イベント・セミナー2026 12

「DrupalCamp Tokyo 2026」参加レポート ーAI時代に進化するCMS「Drupal」は次のフェーズへ!

本記事では、2026年6月27日に東京・豊洲で開催された、CMS「Drupal」をテーマにしたイベント「DrupalCamp Tokyo 2026」のようすをレポートします。

森山 智華

6:20

2026年6月27日、東京都江東区・豊洲のSCSK株式会社 豊洲フロントにて、“奈良から東京へ:Drupal、次なるフェーズへ”をテーマに「DrupalCamp Tokyo 2026」が開催されました。

当日は3トラックで多数のセッションが実施され、Drupalの最新技術からAI活用、エンタープライズでの導入事例、コミュニティ活動まで幅広いテーマが取り上げられました。会場には約100名が集まり、昨年奈良市で開催された世界規模のDrupalカンファレンス「DrupalCon Nara」で生まれた熱気をそのまま引き継ぐような活気に包まれていました。

本記事では、DrupalCamp Tokyo 2026の概要や当日の雰囲気とともに、特に印象に残ったセッションを紹介します。

今回の会場となった「豊洲フロント」(撮影:森山智華)

「DrupalCamp Tokyo 2026」概要

項目内容
イベント名DrupalCamp Tokyo 2026
開催日2026年6月27日(土)
会場SCSK株式会社 豊洲フロント(東京都江東区・豊洲)
公式サイトhttps://www.drupal.jp/tokyo2026
主催DrupalCamp Tokyo 2026 実行委員会
参加者数 約100名
セッション数 24セッション

Drupalとは

「Drupal」はPHPで記述されたオープンソースのCMS(コンテンツ管理システム)です。柔軟なコンテンツモデリング、高度な権限管理、多言語対応、優れた拡張性を備えており、企業サイトだけでなく行政機関、大学、大規模メディア、ポータルサイトなど、大規模なエンタープライズシステムの基盤として幅広く採用されています。

APIを介したさまざまなシステムとの連携にも優れ、IoTやAI(人工知能)などの先端技術と組み合わせたデジタル基盤として、単なるCMSの枠を超えた「構造化されたデータを扱うためのプラットフォーム」としても評価されています。

DrupalCampとは

「DrupalCamp」はDrupalを中心に、ユーザー企業や教育・研究機関、公共セクター、開発者、デザイナー、ディレクターなど多様な立場の人々が集い、学び、交流するコミュニティイベントです。日本におけるDrupalコミュニティの持続的な発展と、オープンソースを通じた社会的価値の創出を目的に開催されています。

Drupalコミュニティでは、世界規模のカンファレンス「DrupalCon」、小規模コミュニティによる勉強会「Drupal Meetup」など、さまざまなイベントが存在しますが、その中間の中規模イベントとして位置付けられているのがDrupalCampです。国・地域単位で開催され、開発現場に近いテーマや国内事例も多く取り上げられることが特徴で、日本国内では2023年以来、3年ぶりの開催となりました。

参加者に配られたイベントオリジナルグッズ(撮影:森山智華)

当日の様子とセッション紹介

イベントポスターと共に会場に飾られるDruplicon(Drupalのキャラクター)のてるてる坊主(撮影:小林基樹)

開催当日は台風の影響で開催が危ぶまれていたため、朝にイベント公式サイトで開催決定のお知らせが発表され、ほっと胸をなでおろすところからのスタートとなりました。

イベントの幕開けでは、Drupalの創設者であるDries Buytaert氏から、日本のDrupalコミュニティに向けたビデオメッセージが届けられました。多忙なスケジュールの中でも、世界各地でコミュニティが活発に活動していることへの感謝とともに、DrupalCamp Tokyoの開催を応援するコメントを寄せてくださり、世界中のコミュニティを大切にするDrupalらしさを感じる、温かいオープニングとなりました。

