言葉は「感情」で伝える
新年が明けました。今年は年始から、とても「おめでとう」と周りに挨拶を送りまくるような状況ではなくなってしまいましたね。演出家・脚本家を名乗らせていただいております、宮川文吾です。おはこんばんちは(死語…とも呼べない…)。
阪神大震災の記憶
能登半島地震の映像を見る度、思い出さずにはいられない記憶が蘇ります。私は兵庫県神戸市出身で、今から29年前の阪神淡路大震災の被災者でもあります。あの頃、関西地方では地震自体が少なくて、実は小学校でも地震の避難訓練というものは行っていませんでした。
1995年1月17日の早朝、突然「ドーン!」という大きな音と共に、非常に強い揺れが神戸を襲ったそうです。2階に寝ていたはずの私が目覚めるとそこは1階になっていて、下の階に置いていた思い出の私物などはそのほとんどが瓦礫と化していたのでした。そうです。2階建ての家が平屋になってしまうほどの地震だったにも関わらず、酔い潰れて寝ていた私は最初の揺れに気づいていなかったのです。『襲ったそうです』という表現を使っているのはそのためです。
その後、向かいに住んでいたおじさんに、道路から『2階の』窓をガンガンと叩かれていた音で目を覚ました私は、窓から見える光景に愕然としました。地面はひび割れ、少し離れた高速道路は崩れ落ち、バスが今にも下へ落ちそうな状態でゆらゆらと揺れていました。そのとき、私は思ったものです。『戦争が始まったんや……』と。その直後に余震があり、それが地震によるものだったとすぐに理解しましたが。
『大震災』に対する行政や世の中の対応策というものは当時ほとんど計画がなく、少なくともあのとき、東灘区の片隅にあったイチ避難所では、避難した最初の3日間は救援物資など全く届かない状態でした。食料も水もなく、比較的キレイだった大石川という川の水を手ですくって飲んだりしていました。4日目になって、ようやく菓子パンが届きましたが、一人1つのみ。それも1日で、です。
地震直後は、みな比較的穏やかで、口々に「大変やなぁ」「お宅は大丈夫やった?」などと声を掛ける余裕がまだありましたが、人は先行きが見えなくなったり、お腹が空いたりしていると心がとげとげしくなっていきます。そして、それは罪のない子どもたちにも容赦なく向けられていくものです。
非常事態だからこそ、大事なこと
どこで物資をもらえば良いのか、誰からもらったら良いのかも分からずにまごついている子どもたちに対して、最初は優しく声を掛ける大人も多かったのですが、そのうちにその数は減り、自分で聞きに来られない子どもたちは次第に衰弱していきます。地震で親を亡くしてしまったり、ケガで動けなかったりしている子どもたちは、自分でどうにかしなければなりません。
そんなとき、8才位の男の子が、まごまごしていてパンを受け取り損ねて半泣きになっているのを見て、まだ若く、まだ痩せていた当時の私は自分の分をその子に渡すと、その子は嬉しそうにパンを奪い取り、お礼も言わずに走って行きました。「こんにゃろう!」と思って私が追いかけて行くと、その子は泣いている弟にクリームパンを半分にちぎり、ちゃんと大きい方を幼い弟に渡していました。その様子を見て、私の怒りはすっかり薄まり、その兄弟に「こんなときこそ、大きな声で挨拶できると良いね」とお話ししました。水着ではなかったのではじめは気付かなかったのですが、偶然にも、その子たちは自分が当時働いていたスイミングスクールの生徒だったのです。
その日から、大きな声で挨拶ができるようになったその子たちにはサポートをしてくれる大人が現れるようになりました。そのとき、私は「いつか自分が親になったら、挨拶だけはしっかりできる子どもを育てよう」と思ったものです。
感情を込めると、より伝わりやすい
この体験は実話ですが、その後も人に何かを伝えるときには、必ず『感情』を明確にするようにしています。事実を淡々と伝えるのではなく、自分がどのような感情を持って体験し、人に伝えているのか、など。
人のパンを奪い取った子どもを追いかけた。
人のパンを奪い取った子どもを、腹立たしく追いかけた。
人のパンを嬉しそうに奪い取った子どもを、腹立たしく追いかけた。
どの表現が、より動画的にイメージできますか?
取引先の人がお礼を言っていたよ。
取引先の○○さんが、満面の笑顔で喜びながら、君にお礼を言っていたよ。
私がセリフを書くときにも、感情で伝えるように意識しています。その方が、作画担当の方のイメージが沸きやすく、結果としてキャラクターが生き生きと動き出すからなのです。
話が脱線しました。被災地の方々には心からお見舞い申し上げますと共に、1日も早い復興をお祈りしつつ、微力ながらできることをして参りたいと思います。
それでは、また!
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