ONSに参加する意図をOpenStack FoundationのJonathan Bryce氏に訊いてみた
The Linux Foundation主催のOpen Networking Summit North America 2018では、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)のExecutive Director、Dan Kohn氏やOPNFV(Open Platform for NFV)のDirector、Heather Kirksey氏なども会場で見かけた。先日行われたOpen Source Leadership Summitに参加した国内のSIベンダーの方から「こういうカンファレンスは、マネージャーやデイレクターという人達とまとめて打ち合わせができることがありがたい」というコメントを貰ったことがあるが、Linux FoundationやOpenStack Foundation、そしてCNCFの人達にとっても、国内外のベンダーやコミュニティの人達とこの場で意見交換や交渉を行える場所として機能していることが分かる。
事実、去年のOpen Source Leadership Summitで「MicrosoftとDeisのエンジニアがかなり長時間打ち合わせをしていた。それが結果的にDeisの買収につながったのでは?」とJim Zemlinがコメントしていたのを記憶している。
今回の記事は、OpenStack FoundationのExecutive Director、Jonathan Bryce氏のインタビューをお届けする。OpenStack Foundationは、昨年のAustinで開かれたKubeConに続いて、今回のONSにもブースを出展している。
仮想マシンベースのクラウドインフラストラクチャーを提供するOpenStackだが「去年のサーベイによれば、ユースケースのかなりの部分はKubernetesのインフラストラクチャーとして使われている」そうだ。クラウドがよりマイクロサービスに向かっていく中で、OpenStackの向かう先は何か?
今回のOpen Networking Summitに出展した意図を教えてください。
OpenStackは、17番目のリリースQueensを出しました。最近のOpenStackは、これまで以上に様々なところで使われています。そして昨年のSummitで「インテグレーション戦略」というものを発表しました。これは、OpenStack以外の様々なオープンソースプロジェクトと統合していくことを意味しています。例えば、CephやCloud Foundry、Kubernetesと言ったプロジェクトですね。
しかし実際にオープンソースソフトウェアを使ってシステムを構築しようとすると、大きな問題にぶつかります。それは「選択肢が多すぎる」という問題です。これはオープンソースソフトウェアとしては良いことなのですが、ユーザーにとっては良くないことかもしれません。なぜなら選択肢が多過ぎることで選択が難しくなり、同様に検証も困難になります。個別のプロジェクトは完結していてその中で開発が行われますが、実際の現場では他のソフトウェアと組み合わせて使うことが起こるわけです。その時に何を組み合わせると良いのか。それは、はユーザーが決めなければいけないのです。
KubernetesはOpenStackの上で多く使われていますが、その組み合わせをより安定したものにするために、QueensリリースではOpenStack Provider Interfaceの開発とテストを重点的に行いました。それによって、Kubernetesによるオーケストレーションがより安定して稼働するようになりました。そういうことで、インテグレーションというのはOpenStackにとってとても重要な部分なのです。
もうひとつの例を挙げます。昨年OpenStack Foundationは、Kata Containersというプロジェクトをサポートすることにしました。これはコンテナのワークロードを実行する際のランタイムになりますが、より小さなメモリーフットプリントと独立したカーネルを持つ、セキュアなコンテナ実行環境になります。すでにパブリッククラウドベンダーはIntelのClear Containerテクノロジーを使っていますが、それをよりオープンな形で中国のHyperと共同で開発を行っているものです。他にもMicrosoft、Google、HuaweiなどがKataに協力しています。Kataによって、OpenStack上でコンテナを実行する際に適したランタイムを提供できます。これもOpenStackのインテグレーション戦略の中に位置付けられるもので、OpenStackを使う際のギャップを埋めるものになります。
OpenStackがインフラストラクチャーをカバーして、その上にKubernetesでコンテナが稼働するという図式ですと、OpenStackとKubernetesでオーバーラップしているところがあるように思えます。それに関しての問題はないのですか?
確かにオーバーラップする部分はあります。しかしお互いが補完する関係だと思いますね。例えば、eBayはOpenStackの上で多くのシステムを動かしていますが、同時にベアメタルはIronicを使って制御していますし、Kubernetesを使ってコンテナを動かしています。ですが、まだ仮想マシンベースのワークロードも多数存在しますし、全てのワークロードが完全にマイクロサービス化されるわけではありません。なのでOpenStackはKubernetesを補い、よりダイナミックなインフラストラクチャーとして支えるものというように見るべきだと思います。
先ほども紹介しましたが、ユーザーサーベイの中ではKubernetesを動かすためのクラウドとしてOpenStackが選択されていることが、明らかになっています。そしてOpenStackがKubernetesを実行する際に最適なクラウドプラットフォームであることも変わりありません。パブリッククラウドであれば、それぞれのプラットフォームでKubernetesを稼働させれば良いのでしょうが、オンプレミスでKubernetesを実行するとなると、それに最も適したプラットフォームがOpenStackなのです。
組み合わせが難しいということでOpenStack Foundationとしてベストな組み合わせというか、ガイドラインのようなものを提供する予定は?
