オープンソースの最新トピックと、ビジネス活用のポイント(OSPセミナーレポート後編)
エンタープライズクラスのOpenStack HA機能を搭載したSUSE Cloud
最後のセッションでは、ノベル株式会社の村川 了氏より、エンタープライズクラスのOpenStackというテーマで、SUSE Cloudのソリューションが解説された。
企業向けOpenStackの環境を手軽に構築する
はじめに、村川氏はSUSE CloudがOpenStackに参加した経緯について紹介。SUSEの得意先であるRackSpace社のビジネスにかねてから注目していたAlan Clark氏が、SUSEを率いてプロジェクトに参加したの発端だと話す。RackSpace社は前回説明した通り、NASAとともにOpenStackを立ちあげた企業であり、Clark氏は現在OpenStackのチェアマンとして活動している。
OpenStackは3つのクラウドコンピューティングモデル(SaaS、PaaS、IaaS)のうち、IaaSに位置づけられる。昨今、CanonicalやRed Hatはパブリッククラウドへのアプローチを取っているが、SUSE Cloudはエンタープライズを意識したプライベートクラウドにアプローチしている。
SUSE Cloudは、機能ごとに区分けされた各部分をパーツのような形で組み合わせて使う仕組みになっている。ベース部分はSUSE側が用意し、管理機能(SUSE Manager)や、イメージの作成・デプロイの機能(SUSE Studio)も提供しているが、サードバーティ製品も使えるため、ユーザーの要望に合わせたクラウドの構築が可能だ。
導入にあたっては、OpenStackの導入を容易にするためのCrowberというオープンソースのツールを起点としており、ここがOpenStack Foundationのアプローチと異なる。Crowbarを使うことで設定ファイルを書く作業を極力減らし、ミスを起こさないための工夫がされている。
というのも、OpenStackの環境構築は難しく、OpenStack Foundationが作ったドキュメントを参考にしてもうまく動かない事が多い。動いてたとしても、機能の動作が若干違うといったことも多く、村川氏はUbuntu以外でOpenStackが意図した通りに動くOSは無いのではないかと話す。最も多いのが依存パッケージの問題で、何かしらパッチを当てた後だとエラーが発生することが多いとのこと。
これが原動力となってか、SUSEとしては、製品として品質を確保できること、Crowbarを用いることにより、GUIで容易に環境が作れることを目標としている。またマルチハイパーバイザーの管理、サポートもGUIで行うことを目指している。
ネットワークについての考え方として、OpenStack Foundationでは、NICの使い方についてドキュメントを用意しているが、商用サービスに使う際は悩みどころが多いため、SUSE Cloudではシンプルに3パターンから選択するのみとしている。SUSE Cloudではプライベートクラウドを意識していることから、ネットワークの制約が多少あっても使いづらいことはなく、VLANで分けることができればネットワークの設計が楽な方がいいという視点からこのようなスタンスをとっている。
村川氏は続けてSUSE Cloudの構造と論理構成を紹介しながら、ユーザーが実際にセットアップするのはAdmin Serverのみで、インストール後はGUI形式が使えるため、操作が簡単だと説明した。マルチハイパーバイザーで、vSphere 5.1とHyper-V、Xen、KVMをサポートしている。現在はHavanaベースのSUSE Cloud 3(HA)がリリースされており、7月下旬には、IcehouseをベースにしたSUSE Cloud 4のリリースを予定している。
エンタープライズに要求されるOpenStackの機能とは
村川氏は、SUSEがOpenStackに必要な機能として考えている4つの項目を挙げた。
- 24時間365日可能なHA機能
- 容易なオペレーション
- マルチハイパーバイザーのサポート
- アップデートツール
まず、24時間365日可能なHA機能だが、OpenStack Foundationから提供されているパッケージをインストールした場合は、各々の機能がシングルノードで展開される。サービスによってはロードバランサーを使うことで冗長化ができるが、そもそもOSSで実現できないのか?という考えから、SUSE CloudではOSSの機能でHAを実現するようにしている。
次に容易なオペレーションについて。例えばRed HatがリリースしているOpenStackディストリビューションのRDOでは、Packstackという便利なコマンドがある。非常に楽ではあるが、実際にノードを追加しようとして設定ファイルの変更を間違えると、全て一からやり直しになってしまうため、SUSE Cloudでは設定ファイルを書かなくても良いようにすることを目標にしている。
マルチハイパーバイザーのサポートについては、国内ではKVM、Hyper-V、vSphereが主に使われているが、海外ではXenもまだまだ多く使われている。Dockerの登場などもあり、これらについては常に適切なタイミングでサポートするとしている。
OpenStackは現在6ヶ月単位でリリースされているが、このタイミングだと構築中に次のバージョンが出てくることになる。SUSE Cloudではアップデートツールを提供して、HavanaからIcehouse、次のJunoへの容易な移行を可能にすることを予定している。GrizzlyからHavanaにアップデートする際は仮想インスタンスの停止が必要だったが、IcehouseからJuno、その先へ移行する際は、スムーズにアップデートできることを目標にしている。
SUSEではHAを必須にしているが、GrizzlyのバージョンまではSPOF(Single Point of Failure:単一障害点)が必ず発生するという懸念点があった。2014年2月にHavanaがリリースされたため、HAのチームが5月に調査を行った上で、SUSE HA Extentionを使ってSPOFの排除に取り組んでいる。
ほかにも、Foundationのドキュメントでは触れられていないネットワークについて、これを分散化する機能を搭載したSUSEならではのHAの特長や、KeyStone、RabbitMQ、GlanceなどのHAについて詳しく解説された。
最後に、GUIを使った容易なオペレーションについて、ビデオによるデモを紹介しながら実際の進め方が紹介された。
村川氏の講演資料は以下からご覧になれます。
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また、協賛およびセッションへの登壇を希望される企業の方がいらっしゃいましたら、Think IT編集部までお問い合わせください。
Think IT編集部アドレス:edit@thinkit.co.jp(担当:鈴木 西松)
<編集部より> 1ページ目の誤字を修正しました。(2014.07.24)
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