イベント・セミナー2026 13

クラウド時代に「サーバー解体研修」が3年続く理由 ー日本CTO協会 新卒エンジニア合同研修レポート

物理サーバーに触れないエンジニアが増えている。日本CTO協会が3年続ける解体研修を取材し、開催側がこの機会に託すものと現場の反応をレポートする。

Think IT編集部

5:35

物理サーバーに触れたことのないエンジニアが増えている。自社でハードウェアを持たない企業が当たり前になった以上、それは自然な流れだ。

しかし、クラウドの仕組みはハードウェアを前提に構築され、その上に抽象化されている。障害の切り分けも、コストの理解も、下の層を知っているかどうかで見え方が変わる。

日本CTO協会が3年にわたり続けている「サーバー解体研修」は、その機会を業界横断で設計する試みだ。2026年6月10日の開催回を取材した。

3年目を迎えた合同研修、
毎年100名超が参加

本研修は、日本CTO協会のエンジニア育成ワーキンググループが企画する合同研修プログラムの一環として実施されている。同ワーキンググループで企画を担当するGMOペパボ株式会社の黒瀧 悠太氏(SUZURI・minne事業部 事業部CTO 兼 GMOインターネットグループ エキスパート/日本CTO協会 幹事)は、その狙いをこう説明する。

「エンジニア育成ワーキンググループで3年間合同研修企画を進めています。会社の枠を超えたエンジニアの同期を作ることと、研修機会の提供を目的として運営しています。毎年100名を超える方に参加いただいています」(黒瀧氏)

SUZURI・minne事業部 事業部CTO 兼 GMOインターネットグループ エキスパート/日本CTO協会 幹事 黒瀧 悠太氏

なお、本研修は単発の企画ではない。

日本CTO協会のエンジニア育成ワーキンググループが企画する「新卒エンジニア合同研修」は、今回で3年目を迎える取り組みで、会社の枠を超えた新卒エンジニア同士のつながりづくりと、各社単独では用意しにくい研修機会の提供を目的としている。

今回のサーバー解体研修は、その全7回シリーズの一環として開催(プログラム詳細:https://cto-a.org/news/20260513_release)。各回を複数の企業がそれぞれ講義や会場の提供というかたちで支えており、講師やメンターも特定の一社ではなく各協力企業から持ち寄られる座組だ。

第5回となる本研修については、デル・テクノロジーズが機材と講義を、GMOインターネットグループが会場と講義を提供して実現した。

当日は17時から約2時間の講義と解体作業が行われ、その後は懇親会「Connect Meetup」へと続く構成だ。技術研修と、会社を超えた横のつながりづくりが一体になっている点が、この合同研修の特徴と言える。

参加者は複数のテーブルに分かれ、各テーブルに配置されたメンターの指導のもとで作業を進めていく。メンターはCTO協会に加盟する各社の現役エンジニアが務めた。

「クラウドも結局はハードウェア」
——なぜ今、物理サーバーなのか

解体作業に先立つ座学で講師を務めた、デル・テクノロジーズ株式会社でテクニカルセールスを務める桑田 海蔵氏は、クラウド全盛の時代にあえてハードウェアを学ぶ意義について、次のように語る。

「やっぱりクラウドも結局はハードウェアなので、そのハードウェアを知るということが『なぜクラウドが動いているのか』『なぜこのサービスがこのような仕組みになっているのか』というところの理解がより深まるかなと思います」(桑田氏)

桑田氏はさらに、コストの理解にも触れた。クラウドはスモールスタートでスケールしやすい点がメリットである一方、ハードウェアの価格が高い理由は「インフラがあって、それを構成・管理するために高価になっている」という仕組みが分かれば理解できる、という指摘だ。クラウドの料金体系を「なぜこの価格なのか」まで踏み込んで理解するには、その下にある物理層の存在が欠かせない。

メンターとして参加したGMOペパボ株式会社 技術部 技術基盤グループの馬崎裕二氏は、より率直に現状の課題を挙げる。

「自社で直接的に物理サーバーを扱う企業が減っているため、若手だとサーバーの実物に触れたことのないエンジニアも多くなってきた印象です。ハードルの高いイメージのある物理サーバーをエンタメ風味強めに触れることで、将来の技術採用時の選択肢の1つに加えやすくなれば良いなと考えています」(馬崎氏)

