システム運用における、5つの大間違いとは(5)
それぞれの将来の見通し
IT運用提供企業では、企業の大小にかかわらず運用担当者は本流のひとつであり、キャリアパスは充実していると言える。技術力やプロジェクトマネジメント能力を磨くことによって、将来の経営幹部を目指すことも可能だ。それでは、IT運用利用企業での運用担当者はどうだろうか。
大企業であれば当然、「情報システム部」といった専門部署があり、最低数十名が部署に所属し、「情報システム部××課課長」などといった立派な肩書を持つことだろう。近年では、全国的な景気後退や、とりあえず運用担当者の人数は確保できたため、情報システム部の所属人数は少なくなったものの、以前は新入社員が最初から情報システム部へ配属されることもあっただろう。
一方、中小企業、特に数十名程度の社員数の企業であれば、専門部署を持つことは難しく、当然新入社員が最初に同部署に配属されることは稀で、大抵は事務方が兼任したり、開発会社が兼任もしくは転任したり、などとなってしまう。
しかし、いずれにしても生業とは直接かかわりがなく、利益を上げる部門ではないため、IT運用利用企業におけるシステム運用担当者は、弱い立場に置かれていることが多い。また、経営幹部への道も曖昧だ。
IT運用利用企業の運用担当者に未来はあるか
運用担当者に目を向ける前に、企業の情報システムに対する投資の方針を考えてみよう。
経営側は、業績が良いときは簡単にシステム投資が予算化されるが、悪化すればあっという間にそれを反故にし、回復するまでは貝になったように身じろぎひとつしない。これは、企業の将来を見据えた計画的なシステム投資がなされていない証だ。また、予算が余れば年度末に慌てて予算執行するさまを見ると、予算確保に奔走する公共事業との類似性を思わずにはいられない。
このように、
- 企業にとって本当に必要なシステムはどのようなものか
- それに対してどの程度投資するのかなどが、真剣に議論・決定されていないのは、なぜだろうか。
企業規模にかかわらずシステム運用担当部門について、「生業に直接はかかわっておらず利益を産み出さない部門」「いわゆるコストセンターである」と経営者が考えている企業は多い。概して日本企業においては、こういったコストセンターのコントロールに目を向けるケースは少ない。
また、同じくコストセンターである人事部門や経理部門と比較しても、システム運用部門の歴史は浅く、それらを事業戦略に合わせて運営する能力を持った人材が不足している点も見逃せない。その結果、IT運用利用企業の経営層は、システム投資の最適化に真剣に取り組むことをしない。
今や、システムは企業運営に必須であるにもかかわらず、コストがかさみ、厄介な、よくわからないものとして扱われ、投資に対する決定権は経営層が握ったままで、導入後の運用と責任は担当者に押し付けられる。
企業のシステムは、使い勝手が悪ければ利用者からやり玉にあげられ、無茶な依頼にも、時には答えなければならない。また、停止すれば一切の責任を運用担当者が負わされるのに、努力して無停止で運用しても「システムはいつでも動いていて当たり前」とばかりに、その成果は誰にも見向きもされない。
さらに問題なのは、システム運用の人材に対する投資や教育もおろそかになっていることだ。先にも述べたが、概してIT運用利用企業における情報システム部門は、‘本流’とは捉えられていないため、経営層に至るまでのキャリアパスは用意されておらず、人材採用もシステム投資と同様、行き当たりばったりだ。
読者のみなさんの企業ではどうだろうか?
「システム運用部門は他部署との人材交流がなく、固定化していないだろうか」「将来に向けた研修体制は整っているだろうか」、そして「運用部門メンバーから経営層へと抜擢された人はいるだろうか」。
このように、運用担当者は企業戦略において蚊帳の外に置かれたまま、目前のシステム停止におびえ、将来にも漠然とした不安を抱えつつ、鬱鬱(うつうつ)と日々の業務をこなすこととなるのである。