最強ロボットを作れ!−FLL挑戦記
第1回:みんなでロボットを作ろう!
著者:オムニチュア 酒井 秀樹、ファーストキャリア 岩田 徹
公開日:2008/04/11(金)
知れば知るほど奥が深いFLLの世界
FLL(FIRST LEGO League)は小中学生向けの科学教育プログラムであり、その中心となるのが、LEGOのロボット競技である。本連載では、筆者らがコーチ/メンターとしてFLLに参加した2年間の体験に基づき、子供たちがどのように考え、悩み、議論し、工夫し、歓び、悔しがったか、そして、FLLへの参加を通してどんなに成長したかについて紹介したい。
なお、連載「LEGOから学ぶ組み込みシステム開発のキホン」では、組み込みシステム開発の視点からLEGOのロボット開発について紹介しているので、そちらもあわせて楽しんでいただきたい。FLLの意義やプログラムの内容、ロボット作成にあたってのツールや制限、具体的なロボット開発のコツなどを詳細に解説しているので、そちらを参照して欲しい。
ロボットをどのようなルートで障害物のある地点まで進め、どのような方法で各ミッションを攻略するか、といったこともFLLロボット競技の醍醐味の1つである。このミッション攻略戦略に応じて、ロボットのアタッチメント構成やプログラム論理が決まる。
本連載では、ロボットを使って完遂すべきミッションに対して、子供たちが攻略のアイデアを出し、実際にロボットを組み立てて試し、歓喜と落胆の末に自身の手によって分解し、また新しいアイデアを出し...といった事例を、参加した子供たちの声も交えて紹介する。生き生きとロボット製作やプログラミングに取り組み、皆で議論を戦わせる子供たちの様子が伝われば幸いである。
ミッション攻略のための戦略をたてよう
ここからはいよいよ、分子モーターと自己組織化のミッションを例に子供たちの挑戦を紹介しよう。図1の(1)にミッションフィールドの全体図を、(2)と(3)にそれぞれのミッションを模した図を示す。
まず、それぞれの競技内容について説明する。分子モーターのミッションのイメージは、アデノシン三リン酸(ATP)分子を届けて分子モーターを駆動させ、エネルギーを放出させるというものだ。具体的には、ベース(スタート位置)から出発して障害物を避けつつ、目的地である分子モーターに行き、3cm角の正方形の黒いフレームの中に分子を落として入れるとポイントが与えられる。
自己組織化のミッションのイメージは、原子の自己整列を始めるというものだ。こちらも、スタート位置から障害物を避けつつ、目的地である自己組織化に行き、傾けられた青いナノチューブの部分を水平に並べるために設けられたレバーを押すとポイントが与えられる。
それぞれのミッションの都度、ベースからスタートしてミッションのクリアを試みてもいいが、1回のスタートで複数のミッションを処理することも可能だ。今回チームは、分子モーターと自己組織化ミッションが近くにあることから、1回のスタートでこの2つのミッションをクリアすることを目指した。
この2つのミッションはチームにとって難易度が高いものであった。第一の理由として「スタート位置であるベースから目的地までの距離が1.5m程あること」、第二の理由として「ロボットを正確に目的地にまで運ぶために利用できる補正アイテムが少ないこと」があげられる。これらの条件がロボットを正確に狙った位置に運ぶことを難しくさせていたのである。
このような状況で中学三年生がリードするチームは4つの戦略を考えた。
1つ目の戦略は、ベースから上方に向けてスタートし、15cm程度直進、右に90度旋回、後進し壁にロボットのお尻をぶつけ角度を補正、1.5m程度直進して分子モーターに行き、分子を正方形の枠に落とすというものだ。ただしこの時点では、自己組織化対応の目処がたっていない。
2つ目の戦略は、ベースから右斜め上に伸びる対角線に沿ってスタートし、1.5m程度直進、壁にロボットの先端をぶつける。タッチセンサにより壁に到達したことを検知、右に100度程度旋回し、壁伝いに分子モーターまで直進、右に90度旋回し一度後進して壁にロボットのお尻をぶつけ、角度を補正して分子モーターに行き、分子を正方形の枠に落とす。
3つ目の戦略は、ベースから障害物である「賢い薬ミッション」に向けてスタートし、その上を通過しながら、賢い薬ミッションにバッキーボールを落とし、そのまま直進して分子モーターに行き、分子を正方形の枠に落とす。
4つ目の戦略は、ベースから障害物「賢い薬ミッション」「原子間力顕微鏡ミッション」の間を狙って直進し、ロボットがある地点に到達したら一定の角度に曲げる。再び直進し分子モーターに行き、分子を正方形に落とし、その後ロボットの鼻先を右側に60度程度回転することにより、自己組織化のレバーを押す。
一度に上記すべての戦略を考えて試したわけではなく、戦略を1つ考え、それを実現するアタッチメントとプログラムを作成し、うまくいくまで何度も何度も微調整を行った。たとえ成功しても、成功率が低く、時間がかかるようであれば、次の戦略を考えて試した。
当初チームは、昨年の経験から壁を使った補正方法にこだわり、そこからミッションのクリアに向け、突破口を見出そうとした。壁による補正とは、ロボットをわざと壁にぶつけ、一定の角度をロボットに与え、精度を向上させることである。戦略1および2はそうした壁を使った補正方法を活用している。
しかし、壁による補正がうまく機能せず、そこで考えたのが戦略3の賢い薬ミッションそのものを補正道具として活用した戦略だ。この戦略はアイデアとしては面白いものであったが、実用レベルには至らなかった。最終的には、まったく新しい補正方法を利用した戦略4を採用することになった。
では、詳細な戦略について見ていこう。 次のページ