検出された脆弱性のどれが本当に危ないのか──AIが自律的に攻撃を試し、悪用可能性まで検証する「Ostorlab」が国内提供開始
自立型AIで脆弱性の悪用可能性まで検証する診断プラットフォーム「Ostorlab」について、9月1日より国内提供を開始したテクマトリックス株式会社に聞いた。
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※本記事には、2026年8月26日に実施したテクマトリックス ソフトウェアエンジニアリング事業部への取材内容を含みます。
- Web/Web API/モバイルアプリを横断して診断でき、アタックサーフェスの可視化から脆弱性診断、自律型AIによるペネトレーションテストまでを一元的に提供する
- 自律型AIが業務フローからリスクを洗い出して自ら攻撃を試行し、「脆弱性がある」ではなく「実際に悪用できる」ところまで検証する点が最大の特徴
- 診断後に公開された既知の脆弱性(CVE)を診断対象と自動でマッチングするため、スキャン実施時点以降に公表された脆弱性にも対応できる
📝 Think IT編集部の見解 📝
脆弱性診断ツールの検出件数は、いまや現場の処理能力を超えている。数百件、数千件の指摘が並び、そこにSBOM経由で「このOSSコンポーネントを使っているなら影響を確認してください」という通知が積み重なる。取材でテクマトリックスの担当者も、顧客から聞く最大の悩みはこの点だと語っていた。問題は検出できないことではなく、検出されたもののうちどれが自社にとって実害につながるのかを判断できないことにある。
Ostorlabが押し出す自律型AIペネトレーションテストは、この判断コストに正面から向き合う機能だ。従来の静的解析・動的解析がパターンマッチングによって「SQLインジェクションの可能性がある」と指摘するのに対し、こちらはAIエージェントがアプリケーションの業務フローを把握してリスク仮説を立て、実際に攻撃を試行し、口座情報が閲覧できてしまうといった実害の発生まで確認する。従来は人手で1〜2週間、費用にして数百万円規模を要していた作業の一部を代替する位置づけになる。
ただし万能ではない。「担当者自身がパターンマッチング型の診断は高速で広い面をカバーでき、AIによる検証はリスクを1つずつ潰していくため時間がかかる」と説明している。両者は置き換えの関係ではなく、日常的な自動診断とロジック変更時の深い検証という使い分けの関係にあると理解したほうがよい。年1回外部委託していたペネトレーションテストを四半期ごとに回せるようにする、というのが現実的な導入像だろう。
もう1点注目したいのが、既知脆弱性とのマッピングだ。一度スキャンすれば対象アプリケーションが使っている言語やミドルウェア、ライブラリが「フィンガープリント」として記録される。後日CVEが公表された際、それが自社資産に該当するかを紐付けて確認でき、さらにその場から悪用可能性の検証まで進める。EUのサイバーレジリエンス法(CRA)が既知脆弱性への迅速な判断と報告義務を求めるなか、この導線は国内企業にとっても実務的な意味を持つ。
AIエージェントによる診断で気になるのは「同じ対象を繰り返しスキャンしたときに結果がぶれないか」という点だ。この点について同社に確認したところ、Deep Agentic Scanは毎回ゼロからリスクを探索する仕組みではなく、初回に特定したリスクや攻撃経路を2回目以降に引き継ぎ、新規・変更箇所を重点的に診断する設計だという。結果が毎回入れ替わるのではなく、過去の結果の上に積み上げてカバレッジを広げていく。継続的に回すことを前提とした製品として、この設計は理にかなっている。裏を返せば、初回スキャンで押さえた範囲が以降の診断の土台になるということでもあり、診断対象の登録漏れや初回の実行条件は丁寧に確認しておきたい。
📰 リリースまとめ 📰
AI を活用した自律型ペネトレーションテストからASM までを実現
Web/Web API/モバイルアプリ脆弱性診断プラットフォーム「Ostorlab」の販売を開始
テクマトリックス株式会社(東証プライム、証券コード:3762、代表取締役社長:矢井隆晴氏)は2026年9月1日、米国Ostorlab, Inc.(本社:米国デラウェア州、最高経営責任者:Alaeddine Mesbahi氏)が提供する脆弱性診断プラットフォーム「Ostorlab」の国内総販売代理店権を取得し、同日より販売を開始した。日本語サポートを付帯して提供する。
