Red Hat Forumで開催されたTech Nightで語られたエンジニアたちの本音
レッドハットの年次カンファレンスであるRed Hat Forumは、レッドハットによるプレゼンテーションに加えて、パートナーやスポンサーによる事例発表も行われている。いわば、年に1回のベンダーがユーザーやパートナーを持ち上げる「接待」の側面もあるイベントと言っても良いだろう。パートナーにとってはセールスのリードを獲得するイベントでもあり、エンジニアもスーツ姿で自社のソリューションを紹介するというスタイルが多い。そのためオープンソースソフトウェアの技術的カンファレンスでありながらスーツ姿が多い今回のようなイベントは、北米で行われるRed Hat Summitとはかなり様子が違うと言える。
しかしIBMによる買収が発表された後の今年のRed Hat Forumは、これまでとは少し様子が違っていた。それは11月8日の夜に開催されたTech Nightに最も表れていたように思える。
Tech Nightは、レッドハット株式会社のエンジニアがRed Hat Forum直前に企画したエンジニア向けのセッションで、主旨は「レッドハット社員がとりあえずぶっちゃけトークを行う」とでも言ったものだった。Red Hat製品のドキュメントの読み方や、オープンソースソフトウェアのソースコードについて、レッドハット株式会社のエンジニアがパネルディスカッションを行うという前半。そして「ライトニングトーク」と称して、1人5分の持ち時間で思い思いの内容についてプレゼンテーションを行う後半という構成だった。
ウェスティンの宴会場に食事とドリンクを用意し、会場の前方には椅子席、後方は立ち見という配置の会場だが、200名以上の参加者でほぼ満員という状態で始まった。
会場の参加者からはツイッター経由で質問を募り、それを随時拾い上げて回答するという展開を目指していたようだが、トラブルや脱線もありで多少グダグダな進行になってしまった。しかし「レッドハット社員が使うPCはMacBookなのかWindowsなのか、それともRHELなのか」という質問に答えたり、レッドハットが用意するドキュメントについて「日本語ドキュメントだけでなく、英語のドキュメントにもあまり正確でない情報が載っていたりする」というネタばらしがあったりと、興味深い内容であった。昼間のセッションのまじめなプレゼンテーションとは、だいぶ異なる雰囲気のイベントであった。
しかし参加者は至って真剣に聞き入っており、ツイッターのハッシュタグを用いた質問にも的確なものが多く、関心の高さが現れていたようだ。
一方、会場後方の立ち見のスペースに目を向けると、ステージでの内容はそっちのけでノートブックPCを拡げて談笑するという、いかにもエンジニアといった参加者も多く見られ、各々がこの時間を楽しんでいるという様子であった。
後半のライトニングトークでは、普段は顧客向けにプレゼンテーションやコンサルテーションを行っているエンジニアが、それぞれが関心を持っているトピックについて説明をした。
技術書の出版についてのハウツーを語るエンジニアから、eBPF Filterの詳細な解説を行うエンジニア、Apache Camelのコミュニティの紹介など、本当にランダムと言っていい内容で、「5分で話せることを探したらこうなった」というのが本音だろう。
ライトニングトークを行うエンジニアをみつめる順番待ちをするエンジニアたち。食事とドリンクを摂取しながらフロアーに座り込んでいる様子は、いかにもオタクなエンジニアといった風情だ。
今回のセッションはレッドハット社員が企画してレッドハット社員が登壇するという楽屋オチが大量発生する内容になったが、カチッとしたプレゼンテーションではなく緩い内容になることは承知の上でこれを実現したことを評価したい。なぜならオープンソースソフトウェアがコミュニティに支えられているとは言っても、日本国内ではレッドハット社員が積極的にコミュニティを支援する、それを露出するという行為が少なく、レッドハット株式会社はやはり営業拠点としての存在であるというのが筆者の個人的な印象だったからだ。
もちろん、AnsibleやOpenShiftなどのエンジニアが集うMeetupが、レッドハット株式会社の会議室を使って何度も実施されていることは知っているが、それが年次カンファレンスのRed Hat Forumでの中で実施されることはなかった。また北米で開催されるRed Hat Summitなどで同時開催されるコミュニティ主体のセッションなどを、日本で行うのは無理だろうと思っていたのだ。
しかし今回、ビジネス主導のRed Hat Forumで、エンジニア主導の緩いイベントがレッドハット社員だけ、夜の時間という設定ながら実現したことで、これまであまり陽の目を見なかったエンジニア同士のコミュニティを露出し、レッドハットがちゃんと支援しているということをメッセージアウトする方向に進んでいく予兆かもしれない。
会場後方では、プロダクトソリューション本部の本部長である岡下氏も顔を見せており、表立って登壇することはなかったが陰ながら支援していることは明らかだった。レッドハット社員との会話で「もしもここにジーンズとTシャツ姿の望月社長が来たら、神イベントになったかもしれないね」と持ちかけると「そうかもですね(笑)でも別会場で接待してますから」と答えてくれた。もちろんこのTech Nightというイベントは、望月社長の承認済みであるという。
ビジネスだけではなく、コミュニティを支えるエンジニアを支援するレッドハット株式会社をもっと表に出して欲しい、そのためにも、このTech Nightは今回限りで終わらせてほしくないと感じられた。
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