EnterpriseDBのCTOに聞いた、エンタープライズ版PostgreSQLのこれから
Oracle Databaseから最小のコストで移行
PPASなどEnterpriseDB社の「Postgres Plus」は、PostgreSQLをベースにした商用製品だ。両者の関係について尋ねると、Alsheimer氏は「コミュニティ版の機能をPostgres Plusはすべて含んでいて、そこに機能を追加しています。パフォーマンスやセキュリティなどにおいて、さまざまな企業のワークロードに応えるための機能で、パーティショニングの強化や行ベースのセキュリティなどがあります」と答えた。
「Postgres Plusの中でも、PPASのキーとなる追加機能は、Oracle Databaseとの互換性です。PostgreSQLの上のレイヤーとして機能を追加するだけでは、トランザクション性能に影響を与えてしまいます。PPASではPostgreSQLのコア部分に変更を加えて、Oracle DatabaseのPL/SQLをサポートしています」(Alsheimer氏)。
こうしてEnterpriseDBではOracle DatabaseからPPASへの移行を推進している。Alsheimer氏は「Oracle Databaseを使っていた既存のアプリケーションのコードを、少しの書き換え、または書き換えなしで、PPASに移行できます。データベース管理者(DBA)の再教育も不要です」と語る。
では、EnterpriseDBのPostgres Plus製品を採用する企業はどこを求めているのだろうか。追加された機能だろうか、Oracle Databaseとの互換性だろうか、サポートなどのサービスだろうか。
それを尋ねるとAlsheimer氏は「それは顧客により異なります」と答えつつ、「多くの割合がOracle Databaseからの移行で、そうしたケースではOracle Databaseとの互換性が評価されています」と答えた。
「そのほか、DB2やSQL Server、MySQLからの乗り換えもあります。そうしたケースではセキュリティやパフォーマンス、あるいはトレーニングやサポートなどが評価されてると思います。ちなみに、われわれの最大の顧客はDB2からの乗り換えです」(Alsheimer氏)。
Alsheimer氏の基調講演では、PostgreSQLがMySQL以上に成長していると語られた。これについて氏はインタビューで「PostgreSQLはMySQLと比較してエンタープライズ向けだと見られてきましたが、機能や強固さを求める人が増えたのかもしれません」と説明。さらに「もうひとつ、OracleがMySQLを買収して、ユーザーが将来を心配していることもあるのかもしれません」とコメントした。
KTの移行事例の講演も
実際に、エンタープライズ分野における、Postgres PlusやPostgreSQLの採用状況はどうなのだろうか。それについてAlsheimer氏は「PostgreSQLもPostgres Plusも好調で、採用が劇的に増えています。EnterpriseDBも、この3年間、70〜80%の成長が続いています」と自信を見せる。
Alsheimer氏は大手採用例のひとつとして、今回のEnterpriseDB Summit Tokyo 2014でユーザー事例として講演した韓国の通信企業であるKT社を挙げ、「ミッションクリティカルな部分での採用が続いています」と語った。
KTは日本でいえばNTTのような位置にある企業だ。講演したKTのHojae Lee氏も、「きわめて保守的な企業」と説明していた。しかし、コストを削減して競争力を高める必要を背景に、Oracle DatabaseからPPASに移行したという。
Lee氏はPPASを採用した理由として「PostgreSQLのコミュニティの信頼性」「ソフトウェアの安定性」「PPASのさらなる安定性」「Oracleとの互換性」を挙げた。「オープンソースといえども無料ではなくコストは必要」と経営層に説明し支持を受けて、PPASとサポートを採用したという。そのほか、自分たちでの検証や、DBAや開発者のサポートなどにも努めたことが講演で紹介された。
異なるワークロードの要件に対応する「middle-out」
一方、PostgreSQL 9.2以降では、JSON型のデータをサポート。現在ベータ段階のPostgreSQL 9.4ではバイナリJSON型をサポートするなど、バージョンごとにJSON関連の機能を強化している。JSON内のデータのSQLからのクエリやインデックスにも対応しており、Momjian氏は基調講演で「(JSON形式に特化したNoSQLデータベースの)MongoDBよりクエリが速い」と主張した。
Oracle Databaseのようなエンタープライズ、MySQLのようなインターネットサーバー、MongoDBのようなNoSQLと、異なる3つの方向を強化しているPostgreSQL。その中でどれが重要なのだろうか。
それについてAlsheimer氏は「すべて重要です。世の中にはさまざまなデータの要件があるからです。PostgreSQLは最も柔軟なデータベースシステムであり、1つのソフトウェアでいろいろなワークロードに対応できます」と答えた。
NoSQLデータベースは、プログラマーにとってはスキーマレスで迅速に開発できることが人気だ。「しかし、NoSQLで開発してしまうと、IT管理者にとっては大変です。NoSQLではビジネスロジックがすべてアプリケーションに置かれるため、データの再利用性や整合性に難があります。GartnerのアナリストであるNick Heudecker氏は『2017年にはNoSQLにあるデータの50%は害を及ぼすものになるだろう』と言っています」とAlsheimer氏は主張した。
これをPostgreSQLはどう解決するのか。筆者の疑問にAlsheimer氏とMomjian氏は、ACID準拠なSQLデータベースの中にデータ型としてNoSQLのデータを格納することで、NoSQLのスキーマレスな柔軟性を、データの整合性やロジックのある中で利用できると説明した。
「そのほか、複数のデータベースシステムを利用するとなると、サポートやトレーニングが大変です。PostgreSQLがすべてのワークロードに対応することで、複数のデータベースのサポートやトレーニングが不要になります」(Alsheimer氏)。
こうしたPostgreSQLの多方向への対応について、Alsheimer氏もMomjian氏も基調講演で「middle-out」と表現した。
「かつては、商用データベースほどエンタープライズに強いわけでなく、MySQLほど簡単ではない、という“middle”でした。今は、エンタープライズ対応も簡単さも両立し、さらにNoSQLのワークロードにも対応した、革新的な“middle”となりました」(Momjian氏)。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- エンタープライズDB、開発者の効率向上とDBA管理を支援する新バージョン「Postgres Plus 9.4」をリリース
- エンタープライズDBのCMO、PostgreSQLの静かな躍進を語る。
- システムインテグレータ、「SI Object Browser for Postgres」の新バージョン2.0を提供開始
- PostgreSQLのEnterpriseDB、リーンなビジネスでオラクルマイグレーションを推進
- ハイブリッドDBaaS戦略で企業のイノベーションを支えるEnterpriseDB
- アシスト、自社の勤怠管理システムのデータベース基盤に「Postgres Plus Enterprise Edition」の最新バージョン9.4を採用
- エンタープライズDB、PostgresとMySQLのデータベースをリンクするオープンソースツールを発表
- システムインテグレータ、「SI Object Browser」のPostgres対応版を提供開始
- アシスト、仮想アプライアンス「DODAI-V」を提供開始
- アシスト、エンタープライズデータベース「Postgres Plus Advanced Server 9.3」の各種支援サービスを提供開始