Twilio日本法人設立、ポートフォリオを拡げつつもコミュニケーションに専念
クラウドを活用したコミュニケーションソリューションを提供するTwilioが、日本法人を設立した。これまではKDDIウェブコミュニケーションズ(以下、KWC)が日本でのビジネスを担っていたが、今回「Twilio Japan合同会社」として正式に日本法人を立ち上げた。代表執行役社長には、YHP、CA Technologiesを経てAWSの立ち上げ、ワークデイ株式会社でパートナー事業部のトップを務めた今野芳弘氏が就任した。アジアと日本を含む地域担当のVPであるAngie Bell氏とともに、メディア向け説明会を実施した。
冒頭のプレゼンテーションに立ったBell氏は2008年に設立されたTwilioの歴史を簡単に紹介し、直近の前年比成長率が86%であること、2016年に上場した後、時価総額が180億ドルになったこと、16万社のユーザーを抱えること、そしてTwilioを使うデベロッパーが500万人を超えたことなどを紹介した。
その後に登壇した今野氏は、TwilioがクラウドコミュニケーションプラットフォームのリーダーとしてIDCに認められていることなどを紹介した。またTwilioがAWSをベースにしたパブリッククラウドを利用して、APIを通じて電話やSNS、電子メールなどのコミュニケーションを包括するソリューションであることを強調した。
Twilioの日本法人が注力するポイントとして「ブランドの浸透」「販売体制」「フォーカス製品」「コミュニティ」の4つを挙げた今野氏は、これまでKWCに任せていた販売活動、マーケティング活動を新法人が担うことと、KWCはゴールドパートナーとしてリセールとシステムインテグレーションを行うことを紹介した。
システムインテグレーションのパートナーとしては、KWCの他にNTTコミュニケーションズ、NTTデータスマートソーシングなどとすでに契約済みであるという。
またSendGridとAuthyのようにTwilioが買収した企業の製品をベースに、Twilioが提供するポートフォリオが拡がっていることを紹介。その中から「Programmable VOICE」「Authy」「Twilio Flex」「SendGrid」が日本において注力する製品となると語った。これまでTwilioは電話APIとして認識されていたものを、ブランディングの一環として「Programmable VOICE」として定義したということだろう。
その後、これまでTwilioの販売を推進してきたKWCの代表取締役社長山崎雅人氏が登壇した。山崎氏はまず、KWCがTwilioを扱い始めた背景などを紹介した。2012年当時、KWCはTwilioとほぼ同じ領域をカバーする製品「Boundio」を開発していたが、Twilioを見て「負けた」と思ったこと、その後Boundioを止めて、Twilioにフォーカスしたことなどを語った。
なお質疑応答の際に山崎氏に「レガシーなコンタクトセンターのソリューションはPBXやIVR(自動音声応答システム)などで構築されているが、Twilioでそれらをすべてリプレースできるか?」という質問を行ったところ、「可能だ。ただまだ大きな規模の顧客でそれが行われたことはない。そこがチャレンジ」という回答を得た。これに関してはBell氏にも同様の質問を行ったところ、「PBXを完全に置き換えるには時間がかかる。IVRであればすぐにでもTwilioでリプレース可能だ。そこで、システムの一部を徐々にTwilioに置き換えていくやり方を考えている」と回答を得た。
TwilioがKWCによって日本に紹介され始めた当時に勉強会に数回参加した経験からTwilioのビジネスを見ると、クラウドのAPIを呼ぶことで電話回線への発信、受信をプログラムから可能にすることが大きな特徴と言える。実際、当時のリリースやニュースを掘り返してみると「クラウドをベースにした電話APIであるTwilio」という紹介がなされている。つまりデベロッパーにとってみれば、アプリケーションから電話機能が使えるというのが差別化のポイントであったことがわかる。
いわゆるコールセンターのシステムはターンキーソリューションで、メールやSNSをベースにしたマルチチャンネル、カスタマイズにも対応というのが昨今のコールセンターソリューションである。TwilioはAPIをベースにしているため、特定の用途に当てはめてAPIを選択し、プロトタイプを繰り返しながら改善していくアジャイルな開発スタイルには最適だ。それに対して数百人規模のオペレータを擁する大規模なコールセンターには、ある程度のパッケージ化が必要となる。これに対する回答が、前述のTwilio Flexなのだろう。販売パートナーとしても、プログラムが必要なAPIよりもパッケージのほうが売り易いことは容易に想像できる。
以下に示したスライドでも、SaaSとしてFlexそしてSendGridをベースにしたマーケティングキャンペーンのためのソリューションが挙げられているのも、ある程度のパッケージとしてTwilioを認識して欲しいという意図が感じられる。
また今野氏が挙げたTwilioの応用例「営業の携帯電話会話の透明化(電話)」というスライドには、外勤営業が、顧客に直接電話をかけるのではなく、TwilioのAPIを通じて通話を行うことで通話記録と録音、通話のテキスト化などが可能になるという例が紹介された。
この用途が本当にユーザーの欲しいものなのかはさておき、通話のテキスト化、Flexの紹介スライドに「AIの活用」というなどの用語が紹介されていることに関して、実現には機械学習の要素が必須となる。そこでBell氏に「音声のテキスト化には機械学習など人工知能が必要になるが、その部分はTwilioの自家製なのか?」という質問をしたところ、「我々のコアコンピタンスはコミュニケーションだ。AIなどの部分はGoogleやAWSのテクノロジーを使う」という回答を得た。Twilioの強みはやはりコミュニケーション、特に電話を介したコミュニケーションと言う部分は変わらないようだ。
またBell氏には「日本ではデベロッパーは事業会社、特にエンタープライズ企業には存在せずに、子会社や外注先にしかいない。それは認知しているのか?」という質問をしたところ、「それは知っている。だからシステムインテグレータが日本では重要。これから開拓を行う」という回答だった。エンタープライズ企業にリーチするためには、まずシステムインテグレータの理解と協力が必要という認識のようだ。KWCは盛んに勉強会を行っていたが、ベンチャー企業には切り込めてもエンタープライズにはなかなか通じなかったこれまでの実績をTwilio Japanが変えていけるか、注目したい。
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