OTRSのインストール

2011年12月1日(木)
櫻井 耕造

クラウドの台頭で見直されるITIL

最近のシステム導入では、コスト削減を目的にパブリッククラウドやプライベートクラウドを選択するケースが増えています。確かにコスト削減に効果はありますが、クラウドの運用に際して以下のような課題も生じてきています。

クラウド運用の課題
  • ネットワークからアプリケーションまでの幅広い知識が必要
  • ITサービスのライフサイクル管理が必要
  • これらの課題を解決する方法として再び注目されつつあるのが、ITIL Version3(ITILv3)に沿った運用管理です。ITILとは、ビジネスニーズを踏まえたサービス戦略から、サービスの設計、本番環境への導入・移行、運用、継続的な改善といったITサービスのライフサイクルをまとめたペストプラクティス集です。ITILv3はその現行バージョンで、2007年にリリースされました。

    代表的なITIL運用管理ツールに「CA Service Desk Manager」がありますが、価格の面から導入を諦めることも多いようです。本連載では、ITILv3に沿った運用管理を廉価に実現できる「OTRS」を取り上げ、インストールや設定、簡単な利用方法などを説明していきます。

    ITIL運用管理ツール「OTRS」とは

    OTRS(Open-source Ticket Request System)は、ヘルプデスク管理機能とITIL運用管理機能の備わったオープンソースソフトウェアで、AGPLv3(GNU Affero General Public License, version 3)ライセンスで提供されています。開発元はドイツのOTRS AGです。

    ITIL運用管理ツールがITIL規格に準拠していることを認定するプログラムにPink Elephant社による「PinkVERIFY」があります。

    OTRSは、PinkVERIFYで定義された管理領域のうち6プロセス(インシデント管理、問題管理、変更管理、要求実現、サービス資産管理・構成管理、ナレッジ管理)の認定を受けています。

    図1:OTRSがサポートする管理領域(クリックで拡大)

    日本では、OTRSの正規代理店としてTIS株式会社がサポートしています。

    OTRSの主な特徴は、以下のとおりです。

    クライアント
    • FlashやJavaアプレットなどの使用を避け、ほとんどのWebブラウザに対応
    問い合わせインタフェース
    • エンドユーザーによるメール、電話、Webでの問い合わせが可能
    • メールフィルタによる受信拒否設定が可能
    ITIL業務の主な機能
    • 問い合わせへの自動返信
    • SLAに基づいた回答期限通知
    • インシデント統合
    • インシデント分割
    • インシデント単位での対応履歴閲覧
    • インシデントのワークフロー管理
    • 既知エラーのナレッジ管理
    • 変更管理業務に合わせたステートマシーンの作成
    • 一般向け、内部向け、全てへの権限別のナレッジ管理
    • サービスと連携した構成管理

    OTRSは、さまざまなOSにインストールすることができますが、推奨構成は以下のようになっています。本連載では、Red Hat Enterprise LinuxクローンのCentOS 6.0を使うほかは、推奨構成に従った環境にインストールする手順を解説します。

    OTRSの推奨構成
    • Redhat Enterprise Linux 6
    • Apache2.0系以降
    • Perl 5.8.8以降
    • MySQL 4.1以降
    • CPU 2GHz以上
    • HDD 160GB以上

    インストール前の準備作業

    OTRSのインストールに入る前に、CentOS 6.0で以下の作業を行います。

    1. SE Linuxを無効にすること
    2. 前提パッケージをインストールすること

    SELinuxが起動していないことを確認します。

      # getenforce
      Disabled
    

    SELinuxが起動している場合は、以下のコマンドで無効にしてください。起動していると、リポジトリ登録時にエラーで登録できなくなります。

      # setenforce 0
      # cd /etc/selinux
      # vi config
      SELINUX=disabled   //disabledに変更
    

    OTRSをインストールする前提パッケージをyumでインストールします。

      # yum install perl-DBD-MySQL
      # yum install mysql-server
      # yum install perl
      # yum install perl-libwww-perl
      # yum install perl-Net-DNS
      # yum install perl-IO-Socket-SSL
      # yum install perl-XML-Parser
      # yum install perl-TimeDate
      # yum install gd
      # yum install gd-devel
      # yum install vixie-cron
      # yum install procmail
    