馬崎氏は自社でプライベートクラウド環境やSUZURIアルバム byGMOペパボのハードウェア調達・運用管理を担当している立場だ。その上で、クラウドサービス利用時のリソース設計やローカルLLMの自社導入といった場面でも、CPU・メモリ・ストレージについての知識があればイメージを掴みやすいのではないかと期待を寄せる。

「物理サーバーを知らないままでは困る」という危機感ではなく、「選択肢として持てるようにしたい」という前向きな動機。ここに、この研修が3年続いている理由の一端がありそうだ。

座学:サーバーは「サービスのためのハードウェア」

講師を務めたデル・テクノロジーズ株式会社 テクニカルセールス 桑田 海蔵氏

解体に先立ち、機材を提供したデル・テクノロジーズの桑田氏がサーバーの基礎構造を解説した。

桑田氏はまずサーバーを「サービスのためのハードウェア」と定義する。そのうえで、今回解体するラック型筐体の内部構造を、前面から順に解説。前面のディスクベイ、その奥の冷却ファン、計算処理を担うCPUとその近傍に配置されたメモリ、ディスクを束ねるRAIDコントローラー、背面のPCIeスロットと電源モジュール——という並びだ。

続いて挙げられたのが、サーバーを構成する5つの要素である。

  • CPU:人間でいう脳。搭載数・クロック数・コア数で性能が決まり、コアが多いほど同時並行処理に強い
  • メモリ:CPUが計算するための机(ワークスペース)。揮発性があり、電源が落ちればデータは消える
  • ディスク:電源が落ちても残る外部記憶装置。速度重視のSSDと容量重視のHDDを用途で使い分ける。止まると業務が回らないサービスのために冗長化し、それを実現するのがRAIDコントローラー
  • NIC:サーバー間通信の出入り口。1〜10GbEはLANケーブル(RJ45規格)、それ以上の帯域では光を使う
  • GPU:アクセラレーター。CPUが最大192コア程度なのに対し、GPUは数千〜数万コア。もとは3Dグラフィックスを同時並行で処理するための技術だが、その特性がAIのベクトル計算・行列計算に適していることから注目を集めている

そのうえで桑田氏は、冗長性を確保するために各パーツを複数搭載できる構造になっている点を挙げ、解体時にはそこを注目してほしいと参加者に呼びかけた。

さらに、Dell PowerEdgeサーバーシリーズの付加価値として、サーマル設計(冷却と消費電力の効率化)とリモート管理ツール「iDRAC」が紹介された。サーバーは地盤の良い土地や、厳しいセキュリティで守られたデータセンターに設置されることが多い。現地へ出向かずに電源のオン/オフやシステム状態を確認できる仕組みは、運用の前提そのものを規定している。

当日用意されたのは10台。うち5台はデータセンターで10年ほど稼働していた実機で、工具を使わずに外せるところは全て外せる構造だった。残る5台は一世代前の検証機で、「この10年の設計の差を体感してほしい」という意図が込められている。実際のデータセンターでの作業を想定し、解体は箱を開けるところからスタートした。

解体対象は
現役のAI/HPC向けハイエンドサーバー

参加者に渡された同梱物リストの1枚は、Dell PowerEdge R760XAのものだ。その構成は以下のとおりである。

  • CPU:Intel Xeon Gold 6548Y+(32コア/64スレッド、2.5GHz)×2
  • メモリ:512GB(32GB DDR5 RDIMM ×16枚、5600MT/s)
  • ストレージ:Intel SSD D7-P5520 3.84TB NVMe ×4(RAID 5構成)
  • GPU:Intel Data Center GPU Max Series ×2
  • NIC:Intel X710-T4L 10GbE 4ポート/Intel E810-XXV 10/25GbE SFP28 デュアルポート
  • RAIDコントローラー:PERC H965i

AI/HPC用途を想定したハイエンド構成であり、新人研修の教材としては相当に贅沢な部類に入る。座学で解説された5要素が、そのまま最新世代の実機として参加者たちの目の前に置かれたことになる。

