ITエンジニアを生涯の生業(なりわい)とするために。ーキャリアのストレッチ法
はじめに
読者の皆さま、はじめまして。パソナテックの阿部と申します。現在、パソナテックでシステム関連の保守運用サービスを担当しながら、サービス企画・設計やプリセールスなどに携わっています。営業職から始めて、IT業界で10年以上働いています。
さて、今回はタイトルにある通り、ITエンジニアを生涯の生業(なりわい)とするために、IT業界で幅広い分野の業務に就いてきた筆者のキャリアを振り返りたいと思います。仕事の心構えに始まり、転機(異動や転職時)に際して有用なメソッド、ITエンジニアとコミュニケーションする際の“ちょっとしたコツ”などを紹介します。
大切な「たった2つの仕事の心構え」
これまでの筆者のキャリアを振り返ると、エンジニアとして専門的な知識やスキルを身に着け、それを伸ばしていくことはもちろん重要なことです。一方で、ITエンジニアである以前に1人のビジネスパーソンとしての“仕事の心構え”を持つことも大切です。
1. 社内外で関わる人の満足度向上
仕事の心構えとして筆者がいつも大切にしているのは、「関わる人の満足度を高める」ことです。もっと言うと、外部のお客様はもちろん、同僚や部下、上司など、関わる人に満足してもらうためにはどうすれば良いのかを常に考えています。
もし社内で困っている同僚がいれば、自分の知識を活かして全力で手伝いますし、上司が期待していることをキャッチアップして、成果として出せるように心がけています。
このように相手の満足度を高めることを意識していると、いつか部下が成長してお客様に筆者を超えた提案をする日が来るかもしれませんし、上司とのコミュニケーションが円滑になりお客様への提案活動が促進されることもあるでしょう。同僚への支援がお客様への貢献につながるかもしれません。結果としてお客様の満足につながっていく、そのようなものだと思います。
2. 仕事の報酬は「仕事」
「仕事の報酬は仕事」とは「できることや信頼が積み重なると、それが次の仕事につながっていく」という意味です。筆者は様々な分野の業務を通じてキャリアを重ねてきました。そして知識やスキルを積み重ねて実績を作り、相手との信頼関係を醸成すると、自然と次の仕事も任せてもらえるようになったと実感しています。この心構えでいると、些細な仕事でも自分自身の成長、ひいては次の仕事につながるものとして取り組むことができます。
そして、この2つの仕事の心構えを以てキャリアを計画・実行していくときには「アジャイル方式」をお勧めします。アジャイルソフトウェア開発のようなコンパクトなサイクルでキャリアプランを考えるということです。
アジャイル開発と同様には大きな単位でシステムを区切ることなく、小さな単位で実装とテストを繰り返して開発を進めていく手法です。このサイクルを継続して行うことで1つずつ機能を追加的に開発していくものですが、これと同様に1つの機能を1つの分野の技能に置き換えてキャリアを考えます。そして「計画(何を、いつまでに)」「要求分析(どのような技能が世の中で求められているか)」「設計(なりたい姿やありたい自分)」「実装(実務に適応)」を繰り返したサイクルで開発(成長)させていくと、その技能が年代や業務、それぞれのステージに即したものになっていくと思います。
専門的な知識やスキルを
転用するための「複眼メソッド」
キャリアを積み重ねていくとき、必ずしも想定通りの分野に進めるとは限りません。異動や転職など転機を迎えた際に、専門分野ではなかったり、今まで経験したことがない業務に挑戦することもあるでしょう。
そのような転機を迎えた際に、今までの知識やスキルを転用するために有効な「複眼メソッド」を紹介します。読者の皆さまは「風が吹けば桶屋が儲かる」というたとえ話をご存知でしょうか。突風が吹くことに端を発して様々な因果が連なり、最終的に桶屋の需要が増えて桶屋が儲かる、という因果関係のたとえ話です(疑似相関であるともいえますが、それは統計解析上の話になるのでここでは割愛します)。
ここでお伝えしたいことは、一見して相関性がなさそうな事象にも法則性や類似性を見出したり、その因果関係を論理的に説明できるようになることの重要性です。つまり「色々な角度からものごとを考えていく」という「複眼」の視座で物事をとらえられると、例えば何か新しいことに挑戦するときなどに、今まで積み重ねた知識やスキルを上手に転用できるようになります。
複眼があればこそ効く応用例
Linuxをお使いの方にはなじみ深い「Diff」というコマンドがあります。2つのテキストファイルを比較して異なる箇所(差分)を抽出する指示ですが、前述した「複眼」を備えていれば、この「差分」の指示を応用して、まったく異なる分野に転用して業務に役立てることができます。
これは、システム運用の現場で勤務シフト変更が発生することはよくあることだと思いますが、そのようなときに前回と変更後の勤務シフト表をいちいち見比べるのではなく、フリーウェアとして普及しているDiff(差分)チェックツールを利用することで変更点を容易に割り出して効率化するということです。複眼によって「差分」という法則性を見出し、そこにLinuxコマンドと同じ機能を持つツールを利用して効率化した、というわけです。
今回は例として分かりやすいものを示しましたが、このほかにも急に仕様書(Excelファイル)へ仕様変更が入り前回との差異を急ぎ把握したいときや、複数部署からそれぞれのタイミングでExcelファイルが送られてきて、それをマージする際には原本ファイルを作成しておき、その原本ファイルとの差分だけをマージしていけば先祖返りしてしまうこともありません。このように差分の考え方とそれに則したツールは様々な局面で応用できるのです。
また、筆者は先般、社内問合せのAIチャットボット導入プロジェクトに携わりました。今までAI関連では類推するアルゴリズムを活用したシステム企画・設計や金融関連のシステム導入推進の経験はあっても、実践的なAIやチャットボット、Teamsカスタムアプリは初めての経験だったので、この複眼によって今までの知識と経験を応用してプロジェクトの推進にあたりました。
つまり、複眼を備えておくと、Diffというコマンドひとつとっても他の業務に転用できますし、ある業務で得た知識やスキルを全く別の初めての業務にも応用できるというわけです。
ITエンジニアとの「コミュニケーションのコツ」
引き出しを多く、その中でも一点突破できる武器をもつ
ひと口にITエンジニアと言っても、ネットワークエンジニア、サーバーエンジニア、システム開発、保守運用など様々な職種・職域があります。そして、ITエンジニアはそれぞれの分野で造詣が深いことから、コミュニケーションをとるときに、ついつい躊躇してしまうケースや苦手意識をもつことがあると思います。
筆者はこれまで様々な分野・職域のITエンジニアや有識者の方々と一緒に仕事をしてきました。自分と異なる分野の方とコミュニケーションをする際、相手の専門領域をすべて同じ深さの次元で理解するのではなく、その領域の中で自分でも話せる領域・分野を準備しておくというやり方を取っています。
例えば、ネットワーク分野で言えばVPNルーターのconfigを取得できるようにしたり、サーバー分野ならUPS(無停電電源装置)の機能や構造を理解しておくことなどが挙げられます。それだけでも、その分野を専門とするITエンジニアと話ができるキッカケになります。
おわりに
IT業界は特に技術の進化や移り変わりが早い業界だと思いますが、いつまでも必要とされるITエンジニアになって、これを生業(なりわい)としていくために、技術以外に備えておくべき仕事の心構えやメソッド等について紹介しました。
この記事が読者の皆様にとって参考になり、これからもITエンジニアを長く続けられて、同じくITエンジニアを生業としたいと考えている筆者といつか仕事でご一緒させていただく機会が訪れたら、これに勝る喜びはありません。ありがとうございました。
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