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  インタビュー

日立のAIなどデジタル技術を活用しDXに取り組むデジタルビジネス「ルマーダ事業」を支えるエンジニアに求められる人財像とは

2021年8月18日(水)
吉田 行男

デジタルトランスフォーメーションを推進するためには、データサイエンティストをどのように育成するかが鍵となってきます。今回は、日立の中でルマーダ事業の技術的なバックボーンであるルマーダデータサイエンスラボの吉田 順氏と徳永和朗氏に、活動の内容と求める人財像についてお聞きしました。

現在のお2人の業務内容を教えてください。

  • 吉田:ルマーダデータサイエンスラボ(以下、LDSL)のCo-Leaderとして、日立全体のルマーダ事業の推進を担当しています。ルマーダ事業とは、AIなどデジタル技術を活用しDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むデジタルビジネス全体の総称です。

    日立の中には、IT技術に強いチームと、発電や鉄道車両、昇降機などのインフラ設備に強いチームの両方があり、その両者をつなぐような仕事が多くなっています。例えば、鉄道車両などは海外にも納めているのですが、それらの設備の保守業務には、AIによって効率化・高度化できる領域がたくさんあります。デジタルを活用できる領域をそれぞれの事業部門で個別に担当するだけではなく、我々、LDSLが共通的に担い、コンサルティングや技術支援をしています。

    今後は、7月14日に買収を完了した米IT企業グローバルロジックのメンバーも含めて、AIやデジタルを活用し、お客さまとの協創のなかで、ルマーダで価値を出すというところに注力していくことになると思います。
  • 株式会社日立製作所 Lumada Data Science Lab. Co-Leader 吉田 順氏

  • 徳永:吉田と同じ組織になりますが、製造業の経験と知識とAIを組み合わせたり、今まで持っていた技術を組み合わせて先進的な事例を作ることがミッションです。現場に近いところで、データサイエンティストよりの業務を担当しています。

日立は、そもそも製造業としての部分が強いので、どのようにデジタルを活用するかということが課題だと思いますが。

  • 吉田:日立の中も随分と変わってきました。以前は金融や産業など業種ごとに組織も事業も完全に分かれていましたが、異なる業種の知見を組み合わせていくことが、お客様にとっての価値を上げられるということがわかってきて、日立内で別々の業種を担当する組織同士が組むというやり方が増えています。組み方の1つとして、ある業種向けのデジタルソリューションを別の業種へ応用するということがありますが、そのキーとなっている技術の1つがAIであり、データサイエンティストが活躍しています。

    LDSLでは、社内の各事業部から実習生を受け入れて、データサイエンスを学習してもらうというプログラムを毎年実施しています。そのプログラムでは、金融事業の担当者に鉄道事業の案件を担当してもらったり、家電事業の担当者に公共事業の案件を担当してもらったりと、異なる分野でのAI活用を学んでもらっています。これにより、AI活用スキルが習得できるだけでなく、様々な業種の担当者との「横のつながり」ができ、これが元の部署に戻った後に活きてきます。こういった活動により、組織の壁を越えて、人・スキルを組み合わせる雰囲気が自然にできてきたと感じています。

    実習は1年間で、データ分析やAIに関する座学を3か月実施した後、OJTを行います。さらに、社内にデータサイエンス部会という有志の活動があり、オンラインでのコミュニケーションや、AIハッカソンでスキルを競い合うイベントなどを通じて、データサイエンティスト同士の横のつながりを深めるように工夫しています。

    お客さまにもデータサイエンティストを育成したいというニーズがあるので、弊社での取り組みやノウハウをお客様にもお伝えするなど、育成支援のコンサルティングも手掛けています。

その社内のネットワークに社外の方が入ることはないのですよね?

