スタートアップや学生が競う「Microsoft Innovation Day」開催
世界規模の学生向けITコンテストの日本予選である「Microsoft Imagine Cup 2016 日本予選大会」と、スタートアップなどによる革新的なサービスや製品などを表彰する「Microsoft Innovation Award 2016」の、2つの毎年開催されているコンテストが1つに集まったイベントだ。ちなみに、CMなどでおなじみの名刺管理サービスSansanも、Innovation Award 2009を受賞している。
審査委員長を務めた日本マイクロソフトの伊藤かつら氏は、講評で「Innovation AwardとImagine Cupを合わせたことで、学生からアラサー、アラフォーの大人まで集まって、面白いイベントになった」と述べ、「第4次産業革命(Industry 4.0)の時代に、Microsoftは要素技術を提供する立場にある。そこで重要なのは、閉じていないオープンであることと、新しい技術を使って新しいものを生み出す皆さん」と参加者に語りかけた。
また、開会の挨拶に立った同社 代表執行役社長の平野拓也氏は、「Microsoftがイノベーションを支持するのは、今を作りかえてより快適にする“Growth mindset”の文化による。そのためにはデベロッパーが欠かせない」として、ベンチャーを支援する「BizSpark」や、学生や教員を支援する「DreamSpark」を紹介した。
以下、Innovation Award 2016を中心にレポートする。
最優秀賞は「身体ハッキング」
Innovation Award 2016では、書類審査と面接を通過した16チームが登壇し、それぞれのサービスや製品をプレゼンした。応募条件は「マイクロソフトテクノロジを活用していること」「製品またはプロトタイプが完成し、デモが可能なこと」。機器を使ったものから、科学研究のためのもの、農業や店舗を支援するものまで、幅広いジャンルのアイデアがデモされた。
最優秀賞&日本航空アントレプレナー賞は、筑波大学/人工知能研究室の「bioSync」が受賞した。「身体ハッキング」というインパクトのあるテーマを掲げた、人の運動神経接続にもとづく運動感覚共有デバイスだ。生体信号計測と筋電気刺激を組み合わせ、身体の動きをほかの人に伝えて、同じ動作をさせるという。
医療をターゲットとしており、「患者が言葉にしにくい身体・感覚的特性を医者が理解する」「リハビリで直感的な筋活動を教える」「パーキンソン病患者の手の震えを再現して、患者用プロダクトのデザインを支援する」「スポーツ支援」といった用途を想定している。マイクロソフトの技術としてはXamarinを利用し、マルチプラットフォームに展開する。すでに日・米・仏の学会で受賞歴もある。
審査員特別賞は、エルピクセル株式会社の「科学を加速させるAI〜クラウドを活用したライフサイエンス研究画像解析〜」とHmcomm株式会社の「The VOICE JP」が同点で受賞した。
東大発ベンチャーのエルピクセル(LPixel)がデモしたのは、ライフサイエンス向けの画像解析サービスだ。画像をまとめてアップロードし、解析目的を選択するだけで、解析結果が得られる。背景としては、ライフサイエンス研究の画像のデータ量が10年で100倍以上になり、ライフサイエンス論文の86%で画像が用いられているのに、画像処理スキルを学ぶ機会がないことがあるという。それに対し、「小学生でも使える」「短時間で大量に解析」「高精度で解析」をコンセプトにサービスを開発した。
産総研発ベンチャーのHmcomm株式会社は、音声認識とディープラーニングによるクラウドプラットフォーム「The VOICE JP」を紹介した。The Voice JPをベースとして3月にリリースされた「VBox」は、音声データをアップロードするだけで高い精度で音声認識しテキスト化するというサービスだ。インタビューの文字起こしや、教材音声のテキスト化などを想定している。
「The VOICE JP」は、スポンサーの選ぶ「The BRIDGE賞」も受賞した。スタートアップニュースサイトThe BRIDGEは、選考理由として「イベント取材などに使いたい」とコメントした。
会場やインターネット経由の参加者からのTwilioによる電話受付で決まる「オーディエンス賞」は、株式会社Secualの「Secual」が受賞した。
Secualはホームセキュリティをカジュアルに実現する製品で、4月末より出荷。窓センサーと、コンセントに挿す小さなサイズで窓センサーとインターネット上のサーバーをつなぐゲートウェイからなり、通知や操作はスマートフォンアプリから行なう。これにより、防犯や閉め忘れに対策する。初期費用3万円、月額980円と、ホームセキュリティとしては安価なのが特徴。さらに、センサーデータをAzure上のAIによる独自技術(特許出願手続き中)で分析して誤検知を防ぐほか、スマートロックやカメラなどと接続できる拡張性などもあるという。
「Secual」は、スポンサーの選ぶ「PR TIMES賞」も受賞した。プレスリリース配信のPR TIMESは、選考理由として「自分も利用したいと思った」とコメントした。
展示会場でデモされた中から同じく参加者が選ぶ「展示オーディエンス賞」は、株式会社メルティンMMIの「ロボットハンド/筋電義手」が受賞した。
スポンサーの選ぶ「サムライインキュベート賞」は、株式会社しくみデザインの「KAGURA」が受賞した。KAGURAは体の動きで音楽を演奏するソフトウェア楽器で、画面に表示されたアイコンを体の動きで操作する。リアルタイムな動作認識や、リアルタイムな動画エフェクト、レイテンシーを感じさせない楽音生成アルゴリズムなどにより実現している。
