OTRSのインシデント管理

2012年1月12日(木)
櫻井 耕造

OTRSによるインシデント管理フロー

前回はOTRSでインシデント管理を行うための基本設定について説明しました。今回は、OTRSによるインシデント管理を紹介していきます。以下の図は、OTRSにおけるITILv3運用のインシデント管理部分の業務フローです。

図1:インシデント管理のフロー(クリックで拡大)

ITILv3のインシデント管理の目的は、システムの問題が事業へ与える影響を最小限に抑え、正常にサービスを継続させることです。このなかでシステムの障害だけではなく、顧客からの問い合わせも扱います。なお、OTRSでは、顧客からの問い合わせをメール、電話、Webから受け付けることが可能です。

OTRSのWebインターフェース

OTRSでは、以下のようなWebインターフェースが用意されています。

担当者向けのWebインターフェース
サービスデスクの担当者がインシデントを管理するための機能や、ITILに準拠した運用管理を行うための機能(インシデント管理、問題管理、変更管理、要求実現、ナレッジ管理、構成管理)を利用できます。
http://localhost/otrs/index.pl
担当者向けのiPhone用インターフェース
iPhoneからインシデント管理に関わる最低限の機能を利用できます。
※「App Store」から「OTRS」というiPhoneアプリを無料でダウンロードできます。
http://localhost/otrs/json.pl
顧客向けのWebインターフェース
顧客がシステムに関する問い合わせをしたり、よくある質問などの回答を閲覧するためのインタフェースです。過去の問い合わせ履歴を閲覧することも可能です。
http://localhost/otrs/customer.pl
一般向けのWebインターフェース
顧客以外の一般向けにFAQの情報を公開したい時に利用します。
http://localhost/otrs/public.pl

顧客情報の登録

顧客向けのWebインターフェースを提供するには、顧客のログインIDやパスワードといった顧客情報の登録や、顧客とサービスの関連性の定義が必要になります。

顧客情報の登録は、「管理」の「顧客」をクリックし、「担当者の追加」から行います。以下の表は、顧客情報を登録する際に設定する項目の一覧です。

項目 説明
タイトル ※任意で入力
名 * 顧客の名前
姓 * 顧客の姓
ユーザーID * システムにログインするID
パスワード * システムにログインするパスワード
メール * 顧客のメールアドレス
顧客ID * 顧客企業のID
※1つの顧客企業に複数の顧客がいる場合は、「管理」の「顧客企業」にて顧客企業を作成し、「顧客ID」を同一のもので作成する必要があります。
電話 顧客の電話番号
Fax 顧客のFAX
携帯電話 顧客の携帯番号
建物名 顧客の勤務している建物名
顧客企業の郵便番号
住所 顧客企業の勤務地
顧客企業の国名
コメント ※任意で入力
有効 有効か無効を選択
テーマ (スタンダード)
インタフェースの言語 (Japanese(日本語))
表示チケット数 (25)
チケット一覧 (オフ)
* 必須入力
表1:顧客情報の登録

顧客とサービスの関連付け

次に、顧客とサービスの関連性を定義します。「管理(Admin)」の「サービス」をクリックし、「サービスの追加」を選択するとサービスを登録できます。

項目 説明
サービス 提供するサービス名
親サービス ※親となるサービス名があれば入力。
タイプ サービスのタイプを選択
重要度 (1最低、2低、3中、4高、5最高)から選択
有効 有効か無効を選択
コメント ※任意で入力
* 必須入力
表2:サービスの登録

続いて、「管理(Admin)」の「顧客<->サービス」をクリックし、設定したい顧客名をクリックします。そして、提供するサービスにチェックを入れて「送信」をクリックします。以下は、uchikawaという顧客に割り当てるサービスを登録する画面の例です。

図2:サービスを顧客に割り当てる

顧客によるWebからインシデント(問い合わせ)の入力

顧客がWebインタフェースから問い合わせをする場合、まず、以下のURLにアクセスして、登録されたユーザーIDとパスワードでログインします。

http://localhost/otrs/customer.pl

ログインすると以下のような画面に変わります。利用したい機能のタブをクリックすると、表3の機能を利用できます。ここでは、新規の問い合わせを行うために「新チケット」をクリックします。

