オープンソースの最新トピックと、ビジネス活用のポイント(OSPセミナーレポート前編)
オープンソース・ソフトウェア(OSS)とは、ソースコード(プログラム)が公開されていて、一定のライセンス基準にあてはまれば自由に開発、改変できるソフトウェアを指す。代表的な例としてLinux等が知られているが、Webサイト構築に使われることの多いWordPressや、データベースソフトのMySQL、クラウド基盤ソフトのOpenStackなど様々な分野に広がり続け、今や誰もが何らかのOSSを使う時代になってきている。
ビジネスの現場でもこの流れはとどまらず、現在多くの企業がOSSの導入に前向きだが、メーカー製の商用ソフトとは異なり、ユーザーにもある程度の理解が求められたり、また必要な機能を自ら開発したり、あるいはコミュニティにリクエストできるなどの面もある。
そんなOSSを、ビジネスの現場でどうやって導入し、活用すれば良いのか。Think ITでは4名のスピーカーを迎えて、OSSユーザーの悩みに応えるためのセミナーを6月下旬に開催した。2回にわたって、当日の様子をお届けする。
オープンソースのトレンドと安心・安全に活用するポイント
基調講演では、株式会社日立ソリューションズでオープンソース技術開発センタ長を務める吉田行男氏より、オープンソースの最新動向をはじめ、クラウド基盤OSのOpenStackがなぜ注目されているのかなど、OSSを様々な角度から分析した。
オープンソース・ソフトウェアの近況
吉田氏は、まず国内のソフトウェア市場について、Windows XPからの移行などで活性化していると話す。オープンソース・ソフトウェア(OSS)の動きについては、IDCのデータから、国内企業の導入率が前年を上回る32%と紹介した。
ただし、実際にOSSを導入するのはシステムを自社開発する大企業が中心で、ミッドレンジの企業はOSにWindowsを選択することが多いため、その流れからパッケージ製品を導入してシステムを作る傾向が強いという。
ここ1〜2年で仮想化・クラウド系のツールが非常に伸びてきており、もともとハードウェアであるストレージ分野でも、仮想化によるSDS(Software Defined Storage)でOSSを活用していること、OpenStackの動きが活発であることが伝えられた。
また、最近は業務系でもOSSが使われていることや、Red Hat社のエンタープライズ向けOSであるRHEL 7で、MySQLではなくMaria DBをサポートすることが紹介された。MySQLは依然として高いシェアを誇るが、やはりデータベース製品を保有しているOracleがSunを買収したことが影響していると考えられる。
吉田氏は過去を振り返りながら、OSSが普及し始めた2000年頃は、OSとしてLinuxを使うのが主だったが、2004年頃からOSSを積極的に使おうという動きが本格化してきたと説明。最近では勤怠管理のMosPや、CRM、ERP、文書管理といった業務分野まで利用が広がると同時に、スマートフォンのOSであるAndroidや、Firefox OS、SAMSUNGのTizenなど、サーバーから組み込み分野まで広がっていると話す。
最近OSSで起こっている2つの大きな変化
次に吉田氏は、OSSについて2つの大きな変化が起きていると紹介した。
OSSの使い方の変化
一つはOSSの使い方で、これまでは商用ソフトをどうやってOSSに置き換え、コストを削減するかというのが主なテーマだったのに対し、OSSのイノベーションを上手に使って、新しいマーケットを作っていこうという動きが活発化しているという。具体的にはHadoopを使ったビッグデータ解析がその一つだ。
Javaベースで書かれ、大量にマシンを並べて計算を行って素早く結果を返すことのできる解析ソフトのHadoopは、YahooやFacebookなどで採用されており、例えばNewYorkTimesでは過去の書籍をOCRしてクラウド上に保存する取り組みが行われている。
このHadoopをバッチ処理に特化したのがノーチラス・テクノロジーズのAsakusa Frameworkで、難しい知識がなくても大規模データの分散処理するためのプログラムであるMapReduceが使えるようになっている。
吉田氏はフレームワーク誕生の経緯として、ベーカリーショップのアンデルセンを紹介。1回あたり4時間もかかっていた原価計算をできるだけ早く処理したいという要望から、このバッチ処理のシステムが生まれたという。
Asakusa Frameworkの導入後は、これまで4時間かかっていた原価計算がたったの20分で終わるため(その内の10分はデータ転送時間なので、処理自体は10分程度)、日々実施することが可能になったという、また、AWSを使用しており、必要な時間だけの課金で済むためコスト削減の効果も大きい。このように、OSSを使って新しいビジネスの広がりを感じることができたという。
OSSに対する認識の変化
2014年に入って、SCSKがPrimeCloud Controllerというクラウドの統一的な管理ソフトをOSS化したことが発表された。また3月には、デザイン指向のクラウドオーケストレーションツールであるCloud ConducterをTISがOSS化。吉田氏の属する日立ソリューションズでも、Windowsの.NET環境でアプリケーションを作るためのフレームワーク「Open棟梁」をOSS化している。
このように、ソフトウェアを開発して販売する企業が、自分たちの作ったソフトをOSSとして公開するような、新しい動きが発生しているのがもう一つの変化となる。
吉田氏は、クラウド時代において単体のソフトウェア製品を買うのが環境になじまなくなってきているためだと分析する。ソフトウェアはビジネスのためのツールであり、そこから生まれる価値でお金をもらうのが本来のビジネスだという考えだ。
これまでのようにOSSを使うだけでなく、自分たちも開発しよう、貢献しようという意識の変化が大きく、セミナーの出席者にもその重要性を説いた。
ユーザーサイドで考えること
OSSに限らず、ユーザー企業が何かを導入する時は、メリットを常に気にしている。OSSの場合は、例えばコスト削減やベンダーロックインの排除、最新技術、競合他社との差別化などがある。
しかし、OSSには注意点もそれなりに存在する。メーカー製品でないOSSは、社内の誰がサポートするのかという課題が常につきまとうし、ライセンスや特許などについても、ユーザーは知っておく必要がある。特に扱いの難しいGPLライセンスは注意が必要だ。GPLライセンスについて詳しくは以下の記事も参照のこと。
参考:コピーレフト型と非コピーレフト型OSSライセンスの違いとは?(今日から始めるOSSライセンス講座 )
また、やりたいことを実現するためには機能と一緒に性能も知らなくてはならない。OSS同士の組み合わせによっては動かない、あるいは性能が足りないことがある。バージョンによっても違いがあるので、しっかり検証するか、そういった情報を押さえる必要がある。
とは言っても、最近ではOSSの性能はずいぶん改善されている。自分たちで検証しきれない場合でも参考になるWebサイトもあるので、あまり悲観的にならずに積極的に使うことを吉田氏は推奨する。
SCSKが独自の基準でOSSを評価、ランキング化しているOSS Rader Scopeもその一つで、導入予定のOSSについて参考となる情報を得ることができる。
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