  • 吉田:今は社内メンバーのみ参加していますが、将来的には社外に広げていけるのではと考えています。昨年、「ルマーダアライアンスプログラム」という、社会課題解決に向けてルマーダを活用するためのパートナー制度を立ち上げました。オープンイノベーションを志すさまざまなお客様やパートナー様に集まっていただいていますので、その中でも多く企業の共通課題であるデータサイエンティスト育成についてもコミュニティを立上げ、一緒に取り組めると良いなと思っています。

    日立のデータサイエンティストは、LDSLに現在110名、全社でやっと3,000名になりましたが、ここまで来るのに色々な悩みに直面しました。社外でも同じような課題で困っている方々がいらっしゃるはずなので、同じデータサイエンティストとして応援したいと思っています。

徳永さんは、キャリアチェンジをされたと伺いましたが、以前はどのような業務をされていましたか?

  • 徳永:青梅にあったデバイス開発センタという部門で会社生活を始めました。当時、日立のスーパーコンピュータ向けに開発したBiCMOSプロセス(CMOS*1とバイポーラトランジスタを1つのSiウェハ上に製造する技術)という特徴的な技術を用いて通信用のデバイスなどの開発に従事していました。また、この特徴的な技術を更に発展させたSiGe HBT*2 BiCMOS技術を開発し、社内製品だけでなく、社外向けにファウンダリビジネスも展開していました。しかしながら、該当事業の撤退にあわせて2013年にキャリアチェンジすることにしました。

    *1 CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor 相補型金属酸化膜半導体
    *2 SiGe HBT:Heterojunction Bipolar Transistor ヘテロ接合バイポーラトランジスタ

株式会社日立製作所 Lumada Data Science Lab. 担当部長 徳永和朗氏

半導体でも専門的な内容ですね。

  • 徳永:半導体事業でも、色々な人を巻き込み、さまざまな技術を組み合わせて製造プロセス、デバイスを作るプロセスインテグレーションという仕事をしていたので、その点はデータサイエンティストとも似ていると思います。

    また、元々、半導体の開発現場では、統計を用いた品質管理手法が徹底的に教育されていました。日々データをチェックし歩留りを管理、推定するなど、今でいうIoTの先駈けのようなことをしていました。例えば、因果関係はなんだろう、なぜこの故障が起きたのかなどを手作業で相関分析をして解いていました。今から思えば、決定木を使えば5分で終わることを一週間かけてやっていたと思います。製造業の現場では同じようなお悩みをお持ちのところが多いので、自分が取り組んできた経験をお伝えすることで、お客様にも価値をご提供でき、喜んでいただいています。

データサイエンティストに移ったのは、社内公募ですか?

  • 徳永:事業撤退に伴う人員再配置があり、私の異動もその一環です。当時、ビッグデータ分析の組織を作る動きがあったので、そこにエントリーしてはどうかと上司に声をかけてもらいました。しかしながら、始めてみるとさまざまな問題が発生しました。やはり、R言語やPythonのプログラミングが結構ハードルが高かったように思います。また、大規模データの分析手法に明るくなかったので、1年半、研究所でデータ分析の修行をさせてもらいました。

    そこで、一気に自身のデータサイエンティストとしての知識・スキルを身につけることができたと思います。書籍では、やり方は分かりますが、実際にはノイズのない綺麗なデータはないので、そのときにどうするかは、実践でないと学べません。本の通りやってみても、今度は処理速度が出ず、一晩かけても答えが出ないことが何度もありました。

日立の中にデータサイエンティストは何名ぐらいいますか?

  • 徳永:データサイエンティストとして人財は広がっています。目標に設定していた3,000名は、1年前倒しで2020年度実績として達成しました。1つのプロジェクトは5~6名のチームで担当します。その中には、さまざまなドメインの知識を持った人、スキルを持った人が集まっているので、シナジー効果が発揮されています。
  • 吉田:データサイエンス関連のプロジェクトはスピードが速く、3ヶ月単位でPoCを実施することが多いです。同時に4~5の複数のプロジェクトを進めることもよくあります。社内でデータサイエンティストの認定資格を設定しており、ブロンズ、シルバー、ゴールドの3段階になっています。中でも上位のメンバーがLDSLに所属しており、先進事例に取り組んでいます。一方、需要予測や画像認識など、ある程度テーマが具体的である場合はLDSL以外の事業部のメンバーが対応します。

