ブラウザ戦争とDOCTYPEスイッチ

2009年1月5日(月)
菊池 崇

ブラウザ戦争とは

 今回はブラウザ戦争とDOCTYPEスイッチについて紹介し、ブラウザ戦争、Web標準、Doctypeスイッチが互いに密接にかかわりあっていることを理解したいと思います。

 ブラウザ戦争とは、1994年から2000年ごろまで、Netscape Navigator(NN)とInternet Explorer(IE)の間であった市場のシェア争奪戦を指します。

 NNもIEも分かりやすいGUIを搭載したNCSA Mosaicと呼ばれるブラウザが元になった製品ですが、この2つのブラウザはシェアを奪いあうために数年にわたって、しのぎを削ることになります。

 1994年当時、IEがリリースされる前は、当時のブラウザの数が限られていたこともあり、NNが世界最大のシェアをもっていました。

 1995年8月、IE1.0は1995年にWindows 95と同時に発売されました。そのわずか2ヶ月後の1995年10月には、IE2.0を無料で公開(配布)しました。今では当たり前ですが、当時として衝撃的な出来事でした。MicrosoftはOSを販売していたので、ブラウザをその付加価値として考え、無料で公開したのです。後にこれは、NNがOSとの抱き合わせ販売として、独占禁止法でMicrosoftを訴えるほどの問題になりました。無料で公開したことによってIEのシェアは爆発的に伸び、NNに大きく差をつけることになります。

 1996年になるとNN2.0がリリースされました。これにはNNが開発した「LiveScript」が搭載されていましたが、実はこれが後に「JavaScript」と名前を変えることになります。また、このころから不完全な形ながらNNとIEの両者ともCSS 1.0のサポートをはじめています。

 1997年から1998年になるとブラウザ戦争がより激しくなります。1998年には、W3CとJeffrey Zeldman率いるWaSPという団体が、独自拡張はユーザー/開発者に負担をかけてしまうとして、ブラウザ戦争をやめるようにと双方に働きかけます。1998年以降、IEがシェアを獲得するという形で2000年に終息を迎えていきました。

 さて、IEが市場のシェアを獲得したブラウザ戦争ですが、その中で面白いエピソードが3つあるので紹介します。

 1つ目は、NNは1.0から9.0まで存在していますが、実はNN5はリリースされていません。NNはIE5がリリースされたのを見計らい、それに対抗すべくマーケティング的理由でNN5ではなくNN6をリリースしました。ネーミングでもIEに勝ちたかったようです。ただ、NN5のソースコード自体は公開され、これを管理する団体としてMozillaが設立されました。

 2つ目は、ブラウザ戦争当時に勧告されたHTML 3.2に採用されたFONT要素がありますが、これはNNが提案した要素です。

 3つ目は、ブラウザ戦争当時にIEはNNのソースコードを元に開発したため、CSSのバグも一緒にコピーしてしまいました。実はこれがIE6にもそのままコピーされてしまっています。

DOCTYPEスイッチの生まれた理由

 DOCTYPEスイッチとは、DTDによって表示モードが切り替わる仕組みのことです。Firefox/Opera/Safariでは「標準準拠モード」「ほぼ標準準拠モード」「後方互換モード」の3つに、IEでは「ほほ標準準拠モード」「後方互換モード」の2つに表示モードが切り替わります。この仕組みはブラウザ戦争当時の1998年に発明されました。

 ブラウザ戦争のころは、Web標準(CSS)は無視されることが多く、開発者もWeb標準にのっとったWebサイトも限られていました。ところが、W3CやWaSPがWeb標準を唱えはじめ、IEもCSSをサポートするようになりました。

 しかし、それによって今まで大量につくられたWeb標準ではない文書とWeb標準に則した文書をどのように振り分けて表示するかが問題となりました。そこで、当時W3CのメンバーにいたTodd FahnerがDTDを用いてWebサイトの表示モードを切り替えることを提案したのです。これがDOCTYPEスイッチです。後に正式にブラウザがサポートする方向へ進んでいきました。

 つまりDOCTYPEスイッチは、Web標準へ向かうためのひとつの大きな節目であり、スタートラインでした。

 それから2年後の2000年に、MicrosoftがIE5をMacのブラウザとして初めてDOCTYPEスイッチを搭載して公開されました。

 実はTodd Fahnerは後にCSSに慣れている方なら知っている画像置換(Fahner Image Replacement)というテクニックを考案したりと、非常に素晴らしいWeb開発者のひとりでしたが、今はWebの一線から退き、オレゴン州で「clevercycles(http://clevercycles.com)」というサイクリングショップを経営しています。彼ほどの人物がWebの世界にいないことは、何か寂しいような気がします(図1)。

 DOCTYPEに関する表をただ覚えたりするのは面白くなく非常に大変ですが、ブラウザ戦争からの流れを理解すれば、楽しんで学ぶことができるでしょう。

【参考文献】

「Firefoxの歴史(PDF)」(http://foxkeh.jp/downloads/history/history-standard.pdf)(アクセス:2008/12)

「Zeldman: Designing With Web Standards」(http://www.zeldman.com/dwws/)(アクセス:2008/12)

「Jeffrey Zeldman Presents: The Daily Report」(http://www.zeldman.com/daily/0203c.shtml)(アクセス:2008/12)

「Clever Cycle- Todd Fahner」(http://clevercycles.com/blog/)(アクセス:2008/12)

ActLink株式会社(http://www.actlink.co.jp/)にてプロデューサー、allWebクリエイター塾(http://all-web.org/modules/tinyd5/)では、XHTML+CSS、Microformatsの講師。また、2008年11月に行われたWeb Directions East(http://south08.webdirections.org/)のプロデューサーでもありMicroformats japanの代表。

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