Community Over Code Asia 2025レポート 6

Community over Code Asia 2025、大学生がOSSコミュニティに参加した体験を語るライトニングトークを紹介

Community over Code Asia 2025から、大学生がOSSコミュニティに参加した体験を語るライトニングトークを紹介する。

松下 康之 - Yasuyuki Matsushita

6:00

The Apache Software Foundation(ASF)が北京で開催したCommunity Over Code Asia 2025から、武南大学の学生がOceanBaseというオープンソースプロジェクトに参加した経験を語ったライトニングトークを紹介する。OceanBase自体の解説はそれほどなく、一人の学生がオープンソースプロジェクトに参加したという話ではあるが、実際にはそれを可能にしたOSPP(Open Source Promotion Program)という施策を利用してコミッターとしての地位を獲得したというのがポイントとなる。

トークのタイトルは「My Open Source Experience in OceanBase Community」というそのものズバリのものである。プレゼンテーションを行ったZiyi Li氏は、武漢大学の2回生であるという。

プレゼンテーションを行うLi氏。夏の北京は暑いので短パンは正解だ

プレゼンテーションを行うLi氏。夏の北京は暑いので短パンは正解だ

短い時間ながら「OceanBaseのコミュニティに参加したこと」「ハッカソンの経験」「OceanBaseのSIGで学んだこと」「OceanBase SIGの紹介」という内容を語った。

ライトニングトークの内容を紹介

ライトニングトークの内容を紹介

ここからはLi氏が参加したOceanBaseのKubernetes用のツールであるコマンドラインツールを紹介。これがLi氏にとっての初めてのオープンソースプロジェクトへの参加だったという。

参加したプロジェクトの概要を紹介

参加したプロジェクトの概要を紹介

実はこのスライドの中になるOSPP(Open Source Promotion Program)について、Li氏のトークの直前にOSPPを解説するライトニングトークが行われた。これはアジェンダにもなく、ASFのイベントページにも記載されておらず、筆者も慌てて写真を何枚か撮ったきりで、タイトルとプレゼンターの名前は不明のままだ。Li氏の話を理解するためにも、ここからはOSPPに関するスライドを紹介する。

●OSPP公式ページ:OSPP 2025

このプログラムはInstitute of Software Chinese Academy of Sciencesという北京に存在する研究機関と、Huaweiが共同でスポンサーとなって運営しているもので、学生のオープンソースソフトウェア開発への参加を支援することを目的に設立されたようである。OSPPの公式サイトを参照すると、Nanjing Institute of Software Technologyという別の研究機関も名前が挙げられているが、このスライドにはそれが省かれている。

2020年に創設されたプログラムは学生をオープンソースデベロッパーにすることが目的

2020年に創設されたプログラムは学生をオープンソースデベロッパーにすることが目的

そして2020年から2025年の間に参加する学生と大学の推移を説明するスライドには、ここ数年で2000名以上の学生が参加し、プロジェクトも500以上となっていることが記載されている。

OSPPの5年の推移を紹介。2000名以上の学生が参加するプログラムだ

OSPPの5年の推移を紹介。2000名以上の学生が参加するプログラムだ

このプログラムでは学生をリクルートしてプロジェクトに参加させるだけではなく、定められた貢献を達成した学生には賞金が支給されることも明記されている。最高で12,000元ということは日本円では約26万円という金額だ。

学生に賞金を支給することで参加を促す方法

学生に賞金を支給することで参加を促す方法

またこのプログラムに参加するコミュニティもASF関連では400弱のプロジェクトが参加しているという。ASF配下のプロジェクトであっても、日本のオープンソース関連のイベントやセミナーでは見たことがないようなプロジェクトも含まれている。

OSPPに参加しているASF関連のプロジェクトを紹介

OSPPに参加しているASF関連のプロジェクトを紹介

WhaleOpsの稿でも紹介したDolphineScheduler、SeaTunnel、Doris、分散DBのApache Cloudberry、Rustで書かれたHoraeDBやOpenDALなども含まれているように、プロジェクト側としても新しい人材として学生のパワーを必要としているようだ。デベロッパーとしての実地の経験を積みたい学生と開発のリソースを必要とするプロジェクトが、良いバランスで成り立っているということだろう。

プログラムを拡大するためのキャンパスツアーやミートアップが何度も開催されている

プログラムを拡大するためのキャンパスツアーやミートアップが何度も開催されている

さらにコミュニティが実際に必要とする人材を登録して学生の申請を審査し、学生の開発がスタートしてから修了するまでのタイムラインを示したスライドでは、3月に始まって11月には年間のプログラムが終わるというスピード感を感じることができる。

3月に始まって11月は修了する年間プログラムの概要

3月に始まって11月は修了する年間プログラムの概要

Li氏はこのプログラムの中でOceanBaseのツールの開発を行ったというわけだ。ここで、Li氏のスライドに戻ろう。

Li氏が開発したツール、okctlの概要を紹介

Li氏が開発したツール、okctlの概要を紹介

OceanBaseのクラスターやテナントなどのリソース管理、クラスターの実装をシンプルなコマンドで行えることなどが説明されている。テナントはOceanBaseのデータストアが保持される管理の単位ということらしい。ちなみにOceanBaseはAlipayやTaobaoなどで使われているMySQL互換の分散RDBである。

ハッカソンでMCPサーバーを開発したことを説明

ハッカソンでMCPサーバーを開発したことを説明

ここではOceanBaseのAIハッカソンというイベントでMCPサーバーを開発したことを紹介。

AIに関するハッカソンにおいて、生成AI界隈で話題になっているMCP(Model Context Protocol)サーバーを開発したことを紹介。これについてはGitHubにリポジトリが公開されている。

●参考:https://github.com/oceanbase/awesome-oceanbase-mcp/blob/main/doc/okctl_mcp_server.md

そしてOceanBaseのSIG(Special Interest Group)に参加した経験を紹介。ここでは非同期なコミュニケーションや質問の仕方を工夫することなどを紹介。非同期というのは学生同士が対話するのではなく、プルリクエストなどで時間がずれてしまうコミュニケーションのことを指しているのだろう。そしてオープンソースプロジェクトでは、そのようなコミュニケーションはごく普通に行われている。また平等やオープンであること、自由などの単語がコミュニティにおいて活動するには重要だと説明した。

コミュニティに参加した感想を紹介。非同期なコミュニケーションというのはいかにも学生らしい

コミュニティに参加した感想を紹介。非同期なコミュニケーションというのはいかにも学生らしい

驚くべきは、OceanBaseのコミュニティにSIGが数多く存在していることだろう。AIやDeveloper Tools、Operationなどの名称から、中国国内では大規模に利用するユーザーとそれを支えるデベロッパーコミュティが存在することがわかる。Oracleを競合として開発された分散DBとしては、下支えを行う意味でもOSPPの活用には大きな意味があると言える。

学生に時間を与えてライトニングトークをさせるというのは、他のコミュニティや参加者にOSPPの認知を拡げるためには適したやり方であろう。一方、OceanBaseそのものの解説がなかったのは、中国ではすでに誰もが知っているRDBであることが背景にあるのかもしれない。

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