OTRSの問題管理とナレッジ管理

2012年1月26日(木)
櫻井 耕造

OTRSの問題管理

ITILv3の問題管理プロセスは、インシデントの未知の根本原因を識別し、解決することを目的としています。その実現のためにOTRSでは、問題の種類(OTRSでは「タイプ」と呼びます)と優先度で分類して、既知のエラーデータベースにワークアラウンド(回避手順)があれば、それに基づいて担当者が対応するというプロセスを経ます。ワークアラウンドがない場合は、エラー記録を作成して対応します。

図1:OTRSの問題管理プロセス・フロー

インシデントを問題と優先度で分類する手順

最初に、インシデントを問題管理プロセスとしてエスカレーションする際の操作手順例を示します。まず、「チケット」の「状態一覧」からチケットの詳細内容を表示させて、「第4回 OTRSのインシデント管理」の3ページ目で紹介した「優先度」をクリックし、図2の「タイプ」のリストボックスを「問題管理」に変更します(「タイプ」リストボックスの内容は、事前に定義しておく必要があります)。

そして、「優先度」リストボックスから該当するものを選択し、担当者の作業履歴として本文に注釈を入力して「送信」すると、問題管理にエスカレーションした履歴が作成されます。この操作履歴は、顧客のWeb画面には公開されません。

図2:チケットの優先度を変更する画面

OTRSのナレッジ管理

問題管理プロセスが完了した場合は、次回以降の問い合わせ対応や内部(担当者間)のノウハウ蓄積のために、担当者がFAQを追加していくことが、ITILで推奨されています。FAQに登録する際には、「FAQ」の「新規」をクリックし、FAQの作成画面を表示させます。表1は、FAQを登録する際に設定する項目の一覧です。

作成したFAQ文書は、担当者向けのWebインタフェース担当者にしか公開しない「内部(担当者)」、顧客向けのWebインタフェースに公開する「外部(顧客)」、一般向けのWebインタフェースに公開する「公開(全員)」の3種から公開範囲を指定することができます。また、担当者や顧客によって公開するFAQ文書を分けたい場合は、カテゴリごとに公開権限を指定することが可能です。

図3:FAQ文書の作成画面
項目 説明
タイトル * ※任意で入力
キーワード FAQ文書を検索するためのキーワードを登録します。
カテゴリ * FAQ文書の該当するカテゴリーを指定します。
状態 外部(顧客)、内部(担当者)、公開から選択します。
有効 (有効)※不要になった文書を無効にします。
言語 Ja(日本語)を選択
承認 ※この項目は承認者のみに表示されます。FAQ文書の公開を承認するときは、「はい」を選択します。
添付ファイル 添付ファイルがあるときは任意で添付します。
症状 インシデントの症状を記載します。
問題 インシデントの問題点を記載します。
解決 インシデントの解決方法を記載します。
コメント ※任意で入力
* 必須入力
表1:FAQ入力項目

作成したFAQ文書は、インシデント文書と連結させることができます。FAQ文書かインシデント文書を表示して、「連結」ボタンをクリックして、連結したいインシデント文書やFAQ文書を設定することでインシデント文書とFAQ文書を連結できます。

ナレッジ管理の機能を利用するには、いくつかの事前設定が必要になります。ここでは、その設定方法について説明します。

ナレッジ管理を使用するための登録の流れ

FAQ文書の公開範囲を特定するためには、以下の設定が必要になります。

  • 顧客とグループを連結させる機能の有効化
  • 顧客グループの登録
  • 顧客とグループの連結
  • カテゴリの登録

OTRSでは、FAQ文書の公開範囲を「カテゴリ」単位で特定することができます。ここでは、「OTRS」というカテゴリを作成し、そのカテゴリ内のFAQ文書を「OTRS Group」という顧客グループのみに公開するときの例を説明します。

顧客とグループを連結させる機能の有効化

デフォルトでは、顧客とグループの連結が無効になっているので、有効にします。「管理」の「システムコンフィグ」をクリックして、操作欄で「Framework」を選択します。サブグループ内の「Framework -> Frontend::Customer」をクリックします。
「CustomerGroupSupport」を「はい」にして、一番下にある「更新」をクリックすることで、グループ連結機能が有効になります。

図4:顧客とグループの関連付け

顧客グループの登録

グループの作成方法は、「第3回 OTRSの基本設定」で説明した「グループの作成」を参考にして下さい。ここでは、「OTRS Group」というグループを作成します。

顧客とグループの連結

「管理」の「顧客 < > グループ」をクリックして、「OTRS Group」グループをクリックします。そのグループに含めたい顧客に対して「ro」と「rw」の権限をチェックして、「送信」をクリックします。

カテゴリの登録

「FAQ」の「カテゴリ管理」をクリックして、「カテゴリを追加」をクリックします。ここでは、権限項目に「OTRS Group」を選択します。

項目 説明
名前 * 名前を入力します。
親カテゴリ ※親のカテゴリがあれば指定します。
コメント * コメントで入力します。
有効 (有効)※不要になったカテゴリは無効にします。
権限 * 追加したいグループを選択します。
* 必須入力
表2:カテゴリ管理の追加

FAQ文書の承認機能

最後に、承認機能について説明します。この機能を使うことで、管理者が承認したFAQ文書のみを公開できるようになります。

承認機能は、デフォルトでは無効になっています。「管理」の「システムコンフィグ」をクリックして、操作欄で「FAQ」を選択します。サブグループ内の「FAQ -> Core::Approval」をクリックします。「FAQ::ApprovalRequired」を「はい」にして、一番下にある「更新」をクリックすることで有効になります。

図5:FAQ承認機能を有効にする

デフォルトでは、FAQ承認者グループが「faq_approval」、FAQ閲覧グループが「faq」となっており、このグループに担当者をアサインします。設定方法は、「第3回 OTRSの基本設定」で説明した「担当者とグループの権限設定」を参考にしてください。

FAQ承認キューはデフォルトで「FAQ_Approval」に指定されているので、ここではこの名前でキューを作成します。設定方法は、「第3回 OTRSの基本設定」で説明した「キューの作成」を参考にして下さい。

以上の設定で、承認機能が利用できるようになります。次回は、「OTRSのサービス資産・構成管理」について説明します。

TIS株式会社 IT基盤サービス本部 DCアウトソーシング第1部 主任

システム運用、システムインテグレーションなどを経験後、TISの先端技術センターにてOTRSのR&Dを実施。OSS保守サービス「Tritis」の事業を企画し、事業の中核であるOTRSを2011年8月にOTRS AG(ドイツ)による国内初のOTRS認定技術者となる。

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