NVIDIAのCEOジェンスン・フアン氏、GTCでムーアの法則の終了を宣言
2018年8月、NVIDIAが都内でプライベートカンファレンス、GTC(GPU Technology Conference)Tokyo 2018を開催した。NVIDIAと言えば、昨年に「謎のAI半導体メーカー」と報じられたことで話題になったが、ディープラーニングや機械学習のプラットフォームとしてデファクトスタンダードと言えるGPUのリーディングベンダーである。
グラフィックスのアクセラレーターだったGPU(Graphics Processing Unit)は、今ではその強力な行列演算能力をフルに発揮して、MarvelやPixarなどによるコンピュータグラフィックス映画の制作現場から、最新の人工知能である機械学習、ディープラーニングにまで応用されている。そして今やNVIDIAは、グラフィックスよりも人工知能のベンダーであると自称していることは、すでにIT業界では当たり前のことだろう。GTCにおいてもイベントスタッフは「i.am.ai」と書かれたTシャツを着用して、グラッフィクスの会社から人工知能の会社に変わったというアピールをしていたほどだ。
今回は、キーノートのために来日したNVIDIAのCEO、ジェンスン・フアン氏によるセッションと、その後に行われたメディア向けQ&Aの内容を紹介する。
なお、約2時間に渡るセッションはYouTubeに動画として公開されているので、全てを見たい方は、ここからアクセスして欲しい。
GTC Japan - NVIDIA CEO Jensen Huang Keynote Address
セッションは全て英語で同時通訳はなく、前方のスクリーンに要約が箇条書きの日本語で表示されるのみという形式だったので、英語によるニュアンスを全て感じ取ることは難しいかもしれないが、エネルギッシュなファン氏の姿から絶好調のNVIDIAの現状を感じることはできるだろう。
「ポスト・ムーアの法則」時代の革新
フアン氏はまず、ムーアの法則が終わり、CPUベースのアーキテクチャーが限界に達していることを明確に宣言し、さらに次の革新を成し遂げるためにはNVIDIAが言うところの「アクセラレーテッドコンピューティング」が必要だと解説した。そして、エッジ向けからデータセンター向けのサーバーに至るまで単一のアーキテクチャーで統一していることが、NVIDIAの強みであると強調した。
また今後は、「エンジニアがソフトウェアを書く」という段階から「人工知能がソフトウェアを書く」という未来が到来することを解説した。これは機械学習によって、アルゴリズムをプログラマーが書かなくても適切な判断が行えるようになるという部分に関する言及だ。そのためにはGPUを使ったスーパーコンピュータが必要というのがポイントだ。
ここからはQuadro RTX/GeForce RTXによる高速なRay Tracingの例、DGX-2によるサーバーベースのGPUコンピューティング、新しいTuring GPUによるTesla T-4の推論エンジン、複数の機械学習フレームワークをサポートするTensorRT、そしてヤマハが採用したJetson AGX Xavierといった多岐にわたる製品が紹介された。
さらに、Xavierを使った自動運転の実装例であるIsaacがNVIDIA社内を移動する動画を使った紹介、そしてIsaacのためのSDKやエディターなどの紹介を、フアン氏はほぼ一人で行った。
NVIDIA Isaacについては、この動画が参考になるだろう。
NVIDIA Isaac platform for robotics at GTC 2018
そして最後に紹介したのは、この日のプレスリリースで始めて公開された、Jetson AGX Xavierがヤマハ発動機に採用されたというニュースだ。これはヤマハ発動機が開発する無人農業用車輌などにNVIDIAのJetson AGX Xavierを搭載し、自動運転を可能にするというものだ。ヤマハ以外にもファナック、コマツ、デンソー、パナソニックなどでもXavierが使われているということをアピールし、日本の得意とするロボットやオートメーションの領域においても機械学習による自動運転、自律運転が応用されていることをアピールした形になった。
