NTTデータが語るエンジニア像とその育成「旗を揚げる」ことの大切さとは?
現在、エンジニアを取り巻く環境は大きく変わろうとしている。その一例がオンプレミスからクラウドへの急速なシフトである。このような状況下のエンジニアには、従来の知見を活かしつつ、最新技術を積極的に身につける意識が求められている。
では、システムインテグレーションにおいて日本最大の技術者集団であるNTTデータは、これからの技術者像をどのように描き、育成を図ろうとしているのだろうか。NTTデータの技術者育成のキーパーソンにインタビューを実施し、今後求められるエンジニア像を明らかにしていきたい。
インタビュアーはLPI-Japan理事長の鈴木敦夫氏である。LPI-Japanは、Linux技術を中心に仮想化、コンテナやパブリッククラウドなどを扱う場合にも必須の技術を盛り込んだクラウド・DX時代の技術者認定であるLinuC(リナック)をはじめ、さまざまな認定試験の提供を通じて技術者育成に注力している。
NTTデータの技術者育成における3つの柱
話を伺ったのは、NTTデータのトップ技術者で技術者をリードする立場にあるエグゼクティブ・エンジニアリング・ストラテジストの濵野賢一朗氏、技術者を育成する立場にある人事育成担当部長の俣木淳哉氏の2名だ。濵野氏は、ビッグデータ処理のオープンソースソフトウェア(OSS)「Apache Hadoop」事業を立ち上げたことでも知られている(以下、敬称略)。
鈴木:本日はよろしくお願いします。濵野さん、俣木さん、最初に自己紹介をお願いします。
濵野:私は2009年にNTTデータに中途入社しました。以前からLinuxやオープンソースの教育に携わっておりました。古くはLinux技術者育成の社会人向け教育機関の学校長を務めたこともあり、OSSの技術者を増やしたいという思いを持っています。NTTデータでは、専門性の高い技術者による横断的なプロジェクト支援や、ミドルウェアやシステムアーキテクチャに関する技術開発に取り組んでいます。
俣木:私は銀行系SIのプロジェクトやOSSを活用した開発を経て、現在は技術革新統括本部で全社の技術者育成を担当しています。特に、デジタル人材育成のためのトレーニング・プログラム運営に力を入れており、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft、Google Cloud Platformなどのパートナーとも連携し、幅広く活動しています。技術者が新たな技術を身につけるのは大変なことですが、顧客からは新技術の適用を求められています。今年度は6,000名を超える技術者にトレーニングに参加いただいており、やりがいを感じています。
鈴木:ありがとうございます。新しい領域に対応できるように、すでにさまざまな取り組みをされているのですね。最初に基本的なことについてお尋ねしたいのですが、技術者を育成するときに最も大事だと思っていることは何ですか?
濵野:大きく3つあります。1つは、技術者なので当然ではありますが、ソフトウェアやハードウェアなどの技術の中身がわかっていることが大事です。課題を実現・解決するために必要な技術力を持っていることは大前提と言えるでしょう。2つ目は変化への対応力です。いまや「この分野の技術しかわかりません」という人材は厳しいです。また同じ技術でも、使われ方が変わってきたりしていることも背景にあります。
エンジニアとして「旗を揚げる」ことの大切さ
3つ目は、人材流動性が上がってきているので、技術者として「旗を揚げられる」ことも大事です。昔は「プログラマーやSE」をひとくくりにする傾向がありましたが、今はフロントエンドとバックエンドで要求されることが大きく異なるなど、より具体的な専門に分けられるようになっています。そのため、自分がどの分野で力を持っているかを発信し、周囲に認知されることが求められます。
鈴木:旗を揚げるというのはおもしろい表現ですね。具体的にはどんなイメージですか。人材のタイプによって職種とか肩書をつけたりしている会社も多いと思いますが、そういったことと旗を揚げることは違いますか?
濵野:違いますね。従来だと(例えばC++、Pythonを習得しているなど)「これが使える人」レベルがスキル要件となっていました。しかし、現在はより具体的に「xxを使ってxxができる人」「xxの性能向上を実現できる人」などスキルの解像度が上がっています。旗を揚げる力というのは、職種レベルからさらに掘り下げて、「より具体的に何ができて」「何に関心を持っているか」「何に取り組んでいるか」を示せる具体性が必要になっていると考えます。たとえば、社内外で普段取り組んでいることや、得た知見を技術ブログなどに書き溜めて発信している人がいますが、外から見てわかりやすい旗の揚げ方だと思います。
鈴木:なるほど。LPI-Japanではオープンテクノロジーのキャリアマップというさまざまな技術者タイプにとり有効な認定をマップ化したものを提供していますが、技術者の方がどんな技術者になりたいかを考えるきっかけにしてほしいと考えています。旗を揚げる手助けになればうれしいです。技術者が自分の旗を揚げるというのは、変化が激しい時代への対応力ともいえそうですが、そうした環境のなかで、新しいモノに追随していくためにはどのようなことをすればいいでしょうか?
濵野:各技術者のキャラクターに依存するところが大きいですね。自分自身が好奇心にあふれていて、新しいテクノロジーが登場したら「取りあえず触ってみよう」と考えられる人であれば、自然とできているでしょう。ただし、そうでもない人ももちろんいます。そこで重要なのは、新しいことにどんどん取り組んでいたり、深く突き詰めている人達と接点を持っておくことです。
なぜなら普段から彼らの話を聞いていることで、そのうちに自分も触ってみようと感じるようになるからです。そのためには、技術者仲間に恵まれるような環境を自ら作ることが大事です。その意味で、社内での関係構築はもちろん、コミュニティが存在するオープンソースなどは良い機会をくれるでしょうね。
鈴木:外との関係性を意図的に作ることが重要ということですね。では、技術の中身をわかっていて、新しいモノへ興味を持つ柔軟性を備え、旗を揚げられるような人材を、NTTデータはどのように育成しようとしているでしょうか。
俣木:技術革新統括本部が運営する技統本塾という取り組みがあります。これは、NTTデータのトップ技術者(塾長)から直接指導を受けることができる施策で、塾長・塾生間で議論したり、自由に使える環境で手を動かして検証したりもできます。また、ベンダーやOSSコミュニティと連携して問題を解決する経験も大事にしています。原理原則を教えた上で、そこからは自律的に解決できる能力を磨いてもらいたいと考えています。とはいえ、そのような経験を得る際に1人ではつまずくことも多くあります。そのような時にトップ技術者などと連携できる環境があるのは、NTTデータの恵まれているところです。
本インタビューは、新型コロナウィルス感染症対策に留意した上でマスクを外し、撮影を行いました。
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