休日は自分の部屋で引きこもるのも良し。「オン-オフをはっきり分けてストレスをつくらない」

2024年6月4日(火)
小林 道寛 (こばやし みちひろ)伊藤 隆司(Think IT編集部)
第4回の今回は、小林氏が経営者のワークライフバランスについて語っていただきます。経営者として、また家庭を持つビジネスパーソンとして、どんな1日を過ごし、どんなことを考えているのか。仕事とプライベートの両面から紹介いただきましょう。

今の時代、若手エンジニアが勉強したいと思えば、いくらでも教材や資料はインターネットで手に入る。だがそんな便利な時代であっても、やはり先輩たちの生きた経験に裏打ちされたアドバイスは貴重だ。本連載では、情報インフラ系SIerとしての実績の一方で、現場で活躍できるエンジニア育成を目指した独自の技術研修「BFT道場」を展開。若手技術者の育成に取り組む、株式会社BFT 代表取締役 小林道寛氏に、ご自身の経験に基づくスキルアップのヒントや、エンジニアに大切な考え方などを語っていただく。

経営者として
自分のワークライフバランス達成度を点検してみる

皆さん、こんにちは。株式会社BFTの小林道寛です。

今、世の中の大きな関心事の1つに「ワークライフバランス」があります。現在の日本は労働人口の減少もあって、「働き方改革」のスローガンのもと「もっと人間らしく、健康的な仕事の仕方を作ろう」という方向に進んで来ています。ワークライフバランスはその一環であり、仕事と生活のバランスがちょうどよく均衡した働き方を目指すものです。

もちろんBFTでも、ワークライフバランスは非常に大切なテーマです。その実現には、スローガンを口にするだけでなく、経営者である私自身がまず実践していかなくてはなりません。そこで今回は、私の毎日を振り返りながら、ちゃんとワークライフバランスを実現できているのかを、見ていきたいと思います。「オジサンの1日なんて興味ないよ」なんて言わずに、ぜひお付き合いください。

毎朝、いろんなことを考えながら徒歩で出勤
会社に着いたらこばなしを書く

平日の朝、起きるのはいつも6時と決めています。自分で朝ごはんを食べてシャワーを浴びて、会社まで1時間足らずですが歩いて出勤します。だいたいルートは決まっていますが、気分でたまに違う道を通ったり、ちょうど今くらいの春から初夏だと、いろんな花が見られるコースを選んだりします。

首都圏に住む一般の会社員との大きな違いは、この朝の徒歩通勤でしょうか。始めたきっかけは東日本大震災を経験して、「この先地震があったときに、なんとか歩いて会社に行かれる場所にいた方が良い」と判断して、今の家に引っ越してきたのです。実際にこの次何か起これば、リモートで連絡を取り合うことも可能でしょう。それでも自分としては、経営責任者が会社にたどり着けることも、大げさですが経営理念の1つかなと思っているんです。

歩いている時は、いつもいろんなことを考えています。だいたい仕事のことですけど、こんな風になったら良いなとか、あの件はたしかこうなっていたよな……などと考えて歩くんです。もう1つ小さな楽しみは、空を見ることです。加藤諦三さんという著名な社会学者の本で読んだのですが、自分が自然の一部だと感じることでストレス解消になるそうです。それが気に入って、もう20年くらい続けています。自分が自然の一部だと実感できて、なかなか気分が良いですよ。

さて、会社に着いて最初にするのは、社員向けの小話(社内では「こばやしのこばなし」と呼ばれているようです)を書くことです。Slackで毎日全員に向けて私が情報発信をしているのですが、だいたい600字前後の本当に短いお話です。こんな考えや視点を持ってもらえると良いなとか、こんな面白い話があったよというのを、日々のいろいろな人との接点から得られた話をヒントに書いています。