GTCにおけるフアン氏は、壇上に飾られたNVIDIAのサーバーやGeForceのGPUアクセラレーターなどを実際に手にとって参加者に見せるアクションが特徴的だが、今回もそれは実行された。フアン氏はそのたびに「More you buy, More you save」(NVIDIA製品を買うほど、結果的により多くのコストをセーブできる)といういわばムーアの法則に代わる「フアンの法則」をジョークのように連呼した。ハードウェアベンダーとして、数を販売することの重要性を語っているかのようだった。
約2時間にも及んだキーノートセッションが最終的に30分ほど時間をオーバーした関係で、初日のプログラム全てが30分後ろにずらすことになったというのは、NVIDIAにとってCEOのセッション以上に重要なものはないということを表明した形になった。
他のITベンダーのキーノートではCEOはMC役となり、製品の責任者やエバンジェリスト、重要な顧客の責任者などが入れ代わり立ち代わり登壇するというスタイルが多い。そのキーノートを、一人で最後までやりきるのがNVIDIAスタイルなのだろう。リアルタイムのデモなどはほとんどなく、ひたすらフアン氏が語り倒すというスタイルで、製品ラインアップを紹介したセッションとなった。
フアン氏の講演を簡単にまとめるとすれば、スライドとしてスクリーンに表示された以下の内容のようになるだろう。
- 新しいNVIDIAプラットフォームの発表
- TuringとXavierは革新的なプロセッサーで、すでに量産されている
- Quadro RTXは世界初のレイトレーシングGPU
- GeForce RTXはレイトレーシングとグラフィックスを再創造した
- Tesla T4はハイパースケール推論に大きな飛躍をさせる
- TensorRTハイパースケールはデータセンターの稼働率を上げる
- このフレームワークはコンカレント推論できる
- NVIDIA AGXは運輸、ヘルスケア、ロボット産業でAIマシーンの頭脳
- ムーアの法則は終わり、新しいコンピューティングの幕が開ける
NVIDIAのCEOが考える自動運転
そしてその直後に開かれたメディア向けQ&Aセッションでは、レイトレーシングに関する質問とともに自動運転に関する質問も多く、IT関連メディア以外にも一般メディアからの興味のほどが伺える内容となった。そんな中、自動運転について「今の時点で自動運転について懸念がありますか?」という趣旨の質問に対する答えを紹介したい。
フアン氏はまず、「自動運転の実現が難しい問題であることは承知している」として、その中から解決策をあげるとすれば、それはリダンダンシー(冗長化)と多様性(ダイバーシティ)であると答えた。これは車だけではなく社会の全てのシステムにおいて冗長化が必要であり、単一障害点を避けるように設計されているということを念頭において、自動運転においてもそれは実現されなければならない。センサー、プロセッサー、アルゴリズムなど、全ての要素を冗長にしないと安全な自動運転は実現できない、ということを強調した。
そして多様性については、人工知能のリーディングベンダーとして、トヨタやUberなどの業界の様々なプレイヤーが協力し合って技術を高めて行く必要があると語った。そしてそれを実現するプラットフォームとしてXavierを挙げ、ここには必要な全ての要素が盛り込まれているとXavierの宣伝は怠らなかった。
また今の時点で自動運転実現の可能性については、今後、販売される次世代の電気自動車については全ての車種において自動運転の機能が装備されていると予想した。そして2年以内にユーザーは、自動的にレーンをキープできない車輌、自動的に障害物に反応してストップしない車輌に対して不安を覚えるようになるだろうと予測した。完全な自動運転の前に、人工知能を応用した自然なアシスト機能が当たり前になるということを強調した。その上で、限られた地域において自動運転のタクシーが当たり前になるだろうと予測した。
冗長性の部分は、キーノートのプレゼンテーションにはほとんど現れなかった部分なので、ここでそれに言及したのは軽い驚きだった。フェイルセーフなシステムをいかに単一のXavierで構築できるのか、機械学習の判断が間違った時、もしくはハードウェアが故障した時に、どのようにフェイルセーフに着地させるのか。自動運転に対する期待と興奮が徐々に冷めているように感じられる現時点で、これからNVIDIAがどういう提案を行っていくのか、期待をもって見つめていこう。
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