モバイルVR開発をはじめよう
本連載では、モバイルでVRコンテンツを開発するためのテクニックを紹介していく。本格的な開発にとりかかる前に、まずは現在のVRをめぐる状況を整理してみよう。
2016年はVR元年
多くのメディアで、2016年は「VR元年」と紹介されている。なぜなら、今年は「Oculus Rift」や「HTC Vive」、「PlayStation VR」といった有力なVRデバイスの発売が次々に予定されており、それらを使ったVRコンテンツを本格的に楽しむことができるようになるからだ。
これらのデバイスはヘッドマウントディスプレイ(HMD )になっており、これを頭部に装着することで、ヴァーチャル空間上でゲームやシミュレーションを行うことができるというわけだ。SF 映画やアニメで描かれていたことが、ついに現実で体験できるようになっているのだ。
ここで、すでに発売、もしくは発売が予定されている注目のVRデバイスを3つほど紹介しておこう。
Oculus Rift(CV-1)
近年のVRブームの火付け役となったHMD、Oculus Riftの製品版だ(図1)。すでに開発版(DK1・DK2)は多く出回っているが、この一般向け製品が2016年3月28日にいよいよリリースされる(予約はすでに開始)。
発売予定日 | 2016年 3月 28日 | 解像度 | 2160 x 1200 px |
価格 | $599.00 | リフレッシュレート | 90 Hz |
動作 OS | Windows 7 SP1 以降 | 備考 | コントローラ、リモコン、ヘッドセット、 ポジショントラッキングセンサ付き |
PlayStation VR
PlayStation VRはソニー・コンピュータエンターテイメントが開発するHMDだ(図2)。家庭用ゲーム機のPS4と接続して使用するため、ゲームコントローラなどの周辺機器を操作して仮想空間で遊ぶことができる。VRゲーミングにぴったりの製品と言えるだろう。こちらは2016年10月頃に発売が予定されている。
発売予定日 | 2016年 10月 | 解像度 | 1920 x 1080 px |
価格 | 44,980円(税抜) | リフレッシュレート | 120 Hz |
プラットフォーム | PlayStation®4 | 備考 | ポジショントラッキングにPlayStation Cameraが必要。 DualShock4やPlaystation Moveも使用可能 |
HTC Vive
台湾のハードウェアメーカーHTCと、Steamで有名なゲーム会社Valveが共同開発しているHMDが「HTC Vive」だ(図3)。フォトセンサーを備えた2つのベースステーションを用いることで、4.5 メートル×4.5 メートル程度の範囲でポジショントラッキングができるのが特徴だ。つまり、このHMDを付けたプレイヤーが現実空間を歩いたりすることで、そのままVR空間を自由に移動することができるのだ。
発売予定日 | 2016年 4月 | 解像度 | 2160 x 1200 px |
価格 | $906.48 | リフレッシュレート | 90 Hz |
動作 OS | Windows / OSX / Linux | 備考 | コントローラ・ポジショントラッキングセンサ付き |
筆者はすでにイベントでこれらのVRデバイスを試しているが、いずれも非常に没入感の高いVR体験を味わうことができた。目の前に広がる映像は本当に美しく、いつまでもヴァーチャル空間にとどまっていたいと思えたほどだ。
一方、VR空間の描画には、それなりにハイスペックなマシン・ハードウェアが必要になる。特にグラフィックカードは高品質な3DCG映像をレンダリングするために、より高性能なものが求められる。さらにはマシンやHMD、センサ類をそれぞれ接続・設置しなくてはならない。こういったセットアップ作業が、とにかく大変なのだ。このようなコンソール型のVRデバイスは、腰をすえてどっぷりヴァーチャル世界に入り浸りたい人以外には、なかなか敷居が高いと思われるかもしれない。
気軽に楽しめるモバイルVR
一方、「もっと気軽にVRを楽しみたい」、という人も多いはず。その要望に応えるのが「モバイル VR」だ。これは誰もが持っているスマートフォンをHMDをにしてVRコンテンツを楽しむというものだ。コンソール型VRデバイスのように、ハイスペックマシンを用意したり面倒な配線に困ることもない。モバイルVRは、よりカジュアルにヴァーチャル空間での体験を楽しむことができるのだ。現在(2016/01)、主に3つのモバイルVRデバイスがすで発売されている。
Gear VR
Gear VR(図4) は、サムスン電子とOculus VR社が展開するモバイルVRデバイスだ。 Gear VR にスマートフォン「Galaxyシリーズ」を装着することでHMDとして機能するようになる。モバイルVRといえど、非常に没入感の高いVR体験を味わうことができる。また、「Oculus Store」と呼ばれる独自のアプリ配信プラットフォームが用意されており、各アプリはそこを通じてダウンロード・プレイする仕組みになっている。
発売日 | 2015年 12月18日 | 解像度 | 2560 x 1440 px |
価格 | 14,900円 前後 | リフレッシュレート | 60 Hz |
対象スマホ | Galaxy S7、 S7 edge、Galaxy S6 edge、Note 5、S6 edge+ | 備考 | アプリが対応していればBluetoothコントローラも接続可能 |
Google Cardboard