BFTは「人とシステムを作る会社」なので、その意味でも人への発信力をもっと上げて行こうと考えたのが始まりです。私には日記みたいなものですが、嬉しいことに結構反応があって、Slackのリアクションのボタンを押してくれたり、たまに社員と一緒に飲んでいる時など、「この前書いていた、あの話ですけど」と言ってくれたり、皆とのコミュニケーションに少しは役立っているかなと感じています。

実はもともと文章を書くのは苦手だったんですが、エンジニアになったらドキュメントを書かないわけにいきません。それで仕方なく練習したのが、今、役に立っています。情報発信力が求められる今のビジネスで、書く力はエンジニアだけでなくあらゆる仕事に求められてきます。若い方にはぜひ、少しずつでも書く練習をお勧めしたいですね。書くということは「伝える力=コミュニケーション力」をきたえる基礎トレーニングになるからです。

自分の社内カレンダーを開放して
1on1面談で社員と話す機会を増やす

IT企業の社長って、毎日どんなことをしているのかと、よく尋ねられます。そこで私の1日の、大まかなスケジュールを紹介しましょう。もちろん他の社長の方が何をされているかは知らないので、あくまで私の1日です。

営業とか経理とか具体的な担当があるわけではないので、必ずやることというのは特に決まっていません。私の仕事全体で言うと、半分以上はミーティングです。各部門の状況や今後の見通しについて報告を受けたり、それに対して指示を出したり。責任者であり、管理者であり、全体の交通整理役のようなポジションでしょうか。

もちろん、社外の方にお会いすることもあります。営業に同行して会社対会社のお願いをすることもあります。最近は、業務が終わった夕方以降に、他の経営者の方と食事をしながらいろいろなお話をする機会も増えましたね。その時も、お酒はほどほどに、近況を伺ったり意見交換をするのがメインです。

あと、最近力を入れているのが社内の1on1ミーティングです。社長になると常に全体を見ていないといけないので、なかなか1人1人と接する時間が取れません。そこで私の業務カレンダーを社内にオープンにして「1on1面談希望の社員は、自由に予約を入れて良いよ!」というルールにしたのです。社員の側に話したいことがあれば、こちらから声をかけるよりも、気軽に予約を入れてくれるだろうと。

おかげさまでフタを開けてみたら、けっこう面談希望者は多くて、安心すると同時に「もっともっと社員の声を聞かなくちゃいけないな」と気を引き締めています。希望者はベテランもいれば、入社2~3年目という人もいます。さすがに新入社員は、あまりいませんね。ある程度責任を持って仕事を任されている人ほど、悩みも増えてくるからでしょう。

1on1面談といっても資料を用意したりはせずに、あえて軽く話す雰囲気を大事にしています。私と一緒に社内システムを作っている人などは、かなり具体的な開発の話をしたりして、それは元エンジニアとしても楽しいですね。技術の話に限らず、やはり人と何かを話すことが好きなんだと思います。だからもっと社員と話したいなと思っているんですよ。BFTの皆さん、これを読んだら、どんどん遠慮せずに話しかけてください。

そして1日の終わりですが、毎日ほぼ18時には仕事を終えて、だらだら社内にいないようにしています。やはり社長がいつまでも残っていると社員は帰りにくいし、それこそ働き方改革のトレンドに反しますからね。もちろん現場は残業している人もいますが、トップが定時で帰ることで、帰れる時は周りに気兼ねせずに堂々と帰る空気を作りたいと思っています。

定時退社といっても、もちろん毎日自宅に直行ではありません。上でもふれたように、他の経営者の方と食事をしたり、ある時は採用エージェントの方にお話を伺ったり、行きつけのお店で社員の人たちと話したりと、アフター6を有効に活用しながら楽しんでいます。

休日は「引きこもりの日」など
メリハリをつけてストレス知らずに

最後に、仕事とプライベートの時間のバランス=ワークライフバランスについて、どう考えているか少しお話ししたいと思います。仕事ばかりを続けるのは、誰もできません。私もそうです。やはり休日を作って、自分の家庭や趣味のための時間を過ごすことは、経営者にも社員にとっても大切なことだし、また人生を有意義に送るための「課題」だと思っています。