現場で起きていたこと

天板を外すと、RISER 1・3・4と刻印されたPCIe拡張スロットや、整然と並ぶストレージベイが現れる。普段はターミナルの画面越しにしか触れないリソースが、物理的な「モノ」として目の前に広がる瞬間だ。

参加者が最初に手に取ることになるのがメモリモジュールである。DDR5 RDIMM 1枚あたり32GB。クラウドのインスタンス選定画面に並ぶ「メモリ32GB」という文字列が、手のひらに載る基板1枚として現れる。これが16枚で512GB——座学で「CPUが計算するための机」と説明されたワークスペースの物理的な実体だ。

CPUソケットを開ける場面では、LGAソケットの繊細なピン配列が露わになる。数千本のピンが並ぶソケットの上に、わずか数センチ角のCPUを慎重に載せる構造だ。「vCPU 64」と指定する裏側にある精密な物理接続が、ここで可視化される。

Intel D7-P5520(3.84TB)は片手に収まるサイズだ。この4本がRAID 5で束ねられ、サービスのデータを支えている。ホットスワップ対応キャリアの引き出しやすさは、障害時にサービスを止めずにドライブを交換するという、座学で語られた冗長化の思想をそのまま形にしたものである。

ひときわ存在感を放つのがIntel Data Center GPU Max Seriesだ。PCIeライザーカードに搭載された巨大なモジュールは、他のコンポーネントとは明らかに一線を画すサイズ感を持つ。「数千〜数万コアで同時並行計算を行う」という説明が、実物を前にすると質量を伴った理解に変わる。

一見地味ながら、オレンジ色の筐体に収まったホットスワップ対応の冷却ファンモジュールも見逃せない。小型ながらデュアルファン構成で、冗長性が確保されている。CPUやGPUのスペックに目が行きがちだが、その性能を持続的に発揮させるための冷却設計もまた、サーバーの付加価値を構成する要素であることが分かる。

RAIDコントローラーやネットワークカードも、一つひとつ取り外して手に取る。普段はコマンドや管理画面を通じて設定するだけの存在が、基板とコネクタの集合体として手のなかに収まる。

「めちゃくちゃ細かい」質問が飛び交った

現場の空気は、取材前に編集部が抱いていた想像とはかなり違っていた。

「すごい熱心というか、面白そうにやっていますよね」(桑田氏)

そして印象的だったのは、参加者から飛んでくる質問の細かさだったという。

「もうめちゃくちゃ細かいですよ。CMOSバッテリーとか、部品を取り上げて『これ何ですか』と聞いてきたり。私が先ほど説明したサーバーの主要なところ以外のところまで、細かく聞かれすぎて答えるのも難しいほどでした」(桑田氏)

座学で解説された5要素を超えて、目の前の基板に載っている個々の部品へと関心が向かう。実物を前にしたときにしか生まれない種類の問いだ。教える側にとっては想定外の負荷でもあるが、同時にこの研修の手応えを示す反応でもあるだろう。

テーブルを担当したメンターの馬崎氏も、参加者の変化を間近で見ていた。

「最初はおっかなびっくり触っていた参加者が、すぐに勘所を掴んでどんどん分解していく姿に頼もしさを感じました。取り外しにくいパーツでもパーツの形状をよく観察して外していき、最終的には元の状態にきちんと復元もしていて、新卒でも立派にエンジニアだなと感心しました」(馬崎氏)

分解して終わりではなく、元の状態に戻す。観察して構造を推測し、手を動かして確かめる——エンジニアリングの基本動作が、わずか数時間の間に現場で立ち上がっていたことになる。

黒瀧氏も「思っていたよりもみなさん楽しんでサーバーを解体していて良かった」と振り返っており、運営側の予想を上回る熱量が生まれていたことがうかがえる。

「教わる側」から「教える側」への循環

座学の講師を務めた桑田氏だが、この役割を担うのは今回が初めてだという。2022年に新卒でデル・テクノロジーズに入社し、参加者と同じように新人研修を受けたのち、3年間にわたり中堅中小企業へのテクニカルセールスを担当。2026年2月からGMOペパボをはじめとするパートナー企業を担当している。

