プロセスを駆動する - メンタルモデル
仕事を任せられない
仕事が多い人は仕事がより多く、少ない人はより少なくなる傾向があります。仕事が増え続ける人は心の平穏どころではなく、より一層と仕事が増えていきます。他の人に仕事を任せられればよいのですが、他の人たちに仕事を頼めば余計に仕事が増えるように思えることがあります。その仕組みを因果ループ図で描いてみます。
図2:人が無能になる仕組み |
図2は右と左のそれぞれで循環しています。まず、右半分を見ます。例えば、仕事を頼む先の部下やチームのメンバーを思い浮かべてください。その人に無能のレッテルをどれだけ貼っているでしょうか?無能のレッテルを貼る程に、その人の不足が目に付きます。そして、「あれが足りない」「これがダメだ」と不足の指摘が増えることになります。不足を指摘された人は、反発をしてくるか、無力感に陥ることになります。反発をすれば攻撃的な態度や立場を守る態度をとるようになり、仕事として大切なこと以外のことをし始めます。無力感に陥れば、何もしなくなったり、言われたことだけをして責任を取らなくなったりしてきます。これらを破滅的な行動と呼ぶことにします。破滅的な行動が増えれば、それを見てさらに無能のレッテルを貼ることになります。
今度は左半分を見ます。無能のレッテルが少なければ、良い点が目に付くようになり、その人の良さを認めることが増えます。認められた人は、それによって自分が役に立っているという効力感を強めると共に、続けて行おうという意欲が増すことになります。これが貢献する行動、すなわち生産的な行動を増やし、無能のレッテルは貼られないようになってきます。
認めるということ
プロセスは仕事の流れであり、人の動きです。人の動きが滑らかなのか、ガタガタなのか。ガタガタなのであれば、抵抗を取り除き、滑らかに流れるようにします。流れを滞らせる原因は、仕組みだけでなく、メンタルモデルにもあります。第1回に書きましたが、ガイドラインやルールは導線や枠として働きます。それらが流れを滞らせる場合があります。導線や枠が滑らかでも、その中を流れる仕事、つまり人の動きが滞ることもあります。ここにメンタルモデルが関わってきます。混乱を嫌うために人との関わりを避ける。変化を避ける。他者や自分に無能のレッテルを貼ることで破滅的な行動をとる。人の心は、創り出す現実に影響を与えます。
私も他者に無能のレッテルを貼ることがあります。関わる人の殆どを無能としてみていたような時期もあります。世界は酷いところで、こんな世界にいることは耐えられないと思うことも多々あります。いなくなってしまいたい、全てが壊れてしまえばいいのにと思うこともあります。他者を無能としてみる自分、破滅的な自分を嫌いになることもあります。
第6回でビジョンについて書きました。その中で問題点を反転するという話をしました。そうして見ると、生産的で、他者の価値を認めた自分でいること、世界が素晴らしいところであると思えることを望む自分がいることを知ることができます。
人は他者に変えられることを嫌います。自分は他者から変えられたくはないのに、自分の都合のよいように他者を変えようとします。他者を変えることで、自分の望みを果たそうとします。人には個性があり、向き、不向きがあります。木を切るために包丁を使えばなかなか切れず、料理をするために斧を使えば難しいように、個性にも使い方があります。
私は他者を、世界を、そして自分を認めることが多くの問題を解決するきっかけになると思っています。認めることで個性を有効に使う方法を学ぶことができ、互いの個性を認め合うことができます。まずは、自分自身が認め始めること。誰にも求めずに自分が行うことだと思います。日々、出来ないことが多くとも、少しずつ歩めればと思っています。
おわりに
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。分かりづらい表現、偏狭とも思える内容、当たり前すぎると思われる内容などあったと思います。Facebook、Twitter、Google+のいずれも実名で使っておりますので、感想など頂けると幸いです。
読者のみなさまの、日々の生活が少しでも良くなることをお祈り申し上げます。
◆◇◆◇ コラム:仏教に学ぶ心のモデル ◆◇◆◇
仏教に「六道輪廻」という考え方があります。六道とは以下を指します。
- 天道 天人が住む世界。苦しみはほとんどない。
- 人間道 人間が住む世界。四苦八苦の世界。
- 修羅道 阿修羅が住む世界。戦い、争いの世界。
- 畜生道 畜生が住む世界。本能だけで生きている世界。
- 餓鬼道 餓鬼の住む世界。餓えと渇きに悩まされる世界。
- 地獄道 罪を償わせる世界。
一般的には、人は死ぬと六道のいずれかに行く(輪廻する)ことと思われていますが、仏教でいう六道輪廻とは心の状態を示します。心が穏やかで満ち足りていれば天道に、怒りに支配されていれば修羅道に、という具合に心の状態が遷移することを示しているわけです。
自分と違う意見の人を不愉快に思うことがありますが、意見そのものに対してではなく、意見を出した人に敵対心や反感を抱くとき、自分の心は修羅道にあります。このことを認識して、人間道に戻るべくコントロールを試みることが大切だと思います。
また、他者とメンタルモデルを同じくすることが出来ると、自分も他人もないという境地に立つことが出来ます。これは仏教の「自他不二」あるいは「諸法無我」という教え―考え方につながります。もっとも、この境地に到達するのは容易なことではないでしょうが。
このように仏教は宗教として(だけ)ではなく、考え方を学ぶ上で非常に有益なヒントを与えてくれます。
忙しいという漢字は「心」を「亡くす」と書きます。また、「心」と「亡」を縦に並べると「忘れる」になります。忙しくなると、本文にあるように悪循環に陥ったり、他人の良いところを忘れたりしがちです。そんなときこそ、いったん立ち止まって自分を見つめ、自身のいる世界を見渡し、人間道に立ち戻るために亡くした心を取り戻すことが必要でしょう。
(株式会社SRA:土屋 正人)
【参考文献】
- ピーター・M・センゲ『学習する組織』英治出版(2011)
- J・クリシュナムルティ『人生をどう生きますか?』コスモスライブラリー(2005)
- エイミー・ミンデル『メタスキル―心理療法の鍵を握るセラピストの姿勢』コスモスライブラリー(2001)
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