Google Cardboard(図5)は、Googleが設計したVR / AR ビューワの総称で、スマホを取り付けることでHMDになる製品だ。このビューワは、物理的なサイズさえ合えば基本的にどんなスマホも取り付けることができる。Googleはこの製品の仕様を公開しており、それを元に各ベンダーが様々な種類のビューワを製造・販売している。ビューワはダンボール製の簡易なものからプラスチックでできた本格的なものまで、多くの選択肢があるのが特徴だ。アプリの入手は通常のスマホのようにApp StoreやGoogle Playから対応したものをダウンロードする。
発売日 | 2014年 | 解像度 | スマホに依存 |
価格 | 1,000円 〜 | リフレッシュレート | スマホに依存 |
対象スマホ | iPhone / Android | 備考 | Googleが設計を行い、サードパーティのベンダーが製造を行っている |
ハコスコ
ハコスコ(図6)もまた、手持ちのスマホを装着することでHMDとして利用できるVRビューワの1つだ。日本企業であるハコスコ社から発売されており、ダンボール・紙で作られたものやプラスチックでできた製品も用意されている。Google Cardboardとは違い、一眼タイプのビューワも用意されているため、子供も安全に使用できるとのこと(一眼・二眼の違いは後述)。
iOS / Android で公開されている "ハコスコ" アプリを通してVRコンテンツをダウンロードできるほか、App StoreやGoogle Playから対応アプリを個別にインストールできる。
発売日 | 2014年 | 解像度 | スマホに依存 |
価格 | 1,000円 〜 | リフレッシュレート | スマホに依存 |
対象スマホ | iPhone / Android | 備考 | ハコスコ社もベンダーの1つとして Google Cardboard の製造・販売を行っている。「ハコスコ」アプリは、Google Cardboard でも使用可能。 |
筆者の所属するグリー株式会社は、2015年11月に新スタジオ「GREE VR Studio」を設立し、VR市場に本格参入した。すでにGoogle Cardboard・ハコスコ向けにモバイルVRゲーム「シドニーとあやつり王の墓」(iOS / Android)を公開しているので、ぜひ遊んでみてほしい(図7)。今後も、様々なプラットフォーム・形態でコンテンツを提供していく予定だ。
モバイルVRの遊び方
モバイルVRでコンテンツを楽しむには、事前にいくつかの準備が必要だ。製品によってその手順がことなるため、ここではGear VR とGoogle Cardboard / ハコスコの2つに分けて解説していく。なお、事前に必ずそれぞれの製品に付属している説明書・解説書をよく確認してほしい。また、VR体験は安全な場所で行い、プレイ途中に気分が悪くなったり、不快感を感じたら、すぐに使用を中止しよう。
GearVRの遊び方
必要なもの
- Gear VR 本体
- Galaxy S6、S6 edge、Note 5、S6 edge+ のいずれか(docomo / au などのキャリアは問わず)
手順
- GalaxyをGear VRに取り付けてHMD状態にする(図8)。それを頭に装着すると、初回のみOculusアプリのインストールを促す画面が現れる。その後HMDを外し、GalaxyもGear VRから取り外してスマホ状態に戻そう。
- 画面の案内に応じてOculusアプリのインストールを進める(途中でOculusアカウントを作成する必要がある)。 その後、スマホ状態でOculusアプリを起動すればコンテンツの購入やダウンロードが行うことができる(図9)。
- 再びGalaxyをGear VRに取り付けてHMD状態にし、頭に装着すると「Oculus Home」という画面が現れる(図10)。初回のみここで操作のチュートリアルがあり、その後は自由にアプリやコンテンツをプレイできる状態になる。
Google Cardboard / ハコスコの遊び方
必要なもの
- Google Cardboard / ハコスコ ビューワ
- ビューワに対応したスマホ
手順
- ビューワを組み立てる。最初から完成している製品もあるが、ダンボールなどで作られたものでは組み立てが必要なことが多い。それぞれの説明書を参考にして作業を行おう。
- VRに対応しているスマホアプリをApp Store / Google Playからダウンロードして起動する(図11)。アプリによっては一眼・二眼のモードが選択できるので、ビューワに合わせて設定しておく。
- スマホをビューワに取り付けてHMD状態にしたら、頭に装着したり、手で持ちながら顔に添えてコンテンツを視聴する。スマホをビューワにしっかり固定できないものもあるので、VR体験中にはスマホの落下に注意しよう(図12)。
前述したように、ビューワによっては一眼と二眼のものが存在する。これは「コンテンツのステレオ表示に対応しているか、していないか」の違いだ。スマホの画面を左右2つに分割するのがステレオ表示だが、この時それぞれの画面に視差をつけることで、二眼のビューワを通して見た時に映像が立体的に視聴できる。より臨場感のある映像を楽しみたい場合は、二眼のビューワを用いてステレオ表示モードがあるコンテンツを選択すると良いだろう(図13)。
一方、一眼のビューワを用いる場合は、コンテンツはモノラルな状態で表示される必要がある。画面は1つのままなので当然映像に視差はなく、二眼の場合と比べて迫力は劣ってしまうことになるが、眼に対する負担はこちらのほうが少ない。眼の成長途中にある子どもがVR体験をする場合は一眼ビューワを用いるべきだ。とはいえ、いずれにしても眼に負担がかかることは間違いないので、保護者の監視のもと長時間のプレイは避けたほうが良いだろう。
今回は、今が旬のVR技術について、モバイル機器で簡単に体験するための基礎知識を紹介した。モバイルVRを体験するためにどのような機器が必要で、現状どのようになっているのかを整理できたのではないだろうか。
次回からは、モバイルVR開発に必要な環境構築について解説する。