Drupalの創設者 Dries Buytaert氏からのビデオメッセージ(撮影:小林基樹)

当日は、3トラックでさまざまなセッションが行われました。本記事では、その中から特に印象に残ったセッションをいくつか紹介します。

基調講演:「Drupal - あなたのエージェントにとってベストなCMS!」

悪天候の影響により、急遽オンラインで実施された基調講演の様子(撮影:森山智華)

今回のDrupalCampで最も注目を集めたセッションの1つが、DrupalのAIモジュールのメンテナーで、AIイニシアチブの創設者の1人でもある James Abrahams 氏による基調講演です。Drupal×AIの分野を牽引するキーパーソンの来日講演ということもあり、開催前から多くの参加者の注目を集めていました。

しかし、当日は台風の影響で搭乗予定だった航空便が欠航となり、残念ながら来日が叶わず、急遽海外からオンラインでライブ登壇されることになりました。現地時間では深夜にもかかわらずリアルタイムで講演が行われ、会場からは温かい拍手が送られました。

講演では、DrupalにおけるAIの歴史、現在できること、そして今後の展望について語られました。クライアントが1ヵ月かかると想定していたWordPressからDrupalへのマイグレーション作業を、AIを活用して約20分で完了させた事例など、AIを活用した取り組みについて具体的な実例を交えながら、詳しく紹介されました。

印象的だったのは「Drupalは、これまで学習曲線が崖のように急なCMSとして知られていたが、AIが開発を支援する時代となり、その壁は低くなりつつある」という話です。セッション全体を通して、「AIによってDrupalを取り巻く環境そのものが変わり始めている」というメッセージが伝わってきました。

質疑応答では、AIモデルの進化の速さにも話が及び、「毎週のように状況が変わるため、1つのモデルだけを使い続けることは難しい。用途に応じて複数のモデルを使い分けている」という実践的な話も印象的でした。

Abrahams氏自身がこれからのDrupalの可能性を心から楽しみにされていることが伝わり、AI時代におけるDrupalの新たな可能性と、コミュニティの前向きな熱量を感じる基調講演となりました。

基調講演の後の集合写真撮影(撮影:小林基樹)

コードは書くな、フローを語れ!プロンプト指向プログラミングで始める業務オーケストレーション

DOCOMO Innovations, Inc. 直井 康広氏(撮影:小林基樹)

今回のDrupalCampでは、やはりAIに関連するセッションが非常に多かったことが印象的でした。その中でも、DOCOMO Innovations, Inc. の直井 康広氏による「コードは書くな、フローを語れ!プロンプト指向プログラミングで始める業務オーケストレーション」は、AI時代のシステム開発のあり方に新たな示唆を与えるセッションでした。

本セッションでは、ロジックの実装をコードからプロンプトへ移すことで、柔軟性と保守性を高める開発アプローチ「プロンプト指向プログラミング」について共有されました。YAMLベースのワークフローと生成AIを組み合わせた承認システムについて豊富なデモを交えながら解説され、Drupalが得意とする構造化データとLLMによる柔軟な判断を組み合わせることで、これまでとは異なる新しい開発スタイルが実現できる可能性が示されました。期待する回答例や出力形式を適切に提示することでLLMの精度を高められるという考え方など、実践的なヒントも多く、これからのAI時代のシステム開発を考える上で参考になる内容でした。

最後に語られた「AIを信じるな、テストせよ」という言葉も印象に残っています。重要なのはAIを過信することではなく、徹底的にテストと改善を繰り返すこと。そして、どのように実装するか以上に、どのように言語化するかが重要であるという考え方は、AI時代のシステム開発において開発者に求められる役割の変化を感じさせるものでした。

昨年のDrupalCon Naraから現在に至るまでに開発・検証されてきた成果が披露されており、「奈良から東京へ:Drupal、次なるフェーズへ」というイベントテーマを体現するようなセッションでした。