そして桑田氏自身、かつては物理サーバーの知識も経験も持っていなかったと明かす。

「私自身も全く知識も経験もありませんでした。今回参加している新人たちと同様に同じような研修を受けて。たまたま壊しても良いサーバーがあったので、それを解体しながら説明を聞いたりして学びました」(桑田氏)

新卒当時に何も知らなかったからこそ、研修を受ける側のイメージができる、とも語る。何が分かって、何が分からなかったのか。それを踏まえた上で、自分はエンジニアとしてどの道に進むのか——講師の立場から、参加者の視点を追体験できるという。

同じ研修を受けた側が、数年後に教える側に回る。育成プログラムとして、これ以上分かりやすい成果はないだろう。

こうした循環は、協会側にもすでに芽生えている。過去の参加者が翌年以降にスタッフとして運営へ回る例も出てきているという。

エンジニア育成ワーキンググループでは、研修の卒業生が「教わる側」から「運営を支える側」へ回る流れをプログラムとして定着させることを、次の課題に据えているという。

運営側から見た評価についても、黒瀧氏はこう述べている。

「参加者だけでなく、研修へ送り出す各社のCTOからも良い評価をいただいているので、貴重な機会となっていて嬉しく思います」(黒瀧氏)

新人本人の満足度だけでなく、送り出す側の経営・技術責任者が価値を認めている。この二重の評価が、単発のイベントではなく3年続く定例プログラムとして成立している背景にある。

物理を知ることは、実務のどこに効くのか

ここまでは開催する側の視点を追ってきたが、最後に、Think IT読者——すでに実務に就いているエンジニアや技術リーダー——にとっての示唆を整理しておきたい。

メンターの2名に対し、物理サーバーの知識が実務で効いた場面について問うと、それぞれ具体的に答えてくれた。

黒瀧氏が挙げたのは、問題の切り分けとBCPの観点だ。

 「現在はクラウドの基盤を使うことがほとんどですが、物理サーバーレベルから問題の切り分けができることはBCPとしても大事なことです。また、今のクラウドなど仕組みはハードを前提の上に構築されて抽象化されているので、クラウド上で起きた問題を分析するうえでもハードレベルでの知識があることは強みになると考えています」(黒瀧氏)

抽象化されたレイヤーの上で作業していても、その下の層で何が起きうるかを知っているかどうかで、障害時の切り分け速度は変わる。

馬崎氏は、故障対応・代替機の準備・新サービス導入時のサイジングやベンチマークテストといった日常業務を挙げた上で、さらに踏み込んだエピソードを共有してくれた。

「あまりポジティブな使い方ではないですが、省コスト運用フェーズのサービスでRAIDカードが破損した際に、本来そのままでは接続が難しい他機種の予備パーツから流用して復旧させたこともありました。最終手段的に『何かあっても力技でどうにかする』手法が取れるのは、サービスのフェイルセーフとして大きいかなと自負しています」(馬崎氏)

マニュアルにない復旧手段を選択肢として持てるかどうか。それは、ハードウェアの構造を理解している人間にしか開かれていない領域だ。可用性の設計を考えるとき、こうした「最後の一手」の有無は無視できない差になる。

そして馬崎氏は、物理とクラウド/AIの関係についてこう結んでいる。

「物理サーバーとクラウドサービスやAIは対立構造ではなく、より良いサービス・システムのために長所を理解して組み合わせて使ってこそだと考えています」(馬崎氏)

おわりに 

「ハードウェアとしてのサーバーに触れる機会自体は減っていくとは思う」——取材のなかで桑田氏が漏らした言葉だ。実際、業務のなかで物理サーバーに触れる必然性は年々薄れてきている。だからこそ、機会は意図的に設計しなければ生まれない。

日本CTO協会の本研修は、その設計を業界横断で引き受けている取り組みだと言える。自社の若手に物理レイヤーの理解をどう届けるか。抽象化の恩恵を受けながら、抽象化の下を知る人材をどう育てるか。100名を超える新人が毎年ここで手を動かしているという事実は、その問いが決して過去のものではないことを示しているのではないだろうか。

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