第1回では、富士通が発表した次世代ものづくり環境「エンジニアリングクラウド」についてお話ししました。エンジニアリングクラウドを実現するために富士通研究所が開発した仮想デスクトップ高速表示技術が「RVEC(レベック)」です。RVECは、画面の中で更新の多い領域を動画化し、それ以外の画面更新の差分を静止画として圧縮して送信するというハイブリッド方式を採用しています。このうち動画化の部分については第1回ですでにお話ししました。
第2回ではRVECのうち静止画圧縮の部分について詳しくご説明いたします。
静止画圧縮の2つの方法~ロスレスとロッシー
静止画圧縮の技術はすでに数多く存在しています。皆さまもJPEGやZIP等の圧縮フォーマットはご存じと思います。それでは、なぜ、これらの技術を使ってエンジニアリングクラウドの画面転送がうまくいかなかったのでしょうか。
この点に触れる前に、ロスレス圧縮(可逆圧縮)とロッシー圧縮(非可逆圧縮)の違いを確認しておきましょう。
ロスレス圧縮は元のデータを完全に復元できる圧縮です。通常使われているZIPやLZHなどは基本的にロスレス圧縮です。このロスレス圧縮は、データ出現の法則性を見つけ出して、その法則性をもとに圧縮するという方法を採っています。従って法則性のないデータはロスレス圧縮ではほとんど圧縮できません。また、法則性を探すための処理に時間がかかることも大きな問題です。
一方、ロッシーな圧縮は人の見た目で分からない部分は捨ててしまうというアイデアで圧縮を行います。そして、人の視覚にとって重要な情報のみ残しますので、すべてのデータを均等に処理するロスレス圧縮に比べて圧縮率は、通常、はるかに高くなります。
それではまずロッシー圧縮ではなぜうまくいかないか説明しましょう。下の図1を見てください。
| 図1:圧縮結果の比較。左:ロスレス圧縮、右:ロッシー圧縮(クリックで拡大) |
左側はロスレス圧縮、右側はロッシー圧縮です。右側では全体にぼやけが発生してエッジがつぶれてしまっているのが分かると思います。この結果、配線先の端子がどこにあるかという最も重要な情報さえ確認が容易ではありません。このような画面ではエンジニアは設計業務を遂行できないでしょう。
このようなわけで、エンジニアリングクラウドで扱うグラフィックス画像の圧縮には従来のロッシー圧縮技術は適さなかったのです。