では私の場合はどうかと言うと、けっこうオン-オフの振れ幅が極端かもしれません。仕事の時はほとんど没頭しています。「これは絶対やり遂げなければ」と思えば、とにかく頑張るしかないと取り組んでいる時があります。締め切りがある仕事は早く片付けたいタイプです。子供が夏休みの宿題をやっているような気分ですが、やりたくない気分の時も自分を奮い立たせて葛藤しながら取り組むのも、けっこう自分では面白いと感じています。

一方、プライベートになると、これまた極端に何もしない「引きこもりの日」があったりします。ふだんの私は周囲の人には社交的に映るらしいのですが、休日は誰とも会いたくなくて、部屋から出ない日もあるのです。妻も「そういう日なのだろう」と、ご飯の時以外は放っておいてくれます。そういう時は、部屋でずっと動画を見たりしています。

そんな感じなので、よく「経営者としてストレス解消法は?」聞かれるのですが、正直言うとあまりストレスは感じていません。どんな場面で自分がストレスになるのか自体を、自覚していないという感じですね。

仕事でお客さんのところに謝りに行くようなことがあっても、この年齢になると怒られることはあまりストレスになりません。ミスをしたのはこちらだと素直に反省できますし、そこでいろいろお客様に教えていただけるのは、むしろありがたいと思うくらいです。その結果、相手にかけた迷惑をなんとか挽回して、気持ちに応えて差し上げたいというのが、逆に励みになることもあります。トラブル対応も1つの出会いだと捉えているので、嫌だとか逃げたいとかいうストレスに感じないのだと思います。

ただ、そんな風に余裕を持って考えられるのも、周りの人に恵まれているからだと思っています。外の方だけでなく、自分の会社の社員も含めて、例え何かクレームを言ってきても「この人は前向きに考えてくれて良い人だな」と感じます。

また、そういう風に人に感謝できる状態が、自分の中でも良い状態だというのが、長年の経験値としてあります。逆に言えば、誰かに厳しいことを言われても、それを自分へのアドバイスと捉えられるような精神状態を、いつも保つことが大切なのだと思っています。

そう言うと「余裕がありますね」と言ってくださる方もいるんですけど、本人としては、日々「うーん」と思いながら生きていて、むしろ余裕のある人ではないと思っています。だからストレスがないわけではないけれど、その瞬間に「うーん」と思うだけで、「そういうものだからしょうがない」というように、冷めるのが早いのかもしれません。

でも、そういう風にストレスを受け流して毎日仕事を続けていられるのは、やはり家族がいるからかなと思います。妻はもちろん、子どもたちも大きくなっても一緒にみんなで食事をしたり、お酒を飲んだりしてくれて、皆でとりとめのない話をするのが本当に楽しいです。

子どもたちには、いろいろと教えてもらうことも多いですね。今どきの話題や、若者たちはこんなふうに考えているのだという話をしてくれます。また、妻は近所のスポーツジムに通っているのですが、ご一緒している年配の方たちの話をしてくれて「なるほど」みたいな。先日などは「皆さん、70歳になっても相当お元気だからね」と言われて、「そうなの?」と答えたものの「それは私に70歳まで頑張れと言っているのだな」と思いました。当分ラクはさせてもらえなさそうです(笑)。

今回は私のワークライフバランスについて、紹介しました。次回はどんなことをお話ししましょうか。よろしければ、どうぞまたお付き合いください。

著者
小林 道寛 (こばやし みちひろ)
株式会社BFT 代表取締役社長
1991年に株式会社フジミックに入社。親会社フジテレビジョンの情報システム局で、親会社やグループ会社のシステム構築と運用を経験。2004年に株式会社BFTへ入社。エンジニア部門のマネージャを経験後、取締役に就任。2015年に代表取締役社長に就任。システムづくりを離れ「人とシステムをつくる会社」をつくり続けている。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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