    OTRSのインストール

    OTRSのパッケージをダウンロードします。ここでは、2011年11月現在で最新のバージョン3.0.11となります。

      # wget http://ftp.otrs.org/pub/otrs/RPMS/fedora/4/otrs-3.0.11-03.noarch.rpm
    

    OTRSをrpmコマンドでインストールします。

      # rpm -ivh otrs-3.0.11-03.noarch.rpm
      準備中...                ########################################### [100%]
      Check OTRS user ... otrs added.
        1:otrs                   ########################################### [100%]
      hostname: 不明なホスト
    
      Next steps:
    
      [httpd services]
      Restart httpd 'service httpd restart'
    
      [mysqld service]
      Start mysqld 'service mysqld start'
    
      [install the OTRS database]
      Use a webbrowser and open this link:
      http://localhost/otrs/installer.pl
    
      [OTRS services]
      Start OTRS 'service otrs start' (service otrs {start|stop|status|restart).
    
      ((enjoy))
     
      Your OTRS Team
    

    これでインストール作業は終了ですが、基本設定に入る前にApacheとMySQLを起動しておいてください。

      # service httpd start
      # service mysqld start
    

    OTRSを利用するための基本設定

    OTRSを利用するには、インシデントデータを格納するためのリポジトリの設定が必要になります。なお、OTRSには、MySQLを設定するためのWebインタフェースが用意されています。ここでは、そのWebインタフェースを使ったリポジトリ設定の手順を解説します。

    1. 「http://localhost/otrs/installer.pl」をブラウザ表示すると、「ようこそOTRSへ」の画面が表示されます。[次へ...]を選択します。

    2. 次に[ライセンスに同意する]を選択します。

    3. 「データベース作成(2/4)」の画面で以下のように入力し、「データベース設定をチェック」を選択します。現在のところ、種別はMySQLしか選択できません。

    ユーザー root
    パスワード [ <空> ]
    ホスト localhost
    種別 MySQL

    図2:データベース作成(2/4)画面

    4. MySQLに接続できると追加情報の入力を求められます。以下のように入力し、「次へ..」を選択します。

    ユーザー otrs
    パスワード hot(デフォルト)
    データベースホスト localhost
    データベース 名前 otrs

    5. データベースの作成が成功すると、「完了」のステータスが表示されます。「次へ..」を選択してメールの設定に進みます。ここで以下の項目を入力したら、[次へ]を選択します。

    システムID 10
    システムのFQDN __________________
    管理者メール __________________
    組織 __________________
    【ログ】
    ログモジュール syslog
    ログファイル /tmp/otrs.log
    【Webフロントエンド】
    既存の言語 Japanese(日本語)
    MXレコードのチェック いいえ

    6. メールの設定が要求されますが、メールサーバに接続しない場合は「この手順を飛ばす」で先に進むことができます。メールサーバの設定が終わったら、「メール設定チェック」を選択します。なお、メールサーバへの接続確認が感用すると、「終了しました」の画面が表示されます。

    図3:メール設定(3/4)画面

    以上でOTRSを起動させるための作業は終了です。OTRSを起動させます。

      # service otrs start
      Starting OTRS..
        Checking httpd ... done.
        Checking MySQL ... done.
        Checking database connect... Trying to connect to database
      DSN: DBI:mysql:database=otrs;host=localhost;
      DatabaseUser: otrs
    
      It looks Ok! done.
      Enable /opt/otrs/bin/otrs.PostMaster.pl ... done.
      Checking otrs spool dir...  done.
      Creating cronjobs (source /opt/otrs/var/cron/*) ...
      done.
        -->> http://localhost/otrs/index.pl <<--
      Final start of OTRS.. done
    

    OSの起動と同時にOTRSを起動させたい場合は、以下のコマンドを実行します。

      # chkconfig httpd on
      # chkconfig mysqld on
      # chkconfig --add otrs
      # chkconfig otrs on
    

    OTRSにログイン

    以下のURLでブラウザを開いて、デフォルトで設定されているユーザー名とパスワードを入れます。

    • http://localhost/otrs/index.pl
    • ID: root@localhost
    • PASSWORD: root

    図4:OTRSのログイン画面

    以上でインストール作業は完了です。次回は、「OTRS ITSMのインストール」について説明します。

    TIS株式会社 IT基盤サービス本部 DCアウトソーシング第1部 主任

    システム運用、システムインテグレーションなどを経験後、TISの先端技術センターにてOTRSのR&Dを実施。OSS保守サービス「Tritis」の事業を企画し、事業の中核であるOTRSを2011年8月にOTRS AG(ドイツ)による国内初のOTRS認定技術者となる。

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