Red Hat Forum開催。IBMによる買収にも自信をみせるCEO

2018年11月14日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
レッドハット株式会社が年次カンファレンス、Red Hat Forum 2018 Tokyoを開催。IBMによるRed Hat買収の発表を受けて、例年にない盛り上がりをみせたカンファレンスとなった。

レッドハット株式会社が年次カンファレンスであるRed Hat Forum Tokyo 2018を開催した。10月30日にIBMによるRed Hat買収の発表があり、その直後のカンファレンスということもあって、発表直後から申し込みが殺到したそうで、会場となったウェスティンホテルの地下宴会場が人で溢れかえることとなった。

このカンファレンスは、例年であればCEOのJim Whitehurst氏、それにプロダクトとテクノロジーのプレジデント、Paul Cormier氏もしくはCTOのChris Wright氏というビジネスと技術の2本立ての布陣でジェネラルセッションを行うというのがスタイルだ。しかし今年は、Cormier氏が急遽来日を中止、代わりにRed Hat Enterprise Linux担当のVP、Stefanie Chiras氏が後半のRHEL関連のトークを行うこととなった。

ジェネラルセッションはレッドハット株式会社の社長、望月氏の挨拶から始まった。そして次に登壇したCEOのJim Whitehurst氏は、一番注目されているトピック、すなわちIBMによる買収について最初に説明を行った。

IBMによる買収について説明するWhitehurst氏

IBMによる買収について説明するWhitehurst氏

基本的にまだ完了していない買収について詳細に語ることは難しいが、Whitehurst氏によればIBM、Red Hatの双方に利のあるWin-Winな組み合わせということだ。特にテクノロジーと製品のトップであるPaul Cormier氏のブログポストを読めば分かるように、この買収は、かつては「プロプライエタリでロックインの代名詞」だったIBMが、Red Hatに対して340億ドルの価値を認めたという意味を持つ。このことをRed Hatがオープンソースソフトウェアの勝利と考えていることは明白だ。

最近のIBMは、多くのエンジニアがHyperLedgerやOpenWhisk、Istioなどのオープンソースソフトウェアに貢献を行っており、今となっては「プロプライエタリでロックイン」という表現は適していないのかもしれない。それでもRed Hatのオープンソースソフトウェアをポートフォリオに加えることで、IBMの営業担当は、AIX、WebSphere、MQなどのRed Hat製品と競合する製品以外にも選択肢が増えることになる。またRed Hatにとっても、IBMというエンタープライズ企業に最も信頼される営業力を手に入れることができたという意味で、得るものは大きい取引だ。

またWhitehurst氏は「Red Hatは独立した組織としてこれまで通り、オペレーションを行う」ことを明言しており、オープンソースソフトウェアに特化したテクノロジー企業としてのミッションはそのままであるということは、とりあえずは安心すべきポイントだろう。

このセッションのポイントはNTTデータと富士通が登壇し、それぞれOpenStack、OpenShiftという今、Red Hatが最もプッシュしているオープンハイブリッドクラウド戦略の中核をなす2つの製品に対するコミットメントを行ったという部分だろう。

Whitehurst氏と対話するNTTデータの木内強氏

Whitehurst氏と対話するNTTデータの木内強氏

OpenStackによるプライベートクラウド、そしてOpenShiftによるコンテナをインフラとしたサービスプラットフォームに、Lift&Shiftで顧客をクラウドにシフトさせるというのがNTTデータの発想で、富士通もOpenStackからOpenShiftという流れは一緒だ。両社の違いと言えば、富士通はグローバルに展開する自社の社内向けサービスもOpenShiftで開発し、利用するという辺りだろうか。

ちなみに、これまではPivotalが開発をリードするCloud FoundryをメインにPaaSを展開してきた富士通だが、展示ブースにいた担当者に聞いたところ、K5から続くCloud FoundryもOpenShiftも、そして素のKubernetesもサービスとしてそれぞれ提供を続けるという。顧客がクラウドに向かう手段は様々であり、ひとつのプラットフォームに強制することはせずに、選択肢を多く持って自由に選べるようにするという発想であるということだ。

プレゼンテーションを行う富士通の松本修氏

プレゼンテーションを行う富士通の松本修氏

富士通はRed Hat以外にもVMwareやSAPなどのソリューションも用意し、要所要所で最適なベンダーを選択するという発想は変わらないが、Red Hatがかなりの部分のソリューションを提供することは確かなようだ。

富士通のポートフォリオ。Ironicをベアメタルで利用

富士通のポートフォリオ。Ironicをベアメタルで利用

IBMとRed Hatの組み合わせに対して絶対の自信をみせ、NTTデータと富士通という日本のシステムインテグレーターからのコミットメントを取り付け、さらにこの後のイノベーションアワードというRed Hatが設定するユーザー表彰制度においても、NTTコムウェアを受賞対象とした辺りで、NTTグループの中核であるデータとコムウェアがRed Hatの優良顧客であることを十二分にアピールできたジェネラルセッションとなった。

その後に行われたメディア&アナリスト向けブリーフィングに登場したJim Whitehurst氏は、ジェネラルセッションのジーンズにノータイというスタイルからスーツにタイというフォーマルな姿でメディアからの質問に答えた。

ブリーフィングに登場したJim Whitehurst氏

ブリーフィングに登場したJim Whitehurst氏

ここでは「IBMが買いたがるのはわかるが、どうしてRed Hatを売るのか? オープンソースはこれで死んだという人もいるがその意図は?」という「日本最大の経済紙」からの質問に「Red Hatはこれまでも多くのオープンソースソフトウェア、コミュニティにリソースを投資してきた。この資金があればさらに多くのオープンソースソフトウェアに投資ができる。それはこれからのオープンソースソフトウェアにとってベストな行動だ」として、IBMによる買収をRed HatのIBM化というように捉えることを避け、むしろIBMがオープンソースソフトウェアに向けてシフトしたという発想であることを強調した。

筆者はブリーフィングの最後に「もしもIBMがWatsonをRed Hatの製品ポートフォリオに加えて欲しいと言われたらどうしますか?」という質問をJim Whitehurst氏に投げかけてみた。それに対して、「Red Hatはオープンソースソフトウェアの会社だ。だからプロプライエタリのWatsonがRed Hatのポートフォリオに加わることはないよ」と即答してくれたJim Whitehurst氏は、買収発表以来、怒涛のような激務が続いているとは思えないくらいに元気かつ上機嫌で、IBMとの買収を誰よりもポジティブに捉えているように見えたことが印象的であった。

参考:Paul Cormier氏のブログポスト:A monumental day for open source and Red Hat

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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