったりすることもあるでしょう。「人」対「人」の構図になってしまいます。
言葉は発した瞬間に消え去るので、じっくり考えるには書き出してみることをお勧めします。本文にあるように、意見を付箋紙や模造紙などに書き出し、壁など全員が見ることができる場所に貼り出します。ホワイトボードでもいいですが、発散した意見を収束させるには、意見単位で動かすことができる付箋紙がお薦めです。記述がわかりにくいときは、質問して必要に応じて説明を書き足します。
書き出して貼り出すことで、「意見」を発言者から切り離すことができます。参加者が意見を客観的に捉えられるようになり、「勝ち負け」などという不毛な考えは薄れ、「問題」対「アイデア」という構図になるため、本来の目的に沿った議論を進めやすくなります。また、発言することに気後れしてしまう人の意見も吸い上げることができます。
「人の意見を最後までしっかりと聞く」
プロジェクトに限らず、仕事(にも限りませんが)においてはこのコミュニケーションの基本が守られないことがよくあります。これでは物事はうまく進みません。参加者の相互理解を促進し、活性化することの総称をファシリテーション、これをサポートする役割をファシリテータと呼びますが、仕事をする上で不可欠なスキルと言えるでしょう。
(株式会社SRA:土屋 正人)
【参考文献】
- 堀公俊『問題解決ファシリテーター』東洋経済新報社(2003)
- 堀公俊/加藤彰『ワークショップ・デザイン』日本経済新聞出版社(2008)