プロセスを変える - ビジョン

2012年1月24日(火)
野島 勇土屋 正人

逆から考えてみる

望んでいる状態が分かってきたとして、次には「その状態にどのように到達するのか?」という新たな問いがでてきます。しかし、現状から考えるとどうしても到達できるとは思えません。現状から未来を想像すると様々な経路が想像されます。そのどれもが望む未来像に辿り着けないというわけです。

発想を転換して、未来から考えます。望ましい状態に到達するために、どのような状態を経るのかを未来から順に考えます。例えば、顧客との協調関係が築かれている状態が望む状態だとし、現状は顧客との会話が殆どない状態とします。まず、協調関係が具体的になっていないので、具体的にします。協調関係とは、双方ともにざっくばらんに希望を言い合いながら、互いの利益を考えつつ、最善の成果を生み出す関係と考えたとしましょう。すると、ざっくばらんに希望を言い合う状態にどのように到達するのか、互いの利益を考える状態へはどう到達するのか、などのように分解して考えることが出来ます。さらに、これらの状態にどのように到達するかを考えていきます。

図4:未来から考える

ゴールの状態を具体的にしながら分解していくというプロセスは、システム開発と全く同じです。プロセス改善とシステム開発の基本は同じです。

自分たちだけで何とかなるものではない

先の顧客との協調関係の例のように、活動の取り組み方を変えることには多くの人が関わります。そのために、チームの自由になるものでなく、それが諦めの理由になります。他者を変えることは確かに出来ませんが、他者に影響を与えることであれば可能です。

影響を与えることを考える前に、影響を与えられる時について考えてみましょう。どのような時に他者の影響を受けて行動を変えようと思うでしょうか?色々なケースが考えられると思いますが、例えば、自分のことを理解して尊重してくれていると感じた時、論理的に正しいと思えた時、情熱を感じた時、などと様々あると思います。少なくとも、自分に敵対してくる人に協力したいとは思わないはずです。

影響を与えることを考えるなら、敵対せずに、他者が何に心を動かされるのかを理解することから考えます。活動の取り組み方を変える時大きな影響力を持つ人は誰でしょうか?まず、決定権を持つ人と決定権を持つ人に大きな影響を与える人(決定権を持つ人が信頼している人)を明らかにします。次に、それらの人の関心を明らかにし、どのように働きかけるかを考えます。より詳しくはステークホルダーズ分析を調べてみてください。

図5:ステークホルダーズ分析の例

望んでいる状態やそこへと至る道筋を考える時、チームの利益だけでなく、他の関係者の利益までを考えることで影響を与え易くなり、チームの望む状態へと到達し易くなります。自己中心的で、戦いを挑んでくるような人が嫌なのは、多くの人に共通していることです。しかし、これを出来ないことが多いようです。「あの人は嫌い」「あの人は間違っている」などの思いを持っていると、「なぜ、私があの人の利益まで考えなくてはいけないんだ」と思えてきます。その結果として、自分たちの利益すらも棒に振ってしまいます。

おわりに

今回は未来に焦点を定めて話を進めました。第2回では「プロジェクトの達成に人を惹き付ける魅力的なビジョンが存在していることを前提」と書きました。未来を描くということは、ビジョンを描くということです。何気なく思い描く未来は、過去の記憶の延長となりがちです。そこから抜け出した未来を描くことは困難でもあります。そのための方策として下記を考えることがポイントになります。

  • どのような未来を創るのか?
    • 思いつかない場合には、問題点を反転する
    • なぜ、それが望ましいのか?
  • 望む未来にどのように到達するのか?
    • 未来から考える
    • 具体的にする
    • 分解する
  • 他者が何を望んでいるのか?
    • 誰が決定権を持ち、誰が決定権を持つ人に影響を与えるのか?
    • その人たちの関心は何か?

ビジョンを描き続けることは難しいことだと思います。ビジョンか、現実か、どちらかに偏ってしまいがちです。ビジョンと現実の両方を視野に入れながら行動し続けることこそが要点です。しかし、それを難しくする要因が「嫌悪」「諦め」「焦り」などの心の要因です。

次回は、プロセスを機能させなくする要因について扱ってみようと思います。まだ「時間が足りない」という理由について対応を述べていませんので、次回のなかで扱います。

◆◇◆◇ コラム:バックキャスティング - 未来からのふりかえり ◆◇◆◇

未来を考える時、「これから何をするか」、「今から何が出来るか」というように、現在を起点にすることが多いと思います。このような考え方(Forecasting)に対して、未来像を先に定めて、そこに至るまでに「何があったのか」、「何をやったのか」を考える「バックキャスティング(Backcasting)」という考え方があります。「未来からのふりかえり」ともいうべき手法で、ありたい姿、あるべき姿はイメージできるが、現状とのギャップが大きいと感じる時にやってみると効果があります。

バックキャスティングは名前こそ目新しいですが、私たちは普段から行っているはずです。例えばお客さまを訪問する時、

・約束した時間にお客さまに会っている
→お客さまの最寄り駅に約束の15分前に着いた
→自社の最寄り駅に約束の1時間前に着いた
→資料の準備が前日に済んだ
→ …

というように未来を起点に何をやったのかを考えます。
プロジェクトではWBSを作成しますが、これも納品という未来から遡って、何があったか、何をやったか、と現在まで考えていくことで、必要なタスク、成果物、リスクを洗い出すことが出来ます。

このようにバックキャスティングなどという言葉は知らなくても、私たちは無意識的に行っているわけですが、未来の姿を意識的に持つことで、未来への道筋を見いだすことが出来るのではないでしょうか。

(株式会社SRA:土屋 正人)

【参考文献】

  • マーティン・セリグマン『オプティミストはなぜ成功するか』講談社(1994)
  • M.チクセントミハイ『フロー体験 喜びの現象学』世界思想社(1996)
  • 田村 洋一『組織の「当たり前」を変える』ファーストプレス(2006)
  • 森 時彦、ファシリテーターの道具研究会『ファシリテーターの道具箱』ダイヤモンド社(2008)
株式会社SRA

(株)SRA コンサルティンググループ所属。米国スリーインワン・コンセプツ社の提唱するストレスマネジメント手法を実践する同社認定のコンサルタント・ファシリテータ。人間の心に興味を持ち、脳科学、心理学、仏教などを学ぶ日々。個人と組織の力を引き出すために、ファシリテーションを社内外に展開中。

株式会社SRA

産業開発統括本部 製造・組込システム部 コンサルティンググループ オブジェクトモデリングスペシャリスト
1956年生まれ。コンピュータメーカを経て1982年にSRAに入社。
最初の10年は、プラント制御やデバイスドライバ等のリアルタイムシステム開発に従事。次の10年は、Webアプリケーション等のビジネスアプリケーション開発に従事。この間に習得した様々な分析設計手法を活かして、次の10年は、開発プロセスのコンサルテーションを担当中。趣味はクラシック音楽とギター、本格ミステリ、仏教(宗教としてではなく哲学・心理学として面白い)。

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