第3回:ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜ホテル会社の対応事例 (3/3)

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事例から学ぶBCMの本質

第3回:ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜ホテル会社の対応事例

著者:みずほ情報総研  多田 浩之   2007/2/9
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スターウッドホテルがハリケーン・カトリーナ危機において実施した具体的な応急対策・対応の例

   表3および表4に、ハリケーン・カトリーナ再上陸の数日前から直後と再上陸の翌日以降に分けて、同社が実施した具体的な応急対策・対応の例を示します。
対策・対応期間 具体的な応急対策・対応の例
ハリケーン・カトリーナ再上陸の3日前(この時点では、ハリケーン・カトリーナは、フロリダ州パンハンドル地域に向かうと予報されていた) ハリケーン・カトリーナ接近警報の発令後、ニューオリンズ市内の3つのホテルで緊急時指揮センターを設置。各ホテルの執行部、待機状態にある地域復旧チームおよび本社スタッフ(ニューヨーク州)間で、毎日電話会議を開始。
本部危機管理チームおよび地域危機管理チームが、必要な非常用発電機、電気修理工、地域復旧チームなどをハリケーン・カトリーナ通過後に輸送が容易な待機所に配置。また、除湿器、ディーゼル燃料、ガソリン、食料、水などのニーズを見越して、それらを一度に輸送可能な場所に待機。
ニューオリンズ市内の3つのホテルが、BCPにそって準備を開始。シェラトンホテル・ニューオリンズの場合では、宿泊客1,000人の1週間分の食料と水を確保し、非常用発電機(ディーゼル燃料、油、蓄電池などを含む)をチェック。
ハリケーン・カトリーナ再上陸の2日前(この日になって、ハリケーン・カトリーナがニューオリンズ市に向かうとの予報に変わった) ニューオリンズ市から避難命令が発令。この時点で、市内の3つのホテルの宿泊客を避難させる十分な時間と手段を失う(ホテル側で、利用可能な航空便、レンタカー、貸切バスなどを手配するも、すべて売り切れ)。
緊急対策として、ホテル宿泊客、従業員およびその家族をホテルに収容し、彼らの安全を確保することを最優先事項とすることを決定。
ハリケーン・カトリーナ再上陸の1日前〜再上陸直後 ニューオリンズ市から強制避難命令が発令(ハリケーン・カトリーナ再上陸の19時間前)。
Wフレンチ・クォーターホテルの宿泊客をNニューオリンズホテルに移動(Nニューオリンズホテルの方がより多くの緊急用資源を備えていたため)。Wフレンチ・クォーターホテルにて、現地の保安活動の任務に着いていた警察部隊に施設を提供。
Wフレンチ・クォーターホテルおよびシェラトンホテル・ニューオリンズの従業員、避難手段を持たない関係者およびその家族を、両ホテルに無料で収容。
すでにホテルをチエックアウトしていた宿泊客で、暴風雨のためニューオリンズ市を脱出できなかった者もホテルに無料で収容。
収容したホテル客、関係者、その家族に対して、きめ細かな安全・安心を提供。
  • 宿泊客を客室からより安全な大広間に移動。
  • 子供に映画を上映、大人には災害に関する最新ニュースを提供。
  • 暖かい朝食を提供(ハリケーン・カトリーナ再上陸時の早朝に、ホテルの主要電源を喪失したが、停電を見越して、朝3時から調理)。
  • 病人や医療ケアを必要とする者に対しては、呼吸器、流動食チューブを提供。ホテルのスタッフが、別の防護されたホテル内会議室で、彼らを継続的にケア。そのための非常用電源を確保。
  • ホテルのITチームが、電話回線およびインターネットサービスの維持に成功。

表3:スターウッドホテルが実施したハリケーン・カトリーナ再上陸直後までの
具体的な応急対策・対応の例
(上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)

