GitHub Satellite都内で開催。MSによる買収発表後もブレない姿勢を見せる

2018年7月6日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
GitHubが都内で2日間のカンファレンスを開催。マイクロソフトによる買収発表後の動きが注目されたが、ブレない姿勢が逆に印象的だった。

ソースコードリポジトリーのGitHubが、2018年6月12日と13日に都内でプライベートカンファレンス「GitHub Satellite」を開催した。マイクロソフトによる買収発表の直後ということで注目が集まったせいか、多くの参加者が新たにオープンしたTOC五反田メッセに集まった。

昨年は倉庫跡を改装した小ぶりな会場で行われ、参加者も約200名という規模だったが、今年は参加者も約800名と大幅に増え、セッションも多種多様なものとなった。2日間の会期は、1日目がCommunity、2日目はDeveloper in Businessとテーマを分けてセッションが実施された。今回は、1日目のキーノートに関するレポートをお届けしたい。

まず登壇したのは、GitHubの日本法人であるギットハブ・ジャパン合同会社の代表となるカントリーマネージャーの公家尊裕氏で、GitHubの企業としての特徴(例えば65%の社員がリモートワークであることなど)を紹介した。

カントリーマネージャーの公家氏。日本でのGitHubの成長を紹介

カントリーマネージャーの公家氏。日本でのGitHubの成長を紹介

そして初日のメインスピーカーであるJason Warner氏を紹介。ここから初日のキーノートセッションが始まった。

SVP of TechnologyのJason Warner氏

SVP of TechnologyのJason Warner氏

Warner氏はSenior Vice President of Technologyというタイトルからもわかるように、非常に技術に詳しいエンジニアで、かつてはHerokuで働いていた経歴を持っている。Warner氏については、昨年のGitHub Universeでのインタビュー記事も参照していただきたい。

GitHub.comが産み出すデータの活用法とは? 責任者たちが未来のソフトウェア開発を語る

Warner氏は、アポロ計画の際に開発されたソフトウェアのソースコードが印刷されて積まれた写真を見せながら、ソフトウェア開発の過去を振り返りつつ、ソースコードリポジトリーとしてのGitHubの成長ぶりを紹介した。特に「全ての企業はソフトウェアによってイノベーションを起こす企業となるべき」であると語り、過去にアメリカのIT企業が盛んに語っていた「Software is Eating the world」というマーク・アンドリーセンの言葉から発展した「Every company is an software company」をもう一段階進めた言葉を使って、ソフトウェアを使って企業の変革を進めることが必要であると力説した。そしてその際にGitHubは、重要なコンポーネントとして企業を支援することができるというのがメッセージだ。

続いて、日本マイクロソフト株式会社のCTO、榊原彰氏が登壇する。榊原氏の参加は、先日の買収発表を受けて急遽キーノートに組み込まれたというもので、ぎりぎりの登壇依頼をたまたま榊原氏の予定が空いていたため引き受けられたということだったようである。この辺りは、まさに「運を持っている」人がいた、ということなのだろう。

日本マイクロソフトのCTO、榊原氏

日本マイクロソフトのCTO、榊原氏

榊原氏は冒頭から「設計図共有サイトのファンのみなさま、こんにちは!」という挨拶で、会場を爆笑させていた。ご存知のように「設計図共有サイト」は、日本の経済紙がマイクロソフトによるGitHub買収発表のニュースを掲載した際に、GitHubを形容した言葉である。

そしてマイクロソフトが目指す世界観やゴールなどを説明し、その中でソフトウェア開発者の重要性を強調。特にGitHubの独立性を維持した上で、ソフトウェア開発をさらに支援することを約束した。特に「GitHubの買収について、マイクロソフトを知っている人からは不安を覚えるとコメントされた」ことについて、これまで同社が買収したLinkedInやMinecraftについても、独立性を保ったまま運営が行われていると説明した。そして、説明だけではなく「今後の活動を見て判断して欲しい」と語り、スピーチをまとめた。

ちなみに昨年行った榊原氏へのインタビューも参考にされたい。

日本マイクロソフトCTOが語る“普通のOSS企業“になったマイクロソフトとは

榊原氏が指摘したように、かつてのマイクロソフトのLinuxに対する態度や経緯を知っていれば、「GitHubは大丈夫か?」「もうGitHubではなくGitLabに移行する」という不安やコメントを口にしたくなるという人も多いだろう(ちなみにGitLabは、Microsoft Azureでホスティングされているということは知っておいて損はない)。

しかし筆者が過去4年ほど海外のオープンソース系カンファレンスを取材して感じるのは、マイクロソフトが真剣にオープンソースソフトウェアに対して取り組んでいるということだ。同社がオープンソースソフトウェアに関わっているエンジニアを多数雇用している点にも、それがよく現れている。

そのため筆者としては逆に、「GitHubを買収したのがマイクロソフトで良かった」という印象が強い。つまりGitHubのインフラストラクチャーではなく、Azureによるインフラストラクチャーの堅牢性や、マイクロソフトが持つ様々な開発ツールとの連携など、これまでできていなかった部分が埋められていくことは、開発者にとってプラスになることばかりであると判断している。

特にこれまでLinux系ツールが多かったCI/CDやDevOps、さらに昨今じわじわと流行る様子を見せているGitOpsなどにおいて、エンタープライズ企業に多いWindows系デベロッパーにとって、よりクロスプラットフォームなツール環境が実現することまで予想できるだろう。

ただお互い独立であるとしても、LinkedInの情報とGitHubで活動しているエンジニアの情報をリンクさせることで、より包括的にエンジニアのプロフィールを構成できることは、すでにGitHubもLinkedInもマイクロソフトも気づいてはいるだろう。それを具体的に「いつやるか?」という問題かもしれない。この質問は、10月のGitHub Universeでぶつけてみようと思う。他にどのようなソリューションが出てくるのかは、10月に行われる予定のGitHub Universeまでお預けということになるだろうが、これからもGitHubとマイクロソフトの動きに注目していきたい。

参考:GitHub Universeオフィシャルサイト

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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