「イノベーション」の実践
イノベーションを成功させる組織の特徴
ドラッカーは、イノベーションを成功させる組織には、図3の特徴があるという。
1つ目の「意味」で最も重要なのは、イノベーションは市場に焦点を当てなければいけないものだということである。特にIT関連のビジネスでは、「市場」よりも「技術」に焦点を置いた会話が多くなされる。
もちろん、斬新な技術主導で驚くべきイノベーションが生まれることもあるが、それは一朝一夕では実現しない。むしろ、優れた技術と市場のニーズを的確に結びつけたときにこそイノベーションが生まれる。ドラッカーは言う。「イノベーションは、市場に焦点をあわせなければならない。製品に焦点を合わせたイノベーションは、新規な技術は生むかもしれないが、成果は失望すべきものとなる」
そして5つ目にあるように、「マネジメント層」「上長」の果たすべき役割が極めて大きいことは間違いない。現場のアイデアを真正面から取り上げ、実行することを奨励し、組織全体が継続学習する気風を生む努力が必要となる。
ここにドラッカーらしいコメントがある。「私は毎年ノーベル賞受賞者の記念スピーチを読む。彼らの実に多くが、ノーベル賞受賞理由となった業績は、世の中を変える研究をやれとの恩師のひと言によってもたらされたという」
上長、トップを含めたマネジメント層は、イノベーションを起こせるかどうかは自分の意識次第であるという認識を強く持つべきだ。
変化の先頭に立つ
「変化はコントロールできない。できるのはその先頭に立つことだけである」
筆者はドラッカーのこの言葉が好きだ。変化が常態の時代に、それを企業や個人がコントロールしようとしても不可能である。そんなことに労力を使うのであれば、その変化の先頭にいかにすれば立つことができるかを全力で考え、実践するべきである。
技術力がある個人、チーム、組織が市場の機会に目を向けて創造的で斬新な発想を持ち、実行に移したとき、確実にイノベーションが起きる。それは従来言われていたように一部の天才や発明家によるひらめきや偶発的な産物ではなく、意図し、組織し、取り組むことが可能な仕事である。
リーダーは常にドラッカーの次の言葉を肝に銘じるべきだ。「変化ではなく沈滞に対して抵抗をする組織をつくることこそ、マネジメントにとって最大の課題である」
なお、本稿の執筆にあたって、以下を参考にした。
P.Fドラッカー(著)上田惇生(訳)『マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]』ダイヤモンド社(発行年:2001)
P.Fドラッカー(著)上田惇生(訳)『テクノロジストの条件』ダイヤモンド社(発行年:2005)
P.Fドラッカー(著)上田惇生(訳)『「経営の哲学』ダイヤモンド社(発行年:2003)
P.Fドラッカー(著)上田惇生(訳)『イノベーションと起業家精神』ダイヤモンド社(発行年:1997)