2025年12月11日(木)、愛知県名古屋市の鶴舞地区にあるSTATION Aiにて生成AIに関わる大規模なイベントが開催された。その名は「生成AIギルド大感謝祭」。前記事で紹介したように、平日開催にも関わらず、オンラインを含め約350名の参加者が詰めかけた本イベント。特筆すべきは、参加者だけでなく、登壇者の多様さといった特殊性だった。
なぜ「日本マイクロソフト」と「金券ショップ」が並ぶのか?
スタートアップピッチ16社の中に入っている「日本マイクロソフト」という文字。スポンサーには、「KOMEHYO HOLDINGS」と「金券ショップ犬山」のロゴ。登壇者のゲストには「株式会社コメ兵ホールディングス、株式会社コメ兵の社長」、「トヨタ自動車株式会社の部長」と「STATION Ai株式会社の代表取締役社長」という顔ぶれである。
AIの業界に携わっている人物からすると、衝撃を受けるこのイベントのレポートを、企画者である筆者がこの記事によって公開する。
スタートアップピッチとポッドキャストの2種構成で実施
「生成AIギルドのメンバーの所属先」や「スタートアップが呼びたいゲスト」を招待し、会場は2箇所で実施。STATION Aiの3階セントラルラウンジでは、開会式、閉会式、スタートアップピッチを。3階の階段ラウンジでは、生成AIギルドの活動体験と、ビジネスの最前線者たちのAIの使い方や考え方をポッドキャストで発信した。
各セッションの内容の一部を紹介する。
「生成AIギルド大感謝祭ホームページ」生成AIギルドのメンバーによるスタートアップピッチ(16社)
中央にあるセントラルラウンジでは、生成AIギルドに所属しているスタートアップを中心に、短い時間のプレゼンテーションを実施した。
600社が入居しているスタートアップの拠点であるからこそ、その選りすぐりのスタートアップだけでなく、注目人物である「Shunkan AI」の神谷亮平氏や「EdFusion」の近藤にこる氏の登壇もあり、その後のネットワーキングタイムでは、多くの情報交換が行われていた。
「EdFusionホームページ」ビジネス先駆者たちによるポッドキャスト座談会
3階の階段ラウンジでは、ビジネス先駆者たちによるポッドキャスト座談会が実施された。一部注目のセッションを紹介する。
<ポッドキャスト ①>
- 株式会社コメ兵ホールディングス代表取締役社長 執行役員 石原卓児氏
- 株式会社コメ兵 代表取締役社長 山内祐也氏
特にリユース業界の雄であるコメ兵ホールディングスとコメ兵の両社長によるセッションは、AIの「社会実装」の指標となる内容であった。
コメ兵HDが示す「AIと人の役割分担」
コメ兵HDは、現在の生成AIブームが到来する8年も前からAI開発に着手している。ビジネスの核心である「真贋判定」を自社開発することにこだわり、熟練の鑑定士(匠)に近い精度を実現している。
しかし、両社長が強調したのは「AIはあくまで手段」という点だ。
- 「不安を取り除くAI」: 鑑定士が「偽造品を買い取ってしまうかもしれない」という不安から解放され、お客様に寄り添う接客に集中できる環境を作ること。
- 「情緒的な価値」: AIが算出する価格は単なる「機能」に過ぎない。お客様が物に込めた愛着に寄り添い、「ここに預けたい」と思わせるコミュニケーションは、人にしかできない価値である。
石原社長が「応援団長」として現場の挑戦を支え、山内社長が現場のCX(顧客体験)を設計する。このトップの姿勢こそが、伝統的な企業におけるAI活用の成功を支えている。
「株式会社コメ兵ホールディングスホームページ」<ポッドキャスト ②>
STATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐橋宏隆氏
STATION Ai 佐橋氏が描く「地域経済のOS書き換え」
STATION Aiの代表である佐橋氏は、同拠点を単なるオフィスビルではなく、地域経済のあり方を更新していくための「中継拠点」と定義した。会員1,000社を超える巨大コミュニティを「エコシステムビルダー」として牽引する佐橋氏は、自身の思考をAIに学習させる最先端の取り組みを紹介した。
その上で、「サイエンス(構造化・ルーチン)はAI、アート(感性・信頼)は人」という明確な役割分担を提示した。AIによって1人でも検証やプロトタイプ開発が瞬時にできる「非常に幸せなタイミング」を活かし、既存産業を再設計するようなバーティカルAIのスタートアップを強力に支援していく姿勢を示した。
「STATION Aiホームページ」<ポッドキャスト ③>
トヨタ自動車株式会社 エナジーソリューション事業部部長
新事業企画部主査 上條祐輔氏
トヨタ自動車 上條氏が実践する「BE creation」と交流術
トヨタ自動車の上條氏は、同社独自の新規事業育成フレームワーク「BE creation」におけるAIエージェントの活用術を披露。プロジェクトの「壁打ち」や審査の多角化、さらには試作開発の高速化にAIを使い倒している実態を明かした。
興味深いのは、AIを「自分を甘やかさない執事」として、あえて辛口な設定で活用している点だ。前セッションの佐橋氏が言及した事務的な「サイエンス」をAIに任せることで、自身は「アイスおじさん」としてアイスを片手にスタートアップと対話する。そうした「実際に人に会い、体験する」というAIにはできない「アート」の領域に時間を割くべきだという提言は、会場に大きな説得力を与えた。
「BE creationホームページ(トヨタ自動車株式会社)」イベントの効果
来場者は、現地参加者130名、オンライン(ポッドキャスト)220名で計350名という大所帯となった。各会場の各キャパシティが50名という状況だったのだが、予想をはるかに超える来場者数だったことから、注目の高さを伺うことができた。
運営のアンケート結果によるデータは以下である。(事後アンケート:回答数=52)
イベント参加の成果として以下であった。
参加者の声(抜粋)
- 「いろんな企業のAI活用を聞ける場がなく、非常に貴重だった。規模の大きさに驚いた」
- 「中学生起業家の姿を見て、未来は明るいと確信した」
- 「半年でここまでSTATION Aiが活性化しているとは。入居を考えたい」
- 「ロジックでは伝わらない熱狂がある。次は自分の会社の従業員や上司を連れてきたい」
本イベントは、単なる事例紹介の場ではなかった。アンケートの「自社の従業員や上司を連れていきたかった」という声が象徴するように、ロジックを超えた「熱狂」を共有する場であった。
特に、コメ兵HDやトヨタ自動車といった日本を代表する企業の経営層・リーダーたちが、スタートアップと同じ目線でAIの未来を語ったポッドキャスト対談は、参加者に強烈な刺激を与えた。中学生起業家のピッチから大企業のDX戦略までがシームレスに繋がる光景は、まさに生成AIがもたらす「フラットな変革」を体現していたと言える。
「すぐに行動したい」と答えた94%の参加者、そしてこの日生まれた1,000枚の繋がり。生成AIギルドが仕掛けたこのうねりは、STATION Aiという拠点を介して、名古屋から日本の産業構造を塗り替える大きな一歩となった。この熱気が今後どのような形(プロダクト)となって社会に実装されるのか、期待せずにはいられない。
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