Ostorlabは、企業のWeb/Web API/モバイルアプリと外部公開資産を対象に、継続的なセキュリティ診断を実現するプラットフォームである。攻撃対象領域(アタックサーフェス)の可視化から脆弱性診断、自律型AIを活用したペネトレーションテストまでを一元的に提供し、DevSecOpsの推進とセキュリティ運用の効率化を狙う。
診断対象の登録方法は幅広い。モバイルアプリはPlayストアやApp Storeから直接選択できるほか、ストア公開前のAPK/IPAといったバイナリファイルをアップロードしてスキャンできる。WebはURL、Web APIはOpenAPIなどのスキーマファイルを起点にスキャンする。
同社ソフトウェアエンジニアリング事業部によると、製品選定の出発点はモバイルアプリだったという。「Webアプリケーションの脆弱性診断ツールは数多くあり、一部はAPI診断も追加してきている。しかしモバイルアプリに関しては診断ツールが少なく、従来は外部の診断サービスに手動診断を委託するケースが多かった」。結果としてWebとWeb APIも含めた横断的なカバレッジを備える製品に行き着いた形だ。
アタックサーフェスの可視化から始める
Ostorlabの1つ目の特長が、攻撃対象領域の可視化である。インターネット上に公開されているドメインやIPアドレス、Web/モバイルアプリ、APIなどを洗い出し、資産を継続的に監視することで、シャドーITや公開設定の不備といったリスクを早期に発見する。
この機能が想定するのは、「セキュリティ対策の必要性は理解しているが、どこから手をつければ良いか分からない」という層だ。取材では、自社が保有するWebアプリやモバイルアプリがどれだけインターネットに公開されているか把握できていない企業も少なくない、との説明があった。いくら診断を実施しても、把握できていない資産に脆弱性があればそこを突かれてしまう。まず攻撃面を見えるようにすることから始めよう、という導線である。
二要素認証にも対応した継続的診断
2つ目の特長が、継続的な脆弱性診断である。Web/Web API/モバイルアプリに対する診断を自動で継続的に実施し、結果はリスクや対策とあわせて提示される。専門のセキュリティ担当者だけでなく、開発部門や運用部門でも活用できることを想定した設計だ。
診断エンジンにもAIが組み込まれている。動的解析(DAST)は画面を遷移しながら、遷移先のURLにペイロードを送って応答を見るのが一般的な流れだが、実際には画面がうまく遷移しない、遷移経路を毎回手動で設定しなければならないといった課題がつきまとう。Ostorlabではこの画面遷移の部分にAIを用い、可能な限り自動でクローリングを進めることで網羅性を高めている。
昨今のアプリケーションで一般的になった二要素認証への対応も、この文脈にある。メールやSMSで送られるワンタイムパスワードを伴うアプリケーションでも、テストを自動化できる。
さらに、診断後に新たに公開されたCVEが診断対象に自動的にマッチングされる。一度スキャンすれば、対象アプリケーションが使用する言語やミドルウェア、OSSコンポーネントが「フィンガープリント」として保持される。後日CVEが公表された際、脆弱性一覧の画面から自社資産に関連するものを絞り込み、どのアプリケーションが影響を受けるかを確認したうえで、その場から脆弱性スキャンを実行できる。
参照する脆弱性データベースは現時点でNVDだが、今後はEUVD(EU Vulnerability Database)にも対応する予定だという。取材では、EUのサイバーレジリエンス法(CRA)が既知脆弱性の悪用可能性の迅速な判断と報告義務を求めていることが、この機能の背景にあると説明された。
「脆弱性がある」ではなく「悪用できる」を検証する
3つ目の特長にして最大の差別化点が、自律型AIによるペネトレーションテストである。
従来、人手でペネトレーションテストを行う場合は、まずアプリケーションの仕様や業務フローを理解したうえで、「本来見えてはいけない他人の口座が見えてしまう」「管理者でないのに情報を取得できてしまう」「送金先を書き換えられてしまう」といった、発生すると実害になるパターンを洗い出す。そのうえで一つずつ手作業で検証していく。脆弱性の有無を探すのではなく、起きてはならない事象が起こせるかを確かめる作業である。
Ostorlabの自律型AIは、この工程を代替する。アプリケーションの仕様や業務フローを可能な限り自動的に把握し、想定されるリスクを洗い出したうえで、AIが自ら攻撃を試行する。権限管理を突破できないか、管理者権限を取得できないかをトライアンドエラーで確かめ、成功すればその権限を使ってさらに次の攻撃を仕掛ける。この実証を自律的に繰り返し、最終的に悪用可能な問題が成立するかどうかを検証する。