それについては、すでに動き始めています。OpenStack自体のユースケースは従来のデータセンターとして使うだけではなく、CI/CDのプラットフォームとして使うことも増えてきています。それを支援するためにCI/CDのツール、例えばSpinnakerやJenkinsといったツールとどのように組み合わせれば上手く動くのかについて、テンプレートやブループリントを提供していこうという計画があります。CI/CDというユースケースの際に、OpenStackを使うためのノウハウを次のバンクーバーサミットでは「OpenDev」という別のカンファレンスを立てて紹介する予定です。
OpenDevのオフィシャルページ:OpenDev CI/CD Schedule Now Live: Collaborative, Technical Event Focuses on Jenkins, Spinnaker, Zuul and More
OpenDevはOpenStack Summitと併設で行われますが、どちらかと言えばプレゼンテーションではなくテーマごとにディスカッションを行う場として使われることを意図しています。
日本ではCI/CDやDevOpsを取り入れるには、まだまだ組織的な構造上の問題がある場合が多いと思います。それについては?
実はアメリカでも、トップのハイテクカンパニー以外を除けば、日本と状況はあまり変わらないと思います。やはりまだCI/CDを入れる上での文化的、組織的な問題は多いのです。これはあるエンタープライズユーザーが教えてくれたのですが、CI/CDを入れてテストからビルドまでを自動化したところ、テストで失敗した際のメッセージを「このテストに失敗したコードはジョナサンが書きました」という直接的な内容にしたところ、企業で大問題になってしまったという逸話があります。その企業はそのメッセージをどうするかについて、相当時間をかけて検討しましたが、最終的に「このテストに失敗したコードは~~のチームのものです」という程度に変えたというのです。このようにCI/CDそしてDevOpsは、ツールの問題以上に組織、文化に関わる問題なのです。それらをOpenDevの中で話し合い、最終的にはベストプラクティスを形にできれば良いと思います。
先ほどの話題の続きですが、OpenStackに対する大きなニーズの一つが、エッジコンピューティングです。これはSDxCentralのサーベイですが、「エッジコンピューティングにおいて使われるプラットフォームはなにか?」という調査の結果で、トップのプラットフォームがOpenStackでした。そして2位は、Kubernetesです。実は昨日(3月27日)の夜に、エッジコンピューティングのMeetupを行ったのですが、この狭い部屋で60名以上がディスカッションを行いました。エッジコンピューティングについては、それぐらいOpenStackが期待を集めています。それに関してももっと情報を提供し、議論を重ねていこうと思っています。
OpenStackに関して新しいトピックはありますか?
ではトピックを2つ紹介しましょう。1つめはFast Forward Upgradeです。これはエンタープライズユーザーからの声に応える形で開発をしているもので、6ヶ月ごとにリリースされるOpenStackのUpgradeを、複数のリリースを飛び越して行うものになります。これはエンタープライズやテレコムキャリアなどのユーザーで特にニーズの多かった機能で、6ヶ月ごとにUpgradeを行いたくないユーザーから、強く求められていた機能になります。これは、Queensの次のリリースから使えるようにしようと計画しています。
参考:An introduction to OpenStack fast forward upgrades
そして2つめがExtended Maintenanceです。これは古いリリースのメンテナンスを可能にするものです。通常は最新のリリースが出ると古いリリースのソースブランチはクローズされて、パッチのマージは行えませんでした。しかしExtended Maintenanceにより、Red HatやSUSE、Canonicalなど、OpenStackディストリビューションを開発している企業は、Long Term Supportと合せて顧客が使っている古いリリースに関してもパッチなどのコードをマージできるようになります。この2つは多くの顧客から求められてきた機能ですので、それを提供できるのは良いと思います。
OpenStack FoundationのExecutive Directorという要職にありながら、気さくな雰囲気と丁寧な受け答えが変わらないJonathan Bryce氏。CNCFやLinux Foundationなどの組織、様々なコントリビューター、そして常にユーザーとの対話と協調を怠らない姿勢は、オープンソースコミュニティの良い見本だろう。バンクーバーで開かれる予定の、今年のOpenStack Summitが楽しみである。
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