エンタープライズDBのCMO、PostgreSQLの静かな躍進を語る。
「MySQL」はオープンソースのRDBとして、その知名度はナンバーワンだろう。だがオラクルに買収されて以来、その先行きを懸念する技術者は少なくない。そんななか、同じくオープンソースのRDB「PostgreSQL」をベースにしたエンタープライズ向け商用バージョン「EnterpriseDB」を開発・販売する米EnterpriseDB CorporationのChief Marketing Officerキース・アルシェイマー(Keith Alsheimer)氏が来日し、ThinkITのインタビューに答えた。日本法人エンタープライズDB株式会社の代表取締役社長で、日本・韓国・中国地域の総代表でもある藤田祐治氏も同席した。
まず、アルシェイマー氏は「APAC(Asia-Pacific:アジア・太平洋)市場におけるEnterpriseDBの成長率は前年比で70%を超えている。本年度の第一四半期においても50%を超える成長をしており、大変満足している」と述べた。また、PostgresSQLのコミュニティでもコアなデベロッパーとしてEnterpriseDBの社員が活動を行っており、製品の開発体制においても満足していることを明らかにした。
さらに、藤田氏によれば日本でもパートナー企業の拡充が進んでおり、すでに富士通SSL、HP、アシスト、SIOS、SRA OSSの6社がパートナーとして認定されているという。
ただし、日本法人が未だに早稲田大学のインキュベーションセンターに拠点を構えていることについては、「東京ではオフィス費用がとても高いこと、実際の仕事は今のオフィスでも問題なく進められているので、しばらくはこのままで行くと思います。勿論、業績が上がって人が増えてくればオフィスの開設も検討することになるでしょう」と語る(藤田氏)。
アルシェイマー氏は、データベースビジネスの上位トップ3(オラクル、マイクロソフト、IBM)とはまだまだ差があるが、ガートナーのマジック・クアドラントではODBMS(この場合、OはObjectではなくOperational、業務用のDBMSという意味)の分野でオラクル、マイクロソフト、IBM、SAPに次ぐ2番手グループのトップと認定されていることを紹介。「2013年よりも進歩している」ことを強調した。顧客としてKorea Telecom(KT)の事例を挙げ、すでに多くのミッションクリティカルなアプリケーションやシステムでPostgreSQLが採用されていると解説する。
この発言で興味深かったのは、筆者が「日本では新規のDBなどのツールを評価する際は最もタフな金融業界で使用すると相場が決まっていましたが、金融業界におけるPostgreSQLの導入事例はどうですか?」と切り出したところ、KTの話から「金融業界よりもダイナミックでミッションクリティカルかつ膨大なリクエストを処理しなければならないのは、今や携帯キャリアのほうですね。コストに関しても非常にシビアですし。実際にKTはそういったニーズに応えるためにシステムをオラクルからPostgreSQLへリプレースしていきました。台湾モバイルも同じように導入が決まっています。金融業界は携帯キャリアのビジネスから見ると1~2年遅れているようにも見えます」と答えたことだろう。さらにKTは2013年のiPhone販売に伴って公開した予約システムでPostgreSQLを使用しており、その際には最初の60秒で3万件を超える申し込みを問題なく捌けたという。「これならミッションクリティカルなシステムでも使える」とCIOレベルで認識されたことが、KT社内でのPostgreSQL利用を促進したのだ。
さらに、「オラクルからのリプレースが我々に求められる最も多いパターン」と前置きした上で、「一度にオラクルベースのシステムを全部替えるというのは現実的ではありません。まずはデータベースに対する要求がそれほど高くないシステムから徐々に替えていき、その後PostgreSQLに対する情報システム部門のエンジニアの理解が進み、性能面での評価が終わってから徐々にミッションクリティカルなシステムをリプレースしていく。そういう段階的な方法が良いと思います」(アルシェイマー氏)。藤田氏も「オラクルとPostgreSQLはアーキテクチャ的には同じものですので、お客さまとしてはオラクルから乗り換えがしやすいし、エンジニアとしても馴染みやすいと思います」とコメント。オラクルからのリプレースが進んでいることを示した。
「EnterpriseDBとしてのチャレンジは?」という問いに対しては「認知度を上げることです。CIOや情報システム部門の管理者たちにはPostgreSQLの認知度は高いですが、少し情報が古くなっている気がします。特にエンタープライズ向けの機能強化についてはまだ認知度が足らないと考えています。北米やヨーロッパでの認知度は高いですが、アジア・パシフィック地域ではまだまだこれからなので、Webサイトコンテンツの日本語化などを進めていかなければと思っています」(アルシェイマー氏)と答え、今後も日本市場に投資していくことを明らかにした。
また、最近もてはやされているビッグデータに関して「PostgreSQLのNoSQLへの対応は?」という質問には、「よく聞く話ですが、NoSQLなどを使ってビッグデータを管理しても、結果的にデータがそこに孤立して他のシステムと連携できなくなる、いわば『データのサイロ化』になってしまうという状況があります。システム管理者は一つのシステムでデータを管理したいと望んでいると思いますが、現実的には従来のRDBのほうがNoSQL的なデータに対する機能を充実しており、むしろMongoDBなどのNoSQLのほうが機能的に従来型のRDBへ擦り寄っているように思います。そういう意味では、PostgreSQLはすでにビッグデータに対する機能拡張を行っていると言えるでしょう。また現在のバージョンで「Foreign Data Wrapper」という外部のデータソースを読み書きするオプションを用意しています。これを使えば、例えばHadoopのデータにPostgreSQLからもアクセス可能になるのです」(アルシェイマー氏)。実際にはPostgreSQLはJSONのデータをそのまま扱うことが可能で、すでにNoSQL的なユースケースでも十分に対応できるという自信を見せた。
これはEnterpriseDB本社の調査で明らかになったことだが、データベースシステム管理者の42%がNoSQLのシステム管理に苦労しており、そのうちの78%は一つのソリューションで非構造化データと構造化データの両方を扱いたいと希望しているという。
アルシェイマー氏が言う「一つのシステムで管理すること」を望んでいるという根拠はこの辺りであろう。
日本法人エンタープライズDB株式会社では最小限のスタッフでビジネスを進めているところだが、KTの事例で見られるようにミッションクリティカルなシステムやビッグデータアプリケーションにおいてさえも、今後PostgreSQLとEnterpriseDBの名前を目にする機会は増えていくことだろう。次回のインタビューが楽しみである。
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