D4からD11まで! Drupalを編集部がいじって増築して20年走り続けているメディアの裏側

株式会社インプレス 安田 英久氏(撮影:小林基樹)

個人的に楽しみにしていたセッションの1つが、株式会社インプレスの安田 英久氏による「D4からD11まで! Drupalを編集部がいじって増築して20年走り続けているメディアの裏側」です。

軽快な語り口で会場を沸かせながら、2006年のサービス開始以来、約20年間にわたりDrupalで運用を続けてきたビジネスメディア「Web担当者Forum」の歩みについて共有されました。具体的な事例や経験談を交えつつ、なぜDrupalを使い続けているのか、なぜ編集部の人間が直接Drupalを触っているのか、Drupalでどんなことを実現しているのかなど、実践的な取り組みが詳しく語られました。

編集部自らがDrupalを拡張しながら80以上のカスタムモジュールを開発し、4つのメディア・7万件以上のコンテンツを同一プラットフォームで運営。さらに、Google Analyticsのデータを専用データベースに紐付け、日次で数千万件規模のデータ分析を行うなど、DrupalをCMSの枠を超えたデータ基盤として活用している事例も紹介されました。

公開前チェックや自動投稿など、編集部ならではの細かな工夫も数多く実装されており、「Drupalの作法が分かってくるほど、その良さが分かるようになった」という言葉が印象的でした。これはDrupalに携わる人からよく耳にする言葉でもあり、会場でも長年Drupalに携わるベテランの方々が深く頷きながら聞いている姿が印象的で、多くの共感を集めていることが伝わってきました。

安田氏のように、深いドメイン知識とDrupal開発の技術力を兼ね備えた方というのはなかなかいらっしゃらないと思いますが、AIの進化によって専門知識を持つ人が開発に携わるハードルは今後さらに下がっていくのではないでしょうか。その結果、これまで以上に多くの人がDrupalの魅力に触れ、コミュニティの裾野がさらに広がっていく可能性を感じたセッションでもありました。

「世の中がDrupalで幸せになればいいな!」というメッセージで締めくくられた本セッションは、長年Drupalとともに歩んできた安田氏のDrupalに対する愛情を感じられるものでした。

コクヨ株式会社様:120周年「ワンコクヨ」を旗印に、全ての事業領域サイトを統合リニューアル

共同登壇セッションの様子(撮影:秋枝魁成)

エンタープライズ事例として特に注目を集めていたのが、コクヨ株式会社とSCSK株式会社による「コクヨ株式会社様:120周年「ワンコクヨ」を旗印に、全ての事業領域サイトを統合リニューアル」です。

本セッションでは、コクヨ株式会社の担当者である安達 沙樹氏と奥山 由希子氏、システム構築を担当したSCSK株式会社の古和田 潮氏、田中 淳子氏が登壇し、コクヨ株式会社の5つの事業領域サイトをDrupal基盤へ統合・リニューアルしたプロジェクトについて、その背景や構築のポイント、今後の展望が紹介されました。

セッションでは、事業領域サイトごとにBtoCやBtoBと性質が異なり、求められる役割や目的も大きく異なる中で、共通のデザインルールやテンプレートを整備しながらブランドとしての統一感を保ち、それぞれの目的を実現するために試行錯誤された様子が語られました。

具体的には、DrupalのParagraphs機能を活用し、85種類のパーツを組み合わせる方式を採用することで、運用のしやすさと柔軟性を両立しながら効率よく構築できる仕組みを導入した事例や、DrupalのResponsive Image機能を活用することでRetinaディスプレイにも迅速に対応できたというエピソードが紹介され、Drupalの実践的な活用方法がよく分かる内容となっていました。

また、発注者の立場からDrupal採用の理由を聞けたことも非常に興味深いポイントでした。様々なCMSが提案される中、静的サイトでは将来的な改修コストが大きくなることを考慮し、動的CMSの採用を決定。さらに、今後どのような展開になるか見通しづらい中で、「拡張性」を重視した結果、Drupalを選択したとのことでした。