なにより演奏している様子が近未来的で、壇上でも実際に演奏をしてみせて会場の喝采を浴びた。サムライインキュベートも選考理由として「われわれはシードに特化した投資で、わくわく感を大事にしている。KAGUAのプレゼンから、そのわくわく感が伝わってきた」とコメントした。
同じくスポンサーの選ぶ「Tech in Asia賞」は、株式会社WHITEの「Milbox Touch」が受賞した。Milbox Touchは、タッチインターフェイス対応のダンボール製ゴーグルだ。普通のスマートフォンを装着するダンボール製ゴーグルではタッチ操作ができないのに対し導電シールでタッチやスワイプができるようにする。パートナーにOEMで提供するビジネスモデルで、SDKを無償提供する。ゲームとしてパックマンをVR化した「MilboxTouch ver. VR PAC-MAN」も公開している。
アジアのスタートアップニュースのTech in Asiaは選考理由として「値段が高くなくてスケールするので、アジアを市場にできる」とコメントした。
そのほか、「弥生賞」として全16チームに「弥生会計オンライン」14か月の無償利用権とハンドスキャナが授与された。
「りんな」の中の人がAIを語るパネルディスカッションも
スタートアップ関連のパネルディスカッションも3つ開かれた。
「地方創成で活性化する地方都市のスタートアップエコシステム」では、地方都市によるスタートアップ支援について話し合われた。モデレーターを務めた日本マイクロソフトの砂金信一郎氏はまず、地方都市の取り組みとして、先進的な首長がリードするケースと、地域の課題を解決しようとするケースと2種類があると説明した。
神戸市の多名部重則氏は、明確なスタートアップ支援をしている神戸市の最近の取り組みとして、「500 Startups」とパートナー協定を結んで「500 Startups KOBE Pre-Accelerator」の実施を決定したことを紹介した。
パソナテックの粟生万琴氏は、岐阜県で新規事業として行なった、県庁や情報科学芸術大学院大学(IAMAS)と連携した新製品開発や、学生向けのプログラミング勉強会を開催したことなどを紹介した。さらに、佐賀県の学生にITの仕事をクラウドソーシングで体験してもらう取り組みについても語った。
経済産業省の津脇慈子氏は、スタートアップの力で省内のITシステムを変革したことや、神戸の多名部氏や日本マイクロソフトの砂金氏らと、ベンチャーと自治体のマッチングを実施したことを紹介した。
現状と今後については、砂金氏が「企業にできることはメンタリングぐらい」と言うと、多名部氏は「それより大きいのは人を紹介してもらえること」と発言。津脇氏も、「自治体から『企業とつなげてくれないか』という問合せが週に1件ぐらい来る」と語った。
「人工知能の現実と未来〜りんなの中の人と語る〜」では、株式会社ウサギィ 代表取締役の町裕太氏と、マイクロソフトの女子高生AI「りんな」のプログラムマネージャーの坪井一菜氏が、日本マイクロソフトの大田昌幸氏(テクニカルエバンジェリスト)の司会で語りあった。
りんなについて坪井氏は「SiriやCortanaのようにプロダクティビティを支えるものではなく、感情的な絆を作るもの」と紹介。印象的なエピソードとしては、喧嘩のような会話から仲直りした例や、仲のよい友達のような会話の例を紹介した。
町氏は、機械学習により、アップロードされた写真からごはんかどうか判定する「画像解析できるマン」を紹介し、「93%の精度」と誇った。印象的なエピソードとしては、電車の画像をひたすらアップロードして、ごはんと誤判定するポイントを探ってブログにまとめた人の例を語って会場の笑いを誘った。町氏は「自分だけでテストしていては突飛な例はない」と、公開して変った使い方をしてもらう意義を述べた。
三者がAI関連のサービスのアイデア源として挙げたのが、映画や小説などのSF作品だ。坪井氏は「願望をとりいれることができる」と、町氏は「想像できることには追いつける、追いつく努力をする」と語った。
「世界と戦える日本のテクノロジー、世界へ飛び出す日本のスタートアップ」では、スタートアップニュースサイトThe BRIDGEの池田将氏をモデレーターに、スタートアップ企業4社が登壇した。
財産ネット株式会社の荻野調氏は、株式情報サービス「兜予報」を紹介した。株価の材料となりそうなニュースをピックアップし、それをもとに各自が売買を判断して、デイトレードをシミュレーション体験をするという。現在、海外展開のための準備として各国を回っているという。
ドレミングアジア株式会社の桑原広充氏は、世界の貧困層の4人に3人が銀行口座を持っていないため買い物が制限されることを背景に、給与を担保に決済できる「Payming」を説明した。もともと、人事管理や給与計算のシステムを開発しており、それをベースに開発中という。福岡を中心に、アメリカとイギリスにもオフィスを設け、特にイギリスでは難民対策向けで政府からオファーを受けたという。
株式会社ナレッジコミュニケーションの小泉裕二氏は、AWSやAzure上で業務に利用できる機械学習をアナリストなしに活用できる「ナレコムAI」を紹介し、三菱東京UFJの「MUFG Fintechアクセラレータ」に選ばれたと語った。また、ブロックチェーンによって安全にデータを保存する分散ストレージについても説明した。
Alpaca db. Incの北山朝也氏は、チャートをディープラーニングにより画像認識し、投資行動をプログラミングなしでアルゴリズムにする「Capitalico」サービスを紹介した。将来的にはプロ投資家の行動パターンの販売も計画しているという。同社の創業者は日本人だが、最初からグローバル展開を考えてシリコンバレーを本社とし、東京にもオフィスを設けている。
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