対策・対応期間 具体的な対応の例
ハリケーン・カトリーナ再上陸の翌日以降(前日にニューオリンズ市内の堤防の決壊があったが、政府当局は、これを迅速に発表せず) 堤防の決壊によりホテル客の安全が危惧されたため、緊急避難を開始。ホテル客や従業員の自家用車や探し出したバスなどを利用して、ホテル客をダラス市内のスターウッド関連ホテルに搬送(セキュリティ・エスコート付)。搬送の途中で、コンベンションセンター(多くの市民が避難していた)の避難民や、搬送バスを見かけて助けを求めた市民も同乗させた。
堤防の決壊により、現地の警察施設が壊滅。警察・公安関係者のリクエストにより、2週間にわたり宿泊場所を無料で提供。
本部危機管理チームが、マイアミからバスでシェラトンホテル・ニューオリンズに到着(ハリケーン・カトリーナ再上陸の2日後)。この時には、同ホテルが浸水しないことが判明していたため、同ホテルが、市内の3つのホテル全体の指揮センターとして機能。被害状況の査察と必要な設備の設置を開始。
除湿器、発電機などが到着。ニューオリンズ市のダウンタウンのホテルで、被災後、Wフレンチ・クォーターホテルにて最初に照明が点灯(ハリケーン・カトリーナ再上陸の4日後)。
浄化槽が到着。ポンプによるホテルの排水作業を開始。3つのホテルのすべての外部照明が点灯(ハリケーン・カトリーナ再上陸の6日後)。その後、被災の修理などの復旧作業を開始。
シェラトンホテル・ニューオリンズにて営業再開(ハリケーン・カトリーナ再上陸の2週間後)。
住居を失った従業員とその家族に対して、同社の関連ホテルにて宿泊場所と食事を提供するとともに、給料を支給(被災後1ヶ月間)。
被災従業員に対して、各種の生活再建支援を提供。
ホテルの復旧作業を支援するために、ニューオリンズ市に戻ることができた被災従業員に対して、倍の給料を支給。

表4:スターウッドホテルが実施したハリケーン・カトリーナ再上陸翌日以降の
具体的な応急対策・対応の例
(上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)

   スターウッドホテルは、ハリケーン・カトリーナ再上陸前から、同社のBCPにそって、ニューオリンズ市内の3つのホテルの宿泊客の安全確保・対策を行っていましたが、同市の堤防決壊の危機を受けて、あらゆる手を尽くしてホテル客や従業員を無事、安全な場所にまで避難させたことは賞賛に値します。

   また、ホテル客や従業員の搬送の過程において、助けを求めてきた地元住民も搬送バスに同乗させたことや、被災により住居を失った従業員およびその家族にも宿泊場所や食事を提供し、給料を支給したことなども、「企業文化のあり方として良い例」になるのではないかと思います。

   なお、同社のKevin Regan氏(南東地域担当副社長)は、上院の聴聞会で、当該危機から得たもっとも重要な教訓として以下をあげています。

  • 予期していなかった事態に対応できるように、柔軟性を持ったBCPを備え、創造性を持ってBCPを実行する。また、自社の従業員を信頼する

  • 絶えずコミュニケーションを行う

  • 緊急時における危機管理指導力は、自身の行動に対して責任を持つ以上の責任をともなう。意思決定は、必要なときに行われなければならない。誰かが動くのを待って行うものではない

  • 最も危機に直面しているレベルに意思決定の権限を与え、それを皆で支援する

表5:当該危機から得た教訓

   次回は、ウォルマートの事例について解説していきます。

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みずほ情報総研株式会社 多田 浩之
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社
多田 浩之

情報・コミュニケーション部 シニアマネジャー
1984年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学研究科修了、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。専門は非常時通信、危機管理および産業インフラリスク解析。現在、ICTを活用した産学連携安全安心プラットフォーム共同研究に携わる。中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」下の小委員会・分科会委員、内閣府「消費者教育ポータルサイト研究会」委員などを歴任。


INDEX
第3回:ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜ホテル会社の対応事例
  ハリケーン・カトリーナ危機に対するBCMに成功したスターウッドホテルの事例
  スターウッドホテルのBCMの基本方針とその対応
スターウッドホテルがハリケーン・カトリーナ危機において実施した具体的な応急対策・対応の例
事例から学ぶBCMの本質
第1回 BCMとは何か
第2回 ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜エネルギー会社の対応事例
第3回 ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜ホテル会社の対応事例
第4回 ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜小売企業の対応事例
第5回 大規模震災に向けたBCMのあり方

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