利用にあたっては、ユーザーが保有するAIのAPIキーとモデルを設定するか、メーカーが用意する生成AIのパッケージを使用する。前者を選べば、社内のAI利用ポリシーに沿った運用が可能になる。
検出結果には、スクリーンショット、リクエスト/レスポンスログ、再現手順といった「証拠レベルの高い」情報が含まれる。テクマトリックスは、これにより開発部門で数週間かかっていた脆弱性の優先順位付けと修正を、数時間単位へ短縮できるとしている。
公開されたスキャン結果の画面では、脆弱なバンキングアプリケーションを対象に「Web Deep Agentic Scan」プロファイルを実行し、Werkzeugデバッグコンソールの露出、ログイン処理のSQLインジェクション、パスワードリセット用PINのレスポンス露出などが「緊急(Critical)」として検出されている。
中でもGraphQLエンドポイントの事例は、この機能の性格をよく表している。検出されたのは「GraphQL 認可バイパス/IDOR」で、根本原因はエンドポイントがJWT Bearerトークンによる認証は実装しているにもかかわらず、認可チェックを行っていないことにある。transactionSummaryクエリのaccountNumberパラメーターが認証済みユーザーの権限に対して検証されていないため、有効なアカウントを持つ攻撃者であれば、システム内のあらゆる口座の取引データを照会できてしまう。レポートには推定される脆弱なリゾルバーの実装パターンまで提示されている。
従来の動的解析であれば、「GraphQLのイントロスペクションが有効化されており怪しい」という指摘までで止まる。そこから先、実際にパラメーターを操作して他者の取引データを列挙できるところまで自動で踏み込む点が、本機能の特徴といえる。
診断頻度を上げ、内製化を支援する
自律型AIによるペネトレーションテストは、リスクを一つずつ検証していくため、パターンマッチング型の診断に比べて実行に時間がかかる。このため同社は、日常的に回すものではなく、アプリケーションのロジックが大きく変わったタイミングで実施する機能と位置づけている。
「従来は年1回、検証会社に依頼していたお客様が、半年に1回、3カ月に1回と頻度を上げられるようになる。アプリケーションは日々変わっているので、これまで検証できていなかった業務フローやロジックに関連する問題を検出できる」(同事業部)
繰り返し実行した場合の挙動についても説明があった。Deep Agentic Scanは、毎回ゼロからリスクを探索する仕組みではない。初回のスキャンでアプリケーション全体を調査してリスクや攻撃経路を特定し、2回目以降は過去の発見結果や確認済みの攻撃経路を活用しながら、新規・変更箇所を重点的に診断する。これによりスキャンのたびに結果が入れ替わることを避け、過去の結果を引き継ぎながら診断範囲(カバレッジ)を継続的・累積的に広げていく設計だという。
修復フェーズでは、フレームワークや言語に応じた個別の修正提案が提示されるほか、GitHubやGitLab、Jiraなどのツールと連携してスキャン結果を投稿できる。SAML認証にも対応する。
管理画面とレポートは日本語化されている。取材によれば、Ostorlabのプラットフォーム自体が自動翻訳の仕組みを備えているため、本国で新機能が追加されてから日本語化されるまでのタイムラグは基本的に発生しないという。「気づくと知らない機能が日本語で使えるようになっている、という感覚」とのことだった。
なお、製品評価の進め方について、同社の資料には「テクマトリックスが診断を実施し、結果を報告する」とある。誰でも回せる内製化を訴求する製品としてはやや意外だが、この点について聞いたところ、リリース直後の段階では暗号化情報や二段階認証の設定など、つまずきやすい箇所があるため、まず同社が一度スキャンして結果を説明し、その後に顧客自身で試してもらう流れにしているという。「お客様がつまずかないようにするための支援」という位置づけである。
Ostorlabの詳細は製品Webサイトで公開されている。
📎 一次情報・関連リンク 📎
- テクマトリックス プレスリリース(2026年9月1日):https://www.techmatrix.co.jp/nc/news/ostorlab_20260901_newsrelease.html
- Ostorlab 製品ページ(テクマトリックス):https://www.techmatrix.co.jp/product/ostorlab/index.html
- Ostorlab, Inc.:https://ostorlab.co/
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