発注者と開発会社の双方の視点から大規模サイト統合プロジェクトを振り返る内容は非常に貴重であり、Drupalの汎用性や再利用性の高さを改めて実感できるセッションでした。エンジニアだけでなく、プロジェクトマネージャーや企業のWeb担当者など、大規模サイトの構築・運営に携わる方にとっても示唆に富む内容だったと感じます。

このほかにも多彩なセッションが開催

ここでは紹介しきれませんが、上記のほかにも数多くのセッションが開催されていました。

例えば、株式会社メタ・インフォの井村 邦博氏による「AI時代にDrupalは不要になるのか? — DrupalはCMSではなく知識基盤になる —」では、Drupalの特徴である「構造化コンテンツ」「オープンウェブ」「デジタル体験基盤」を活かし、信頼できる情報を集約する知識基盤としてDrupalの役割を再定義する考え方が紹介されました。AI時代におけるDrupalの価値や今後の方向性を考える上で、大変参考になる内容でした。

また、スタジオ・ウミ株式会社の菊地 源吾氏による「AI と走ることについて語るとき僕の語ること」では、「AI疲れ」という言葉が生まれるほど変化の激しい時代に、何を考え、どう仕事と向き合うべきかについて、IT業界に身を置く立場からの考えが語られました。まさに「AI時代の処方箋」とも言えるセッションでした。

同じくスタジオ・ウミ株式会社の小林 基樹氏による「HTMX in Drupal 入門」では、Drupal 11.3から正式採用されたHTMXの活用方法が紹介され、JavaScriptを書かずにAjax通信を実現する方法や、Drupal独自のHTMX向けAPIなどが解説されました。

さらに、地理空間情報OSS代表として株式会社MIERUNEの森 亮氏、WordPress代表として株式会社コミュニティコムの星野 邦敏氏、Drupal代表としてANNAI株式会社の紀野 恵氏が登壇した「FOSSは転機を迎えているか?」では、合同会社ユビキタスライフスタイル研究所の萩原 高行氏の進行のもと、オープンソースコミュニティやCMSのこれからについてパネルディスカッションが行われました。WordPressコミュニティ黎明期から活動されてきた方による貴重な話や、CMSを取り巻く環境変化について率直な意見交換が交わされ、コミュニティイベントならではの内容が印象的でした。

このように、DrupalCampでは初心者向けの概念的なテーマから開発者向けの実践的・技術的なセッション、大規模導入事例、さらにはコミュニティ運営まで幅広いテーマが用意されており、それぞれの立場で多くの学びを得られるプログラム構成となっていました。


すべてのセッション終了後には懇親会も開催され、登壇者や参加者同士が立場を越えて交流する時間が設けられました。会場は終始和やかな雰囲気に包まれ、あちこちで活発な会話が交わされていました。

発表を聞くだけでは得られない学びや新たなつながりが生まれる場となっており、コミュニティイベントならではのDrupalCampの魅力を改めて感じる時間となりました。

懇親会の様子(撮影:小林基樹)

まとめ

各セッションでは、これからのAI時代におけるDrupalの存在意義やあるべき姿、未来像が示されるとともに、LLMを活用した新しい開発スタイルや、エンタープライズサイトでの実践事例、長期運用で培われた知見など、多角的な視点からDrupalの現在地が紹介されました。

今回のDrupalCamp Tokyo 2026を通して強く感じたのは、「AIがDrupalを変える」というよりも、「AI時代だからこそDrupalの価値が再評価されている」ということでした。

「奈良から東京へ:Drupal、次なるフェーズへ」という今年のテーマどおり、DrupalCon Naraで生まれた熱気は東京へと引き継がれ、AI時代に向けた新たな一歩を感じられるイベントとなりました。

【写真提供:DrupalCamp Tokyo 2026 / CC BY-SA 4.0】
https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.ja

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