連載 :
  インタビュー

ますます盛り上がりを見せる島根・松江市のIT産業。なぜ島根にITエンジニアが集まるのか (後編) ーちょうど良い環境は価値ー

2021年6月10日(木)
望月 香里(もちづき・かおり)

松江はIT人材の宝庫!?
IT企業が松江に求めるものとは

続いては、Ruby City MATSUEプロジェクトをきっかけに、松江に開発拠点を開設した企業を2社紹介しよう。

株式会社モンスターラボ:
築100年の趣あるビルをオフィスに

初めは、株式会社モンスター・ラボ(以下、モンスター・ラボ)だ。デジタルコンサルティング事業部 島根開発拠点責任者の山口 友洋氏にお話を伺った。

【参照】島根に新しく開発拠点を開設いたしました
https://monstar-lab.com/ml-news/140710_1/

モンスター・ラボは、システム開発などのデジタルコンサルティング事業とRPAなどのプロダクト事業を行っている。拠点を松江市に設けた理由は、代表取締役CEOの鮄川宏樹氏が島根県出身であり、同県で企業誘致をしていることを知ったことからだった。RubyWorld Conferenceや企業誘致・教育にRubyを活用しており、地方とITの結びつきを感じたそうだ。その頃、業務でRubyを使っていたこともあり、「仕事でRubyをもっと使えると思い移住した」と、山口氏は当時を振り返る。

モンスター・ラボは、築100年(大正14年築)の出雲ビルにオフィスを構えている。山口氏によると「松江に開発拠点を開設した2014年当時は、出雲ビルではなく、松江駅前の並びにオフィスを開いた」とのことで、年々採用で社員が増えてきた際に、近くには宍道湖と2本の川や食事処があり、さらに大正時代にはデパートだった出雲ビルは採用の際のPRにもなるだろうと考えて2016年11月に出雲ビルへ移転したとのこと。

社員は1名Uターン、他はIターンの計5名。通勤は歩きか自転車で、働き方も環境も社員からの評判は上々だ。特に街並みが綺麗ですごく気に入っていると言う。「現状の課題は人材不足。今後は、採用にもさらに力を入れていきたい」と山口氏は語ってくれた。

モンスター・ラボが入居する出雲ビルの外観。オフィスは築100年を超え、大正時代はデパートだった

元の内装を活かしたオフィスは古き良き時代を思わせる落ち着いた趣がある

株式会社モンスター・ラボ デジタルコンサルティング事業部 島根開発拠点責任者 山口 友洋氏

出雲ビルは松江市に登録されている歴史的建造物の1つだ

株式会社ソニックムーブ:
眺めの良さは価値

続いては、株式会社ソニックムーブ(以下、ソニックムーブ)だ。代表取締役社長の大塚祐己氏と、島根拠点エンジニアの坂原明裕氏にお話を伺った。

ソニックムーブは、アプリやWebの受託開発、主にLINEを活用したプラットフォームサービス「COMSBI」(こむすび)などのソリューション事業を展開するWeb系の開発会社だ。創業は2002年、社員は約80名。島根拠点のオープンは2014年、社員は6名。現在は完全リモートワークで、コロナ後も出社とテレワークを併用していく予定とのこと。

松江市にオフィスを構えた理由として、エンジニアリソースを確保する目的でニアショア拠点を探していた際、松江市の企業誘致見学ツアーに参加。「松江=Rubyの街」はITエンジニアが集まりやすい土壌があると同時に、環境の良さ、行政の手厚い補償と親身になってくれたことを挙げた。

現在は、宍道湖の目の前、島根県立美術館の近くにオフィスを構えている。オフィス選択の決め手として、大塚氏は「社員は車通勤なので、駐車場が確保でき、眺めの良い場所に惹かれた」と振り返る。

株式会社ソニックムーブ 代表取締役社長 大塚祐己氏

オフィスの目の前には宍道湖の素晴らしい景色が広がる

実際に松江市に拠点を新設したのは採用目的だったが、人口の母数が少ないが故、中途採用には苦労した。初めは採用活動(どこの媒体・サイト・エージェントを使うかなど)をどのようにすれば良いか分からなかったと言う。ただ、風土もあるのか、採用した人はとても真面目で、長期勤務してくれるという。「良い人材の宝庫という印象がある」と大塚氏。

エンジニアの坂原氏は、奥さまのご実家が島根ということ。より子育てしやすい環境を調べていた際、Ruby以外も言語を扱う進出企業が多数あり、松江市(現在は奥出雲町)に移住を決めたという。エンジニア目線から企業誘致により進出企業は増える中、「まだまだ人材が少ないことが今後の課題」と語る。

株式会社ソニックムーブ 島根拠点エンジニア 坂原明裕氏

コロナ後、リモートで仕事することが常となっている。現在、島根拠点は東京の事業所の1つという位置付けだが、「環境の良いところに住み暮らし、働くことは価値になる。給料水準の地域差もシームレスにし、会社全体として人材の質と量を上げていきたい」と大塚氏は語ってくれた。

宍道湖に面した大きな窓からの光がオフィス内を明るく照らす

宍道湖に沈む夕日を見るために、連日「夕日指数」を確認して多くの人が集まる

* * *

今回は松江に開発拠点を開設したモンスター・ラボ、ソニックムーブ2社の取り組みを紹介したが、現在までに、その企業数は40社以上になるという。松江市産業経済部 定住企業立地推進課(企業誘致・UIターンサポート)副主任の土江健二氏によると「行政による支援も、ここ数年は既存の企業サポートやパートナーとなりうる企業の誘致など、時と共にその支援も変わりつつある」と語る。

リモートワークが可能となった今、どのような環境に住み暮らすか。それは、人生の価値、豊かさに直結すると改めて感じた。人は暮らしの中で山が見えると心が安定すると聞いたことがある。ストレスフリーな暮らしは仕事においても関係すると実感している。あなたの自宅や職場から外を眺めたとき、山や自然は見えますか。

著者
望月 香里(もちづき・かおり)
元保育士。現ベビーシッターとライターのフリーランス。ものごとの始まり・きっかけを聞くのが好き。今は、当たり前のようで当たり前でない日常、暮らしに興味がある。
ブログ:https://note.com/zucchini_232

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