    データサイエンティストが効率的にプロジェクトをこなせるように、AI活用のテンプレートやナレッジの共有も進めています。

お2人が考えられるDX人材に求められる資質について、技術的な側面とそれ以外の側面で教えてください。

  • 吉田:DXを進めるために必要となるスキルは広がってきています。お客様のDXを実現するためには、業務のドメイン知識だけでなく、AI、5Gネットワークやセキュリティの知識が必要です。また、エッジ側でデータ処理することも増えているのでロボットや設備制御の知識も求められます。とにかくトータルで考えないといけないことが山ほどあるので、これだけ知っていれば良いというわけにはいきません。例えば「データサイエンス」と「製造業の知識」、「データサイエンス」と「ソフトウェア」というように、最低でも2つぐらいの得意分野があることが望ましいです。

    その得意分野を日立、お客様、パートナーで組み合わせていく必要があります。AIは手段の1つにしか過ぎないので、それだけでDXができるわけではありません。特定分野での深い知識も必要ですが、広く浅くいろいろ知っていた方が良いこともあります。

    求められる知識が多く大変な時代ですが、社会を変えられる、お客様の業務変革に貢献できるという意味では非常に面白いと思います。今までは、業務に合わせてシステムを作って「はいどうぞ、ちゃんと動きますよ」という感じでしたが、随分変わりました。お客様と一緒に考えて業務を変えて、劇的に効率が上がったりするのはエキサイティングですね。
  • 徳永:発想力が必要だと思います。OSSなどの使えるツールは簡単に手に入ります。先日、LDSLでは、外部の方も交えてAIハッカソンを3週間かけて実施しました。普通に作ると何年掛かるだろうというものをたった3週間で作ることができました。分からないことは、すぐにネットで調べて、数時間で実装していく。すごいスピード感です。得意なところを軸として、柔軟な発想で、人をつないだり、ツールやソフトウェアをくっつけて新しいことができるのが、求められる人財だと思います。
  • 吉田:プロデュース能力とスピード感が必要だということですね。グローバル連携をすることで、もっと色々な知恵が入ってくることで、アイディアの幅が広がると思います。

新人には、どのような教育をしているのでしょうか。

  • 徳永:3,000人育成したノウハウがかなりあって、座学だけではダメだということで、OJTに力を入れています。

    何よりも、実際のデータを触ることが大事なのでメンターをつけて実案件で経験をしていく、それも1つのドメインではなく、いくつかローテーションしながら学ぶというところが成功の一番の秘訣ではないかと思っています。また、データサイエンス部会を通して、自己研鑽ではなく相互研鑽の場を作っています。
  • 吉田:日立にデータサイエンティスト職として入社してくる新人はもともとかなり素養のある方が多いので、基礎的な教育に時間をかけるより、OJTでリアルな現場を教えることが多いです。

では、逆に向いていない人はどのようなタイプの人でしょうか。

  • 吉田:デジタルビジネスの場合、今の仕事に固執し過ぎる人は難しいような気がします。こだわることは悪いことではないですが、世の中もどんどん変わりますし、業種・業態の境界も変わっていきます。職人気質も必要ですが、それだけでは難しい場合もあります。

「こういう人財が欲しい」というものはありますか。

  • 吉田:各分野において、それぞれ得意なスキルを持ったデータサイエンティストはほぼそろっているため、今後はこの業務はこう変えられるのではないかという発想力、アイディエーションのスキルを持っている人が良いと思います。DXだけでなく新事業開発でも必要な人たちかもしれません。そのような人を強化しなければいけないし、増やしていかなければいけないですね。

    日立の人は真面目なので、「問題があれば解ける」という傾向がありますが、これからは「問題を創れる」人を増やさないといけないですね。

ありがとうございました!

* * *

一般的に大きな企業は社内の情報共有が難しく、連携して動くことには高いハードルがあると考えられています。今回、お話を聞いたお2人はデータサイエンティストを育成する中で、さまざまな部署の技術者をつなぐことでこのハードルを超えていっているように思います。社外とのより一層の連携を図ることで、次の展開がどのように生まれるのかを楽しみにしたいと思います。

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進、技術検証を実施、OSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理の社内フローの構築支援を実施している。

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