スタートアップ成功の必須要素である「失敗」をどのように捉えるか?
はじめに
スタートアップに「失敗」は付き物です。では、その失敗をどのように捉え、対策を行なえば良いのでしょうか。
今回は2月20日に東京のランドロイド・ギャラリーで開催されたセミナー「Co-Innovation Base 対談編!『起業の科学』著者に学ぶスタートアップ成功の秘訣とは?」にゲスト登壇した、書籍『起業の科学 スタートアップサイエンス』著者の田所 雅之氏と、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社CEOの阪根 信一氏、同社CFOの地引 剛史氏の対談から、スタートアッパーにおける”失敗の捉え方”を考えていきます。
田所氏が過去に”やってしまった”失敗とは
2017年に著書『起業の科学 スタートアップサイエンス』が発売され、全国の書店で「話題のビジネス書」として紹介されるなどヒットを記録した田所氏。そんな田所氏も、スタートアップではさまざまな失敗をしたそうです。
日本で独立後、いくつかスタートアップを立ち上げた田所氏は、シリコンバレーのVCに誘われました。シリコンバレーというと”スタートアップの聖地”で「ピッチする側からピッチされる側に移りたい」という思いでシリコンバレーに行きましたが、今では「なぜシリコンバレー?」と感じているようです。
また、田所氏は「前の前のスタートアップで自分が欲しいものを作れなかったことは一番の失敗経験」とも語っており、これまでの経歴の中でさまざまな失敗をしてきたと言います。
地引氏の”壮絶”スタートアップ初期失敗談
一方、地引氏はある会社を買収して社長になりましたが、買収まではかなり大変だったようで、なんと買収した会社はライブドア事件で汚染されていました。
買収だけで1年もかかり、また名だたる弁護士事務所が4時間も直接議論を交わしたり、中国に探偵を送って株主が存在するかを確かめてもらったりと、熾烈な経験をしています。なんとか買収を終えた後も取りっぱぐれている売上を訴訟で回収したり、会社を建て直したりで一苦労。
会社のキモである事業を見たときは、「成長性の見込めない事業がほとんどだったので、それを切ったところ売上が2割になり、『どうしてこの会社を買収したのだろう』と思い、上司にも『どうしてこんな会社を買ったんだ!』と怒られました」(地引氏)。
会社を買収する理由はある程度の売り上げアップが見込まれるからですが、それが見込めず、しかも手間がかかるパターンだった場合、上司が怒るのも当然でしょう。
そんなことがあり、これまでやっていた事業とは別のデジタルマーケティング会社に事業を転換。ソニーやソネットから人を送り込み、データサイエンティストに分析してもらい、「テクノロジーを使ってターゲッティングをし、広告を打つ」をコンセプトにした会社に生まれ変わりました。
しかしその事業が始まってからも苦労の連続でした。「売るものもないのに、焦って営業部員を雇ってしまいました。人を雇ったら固定費が増えて3億円の赤字を出してしまい、またシステムが減損したので7億円もの純損失を出しました」(地引氏)。そこで地引氏は、7億円もの純損失をカバーするために「固定費を下げながら成長させる」という難題に取り組みます。
地引氏自身が「一生に一度しかやりたくない」と語る早期退職を実施してコストカットし、システムが構築されるまで、表向きでは「人とAIが支え合う」をコンセプトにしつつも、人海戦術をとることでお客様に価値を提供し、黒字化しました。
幸い当時はAIが未発達なこともあり、完全自動化にすることは困難でした。そこに人の運用も入ることで、パフォーマンスは他社より良かったそうです。
失敗したときのリカバリーテクニック
田所氏は著書の『起業の科学 スタートアップサイエンス』でも
”私はアマゾンやフェイスブックのような「大成功するスタートアップ」を作ることはアートだと思っている。ただし、この本で示した基本的な型を身につければ「失敗しないスタートアップ」は高い確率で実現できる。”
と書いており、今回のイベントでも「事業は全部仮説と検証の繰り返しです」と語っています。
事業において、失敗は”仮説の検証が終わった”とも解釈でき、失敗を次に活かすことで、失敗する確率を減らせます。また、スタートアップにおいて困難はつきものです。それを乗り越えた経験がチームを強くしていき、盤石なものにしていきます。
つまり、「失敗を乗り越える」ことは事業において必須事項とも言えますが、では田所氏と地引氏はどのようにして失敗をリカバリーしてきたのでしょうか。
田所氏:「欲しいものを作れなかった」失敗からのリカバリー
