withコロナ時代のITエンジニアのキャリア戦略 3つの「アウト」が超重要
はじめに
未曾有のコロナ危機、それは社会や経済、企業だけでなく、「ITエンジニア」という働き方にも大きな影響を与えています。
90年代から今日にかけて続くIT革命によって、IT関連職の中でも特に、ITエンジニアは超売り手市場だと言われてきました。筆者もその時代にIT業界へ足を踏み込み、インフラエンジニアやプログラマー、SE、情シス担当者と様々な役割を担ってきました。そして収入や待遇面も維持しながら、これまで働き続けることができていました。
しかし、2020年に入って発生した新型コロナウィルス感染症の影響により、状況は一変します。数々の顧客企業が予算の縮小を開始し、それに比例して企業から依頼される案件の規模や数なども軒並み落ち込んだことで、これまでよりも案件に携わる機会が減り始めました。
そのような将来への見通しがはっきりしない状況が続く中で、ある特定のエンジニアは顧客のみでなく社内からも評価が高くなり、これまでよりさらに重宝され、様々な相談が増え続けている状態を目にしました。
そのエンジニアの振る舞いや言動を観察し、意見交換すると、彼らは意識的に「とある行動」を実践していることが分かりました。しかも、このコロナ危機が始まる何年も前から、筆者が目にした「重宝されるエンジニア」は皆、この行動を誰よりも実践していることに気が付いたのです。
その行動とは、いったいどのようなことなのでしょうか。誰もが実践でき、誰もが重宝されるエンジニアを目指せるように、3つのポイントに絞って紹介していきます。
エンジニアの生存の鍵
3つの「アウト」
時代や環境に左右されることなく、いつでも重宝されるエンジニアになるための行動とはズバリ、以下の3つです。
- アウトプット(発信し続けて知名度を上げる)
- アウトソース(苦手なことは人に頼る)
- スケールアウト(専門領域を広げる)
ひとことで重宝されるエンジニアと言っても、様々な特色や性質があり一括りで語ることは難しいのですが、この3つのアウトは漏れなく全てのエンジニアに共通するポイントだったのです。
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
1つ目の鍵「アウトプット」
周囲から重宝されるには、まずその人自身の知名度が重要です。
日本発のプログラミング言語「Ruby」の開発者として有名なまつもとゆきひろ氏も、過去の講演で「その人の知名度と価値は可換できる」と語っています(参考:「【まつもとゆきひろ】20代のためのプログラマー勉強方法を聞いてきた。」)。心理的に考えても、知らない人より知っている人の方が好きになれる、尊敬できるというのは、至極当然と言える理論でしょう。
では、「知名度を上げるためのアウトプット」とは、どのようなことが考えられるでしょうか。一般的にアウトプットと言うと日々の言動や制作物などを指しますが、それが「観測可能で定量的」なアウトプットほど、知名度に大きく影響してきます。
スキルや才能がなくても、例えば自分で書いたソースコードをGitHubなどで公開してみたり、学んだことを定期的に勉強会で発表してみるなどのアウトプットを継続することで誰かの目に触れ、評価される機会が増えていきます。
また、このようなアウトプットを積み上げると一連の実績が自身のポートフォリオになり、さらに自身の売り込みに繋がります。
アウトプットは本人の経歴や実績に関係なく、誰しもがすぐ実践可能なメソッドです。発信を続け知名度を上げていくことで、会社やチームへの貢献度が高まるだけでなく、実は次の2つ目の鍵「アウトソース」にも良い影響をもたらすことになります。
2つ目の鍵「アウトソース」
「アウトソース」とはいわゆる仕事の外出しのことで、自分の苦手な仕事を別の得意とする誰かに任せることを指します。
筆者がIT業界に入った10数年前から(おそらく、そのもっと前から)「仕事を選ぶのは偉くなってからにしろ。社会人はやりたくないこともやるのが当たり前だ」という意見が根強く主張され続けています。
「給料をもらって働いているのだから上司の指示には素直に従い、好き嫌いせず何でもやるのが当たり前。出来ないならどの会社でもお前は通用しないぞ」という論法です(あくまで個人の経験に基づく解釈です)。