図3:ログイン後のOTRS画面(クリックで拡大)
タブ名 機能内容
新規チケット 新規でインシデントを作成する
担当チケット ログインした顧客のインシデント履歴を閲覧する
企業チケット ログインした顧客企業(グループ)のインシデント履歴を閲覧する
検索 インシデントの検索
FAQ 顧客向けFAQを閲覧
FAQを検索 FAQを検索
表3:ログイン後の機能

続いて、以下の項目を入力して「送信」をクリックすると、問い合わせインシデントが発生します。ここでは、SLAが表示されていますが、『管理』の『サービスレベル契約(SLA)』にてサービスのSLAを設定すれば、図4のようにSLAのリストボックスが表示されるようになります。

図4:インシデントの入力画面
項目 説明
タイプ * 事前に登録されているタイプから選択
宛先 * 顧客の該当するキューを選択
サービス 顧客と紐付いているサービスを選択
表題 * 表題を入力
本文 * 問い合わせなどの内容を入力
添付ファイル 添付ファイルを付与
優先度 登録されている優先度を指定
* 必須入力
表4:問い合わせ入力項目

インシデントのメール通知

インシデント管理の担当者は、発生したインシデントを検知して、迅速に対応する必要があります。インシデントが発生したことを担当者にメールで通知するには、前回の「第3回 OTRSの基本設定」で紹介した担当者の登録で、以下の設定項目を「はい」にします。

  • 新規チケット通知
  • 追跡チケット通知
  • ロック期限切れチケット通知
  • 移転チケット通知

インシデントの確認

担当者がインシデントを確認するには、「管理」の「チケット」をクリックし、「状態一覧」を選択します。表示されるインシデントは、対応中と完了に分かれており、対応中のインシデントには以下のような情報が表示されます。

  • 発生してからの経過時間
  • インシデントの状態
  • インシデントのキュー
  • インシデントを対応している所有者

図5:インシデントの表示(クリックで拡大)

上の図のインシデントをクリックすると、以下の図のようにチケットの内容を確認できます。

図6:インシデントの内容表示(クリックで拡大)

OTRSでは、インシデントに対して担当者が実行するアクションとして、以下のような機能を提供しています。

項目 説明
戻る インシデント一覧に戻ります。
ロック /ロック解除 ロックをする、若しくはロックの解除をします。
履歴 担当者のインシデントに関する操作履歴を表示します。
印刷 インシデントの内容をPDFにして印刷します。
優先度 チケットのタイプや優先度を変更します。
追加のITSM分野 変更作業の準備開始、作業開始、対応期限を設定します。
連結 このインシデントと構成管理、変更管理、FAQと関連付けさせます。
所有者 所有者を変更します。
顧客 顧客を変更します。
決定 サービス要求に関するインシデントを要求実現プロセスとして、承認及び意思決定をします。
注釈 注釈を追加します。
結合 他のインシデントと結合します。
保留 指定された日時まで保留扱いにします。
完了 インシデントを完了にします。
-移転- 選択したキューに変更します。
転送 指定のメールアドレスに転送します。
バウンス インシデントの内容を指定したメールアドレスにそのまま転送します。対応履歴に残りません。
電話応答発信 電話などの対応したときに注釈を書いて、ステータスを変更します。
分割 インシデントを2つに分割します。
印刷 フォーカスされているインシデントのみPDFにして印刷します。
-返信- 使用したい署名を選択して、返信します。
表5:インシデントの対応機能

クラウドのように多様な技術の組み合わせたシステムでは運用担当者が複数人になり、発生したインシデントを専門性の高い担当者へエスカレーションすることが多くなると予想されます。そのような時にOTRSでは、インシデントの所有者を変更することで、専門性の高い担当者にエスカレーションすることができるのです。

次回は『OTRSの問題管理とナレッジ管理』について説明致します。

TIS株式会社 IT基盤サービス本部 DCアウトソーシング第1部 主任

システム運用、システムインテグレーションなどを経験後、TISの先端技術センターにてOTRSのR&Dを実施。OSS保守サービス「Tritis」の事業を企画し、事業の中核であるOTRSを2011年8月にOTRS AG(ドイツ)による国内初のOTRS認定技術者となる。

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