前述したように、田所氏には「自分が欲しいものを作れなかった」という失敗経験があり、そこから次のような考えを提案しています。
「起業家は『can』『need』『ビジネスモデル』『want』の4要素が大切です。wantは抜けがちですが、内省的なプロセスは大切だと思っています。また、事業をする人は作りたい商品が『本当に欲しいか』を自問自答して欲しいです。起業では楽しいことも辛いこともあるので、それでも続けるにはそういった要素が大事になってきます」(田所氏)。
起業家はモチベーションが武器になります。やりたいことができるためモチベーションが高い一方で、サラリーマンはやりたいことがあまりできないため、モチベーションが低くなりがちです。そういった中でモチベーションの武器を磨き上げるには、”自分へのニーズ”を問わなければなりません。
そういった意味でも、「自分が欲しいかどうか」は重要になってくるのです。
地引氏:上場後に地引氏を襲った役員・社員との温度差を解決
上場して、役員や社員に『上がったよね』という雰囲気があったとき、地引氏は「これはまずい」と感じ、パートナー探しをするため半月ほど海外視察に行きました。
役員や社員からは「どうして会社が苦しいときに海外で遊んでいるんだ!」とドン引きされ、監査からも「事業を放置すると他の人のモチベーションが下がるから、やめたほうが良い」としつこく言われました。
当初はそれに納得しなかった地引氏ですが、最終的には「こういうことはやめたほうが良い」と理解するに至ったそうです。
地引氏いわく、「従業員はよく見ているので、自分がプレイヤーになると思わぬところでバランスが崩れることを目の当たりにしました。そのとき、人に任せる力も重要だと思いました」。
スタートアップがある程度大きくなったら、プレイヤーではなくマネージャーになる感覚が必要と言えます。
田所氏・地引氏が語る仲間の集め方
起業をするにあたって仲間を募るケースもありますが、どの起業家も一度は「どのような人を集めれば良いのか分からない」と感じるもの。今回のイベントでは、参加者からそういった質問が上がりました。
この問いに対し、田所氏は「ゴレンジャー」を例に説明します。
「ゴレンジャーは赤・青・黄・緑・ピンクで成り立っています。赤レンジャーは情熱的で燃え上がるような人ですが、勢いだけで突き進んでしまいます。青レンジャーは冷静沈着で状況をよく見ますが、慎重になりすぎて火を消してしまうこともあります。黄レンジャーは大人で、ピンクレンジャーは外部とのコミュニケーションを、緑レンジャーは地味ですが全体を見ながら戦略を立てます。『自分は何者か』を考えて、補完関係の人を入れたほうが良いです」(田所氏)。
と、組織のバランスを整えることが大切としています。
会社の仕事は1つのタスクだけでは成り立ちません。例えば「メディアをローンチしたい」と言っても、記事を書いたり、閲覧数をチェックしたり、サイトのコンセプト作りをしたりなど、さまざまなタスクを積み重ねなければなりません。
組織を作るなら、それぞれが得意分野で活躍できるよう、バランスを見ながら仲間を入れていくことが大切になるというわけです。
一方で、地引氏は「志や気分が合う人と仲間になったほうが良いです。お金儲けは大切ですが、そこに対する情熱度は各々で違うため、合っていたほうが良いでしょう。僕は気分や志、方向感が合うことを大切にしています」(地引氏)と、一緒に走っていける仲間の大切さを伝えています。
事業はお金儲けのためだけにするものではありません。お金儲けの先には”お客様の課題解決”もあり、これを両立させることが1つのテーマとなります。その点では志や気分、目的地も同じ人を仲間にすることで事業をスムーズに進められるでしょう。
企業として利益を出すことも大切ですが、「事業を始めたい」と思った理由を振り返れば、どうすれば良いかが明確になるはずです。
失敗を上手に捉えて、スタートアップを
”失敗していない”程度には持っていこう
何でも同じですが、スタートアップでも失敗すれば落ち込みますし、場合によっては人材や資金を失うかもしれません。しかし失敗を上手に捉えれば、スタートアップを”失敗していない”程度にまで持っていくことができます。
田所氏の言うように、「大成功するスタートアップ」を作る過程では科学的ではない要素も混ざってきますが、「失敗していないスタートアップ」であれば科学的に作ることができます。
そのためにも失敗を糧に、スタートアップを成長させて行きましょう。
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