しかし、驚くことに筆者が目にしてきた重宝されるエンジニアたちは、その“教え”を守っていませんでした。と言うより、そもそも自分が「苦手だ」と思っている仕事はほとんど回ってこず、多少任されることがあっても期待通りかそれ以上の成果を残すことが出来ていたのです。
これは1つ目の鍵「アウトプット」の副次的な効果でもありますが、知名度が上がるにつれて周りからは専門家としての見られ方が強まり、依頼者がその人に専門以外の仕事を任せることの効率の悪さを本人以上に考慮してくれるようになります。
そして、意図せず自分の専門(=成果を出している仕事)に関係する仕事が集まってくるようになっていったのです。さらに、知名度は“信頼感”にも繋がります。その人の携わる仕事が事業に良い結果をもたらしてくれるのでは、という期待と信頼から、ちょっとしたお願いや相談を快く受け入れてくれる人間関係が自然と築かれていくことも大きな特徴の1つです。
パフォーマンスを求められる仕事ほど「苦手な仕事はしない」ことは重要な意味を持ちます。自分が成果を出し続けるには可能な限り自分の専門領域で勝負し続けることが重要であり、そのために日常的なアウトプットで知名度と信頼感を築き、誰かに仕事を相談したり、任せてもらいやすい状態を作っておくことが重要なのです。
3つ目の鍵「スケールアウト」
ここで言う「スケールアウト」とは、IT業界でよく用いられる「処理の並列化/分散化」とは少し意味が異なります。自身の「スケール(専門領域)」を「アウト(広げる)」することを指します。
重宝されるエンジニアは、必ずしも携わる仕事において“一流”の人ばかりではありません。例えば、筆者はプログラマーであれば部品としてのフレームワークやライブラリを「作り出す」側となり、大多数の他のエンジニアに「活用してもらえる」ことが出来れば一流だと考えていますが、そんな働き方が出来ているエンジニアはごく一部です。
むしろ、逆に「それらを使う側」になっていることがほとんどで、「完全に機能を使いこなしてすらいない」場合も少なくありません。
では、なぜそのようなレベルでも重宝されるのでしょうか。その答えは「扱える領域の広さ」が大きく関係しています。
一般的に、専門領域というと、とある特定の単一分野でより深い専門性を持つ領域と考えることが多いですが、重宝されるエンジニアは容易に扱えるありとあらゆる技術分野を組み合わせ、その組み合わせで勝負している人が多いのです。
もちろん、特定の単一分野の深い専門性を持つエンジニアで高い評価を得ている方もいますが、深い専門性がなくても、幅広い技術分野を複合的に組み合わせることで自信と責任を持って仕事をしているエンジニアの方も重宝されていると筆者は感じています。
例えば「コミュニケーション能力×経理会計×プログラミングスキル」や「カスタマーケア×障害対応×ドキュメンテーションスキル」など、様々な組み合わせを目にしてきましたが、それぞれのスキルは人並みでも、組み合わせに独自性がある人ほど重宝される可能性が高い傾向にあります。
繰り返しになりますが、必ずしも“一流”である必要はないのです。あくまでも評価の本質は自身ではなく相手が決めるものであり、相手が求める領域をより多く扱えるエンジニアが重宝されるのです。
おわりに
これまでも、IT業界は流行り廃りが目まぐるしく、少し先の未来を予測するのが難しい分野の1つではありました。コロナ危機に直面したことにより、人々の生き方や働き方、仕事のあり方などが見直され、IT業界もその影響でさらなる変化を迎える局面になってきました。
時代の変化と共に変わるものがある一方で、変わらないものも少なからずあり、今回紹介した重宝されるエンジニアの3つのポイントは、実は時代の変化に関係なく、共通であることが経験的に分かっています。
もちろん、これらが全てではないと思いますが、もしこれからどうやって活動していけばよいか悩んでいるエンジニアの方にとって、この記事が少しでもその答えを導くヒントになれば幸いです。
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