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第2回:アクセル全開で臨むキックオフ

著者:ウルシステムズ  村上 歴   2007/8/23
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アクセル全開で臨むキックオフ

   「第1回:プロジェクト管理は顧客との対決ではない」では、ユーザ企業代表のC社の新プロジェクトリーダーである結佐(ゆうさ)氏と、開発ベンダー代表R社の若きエースプロジェクトマネージャー・弁田(べんた)氏に登場してもらい、以下の3つのポイントについて解説しました。
  • 両者の間には立場の違いから来るギャップがあること
  • それを埋めるためには、リアリティをもったプロジェクト像を描き、両者の認識をあわせるとよいこと
  • そのためにはいくつかのコツがあるということ

表1:第1回で解説したポイント

   今回のお話は、キックオフの場面からはじまります。この時点では、ユーザ企業も開発ベンダーもすばらしいシステムを作り上げることを夢見ていますし、できると信じています。

   この2つは大切なことなのですが、夢見がちな分だけ現実をみないという側面も持っています。そのため上流工程の間は、スケジュールの無理感や目的意識のずれ、技術課題の先送り、双方の不満など、多くを明らかにしないままになりがちです。

   これらの問題点が下流工程でリアルにみえてくるに従って、ユーザ企業と開発ベンダーは対立の深みにはまっていくのです。

上流でリアリティが不足していると、ツケが下流にまわる
図1:上流でリアリティが不足していると、ツケが下流にまわる
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   今回のキックオフでの弁田氏のねらいは、プロジェクト序盤で双方がやる気に燃えているうちにリアリティのあるプロジェクト像を共有してしまい、ややこしい話を全部出してしまうことです。

   このように決意した弁田氏は、何を準備してきたのでしょうか。


アジェンダで会議を計画する

   話は数日前にさかのぼる。弁田氏は、普段は穏やかなのにプロジェクトマネジメントを語るととたんに熱くなる先輩プロジェクトマネージャーのH氏を思い出していた。H氏が23:00頃に1人で体制図を書いていた姿と、喫煙所での語りが弁田氏の頭の中にオーバーラップしてくる。

   H氏「アジェンダは、それ自体がすごく大切というわけではないんだ。別にちゃんと作らなくてもプロジェクトは回るし、大きな失敗にもならないだろう。ただ、1つ1つの会議を大切にして、会議の流れを自分でシミュレーションするときにアジェンダはすごく役に立つし、ほんの30分もあればできてしまう。一見たいしたことにみえないような工夫を積み重ねることで、プロジェクトの管理はどんどんやりやすくなるんだ」

   弁田氏は、リアリティのあるプロジェクト管理のきっかけはここからではないかと感じ「これでいいですよね」といえるアジェンダをしっかり作ることにした。

   そうすると、まず、全体の時間が1時間ではとても足りないことに気付いた。あわてて結佐氏に連絡し、時間を延長した。それから、各チームのリーダーに説明してもらう内容についてきちんとした意識合わせができていない点にも気付き、リカバリすることもできた。

   ……そんなちょっとした苦労の結果、安心して今日のキックオフを迎え、プロジェクタには本日のアジェンダが映っている(表2)。

# 議題:時間 担当 内容 資料
1 各社体制紹介
(10分)
R社B課長
C社A課長
弊社の担当をご紹介します。
また、御社担当者のご紹介いただきます。各体制の詳細は議題2の中で説明します。
(3)体制図
2 目的と課題の優先度意識合わせ
(10分)
R社弁田 本プロジェクトの目的と、対応すべき課題の優先度について、弊社認識に間違いがないかを確認いただきます。 (1)プロジェクト概要
3 全体スケジュールの意識あわせ
(60分)
R社弁田 今月行う「全体計画」タスクの初回として、弊社の想定する全体計画を説明いたします。これを元に、今後検討すべき課題の洗い出しを行います。 (2)全体スケジュールと主要成果物一覧
4 8月ゴールの設定(20分) R社弁田 8/31時点でのプロジェクトマイルストーン案に対する御社からコメントを頂きます。※FIXは次回の予定です (6)8月末マイルストーン
5 会議体
(15分)
R社弁田 今月実施する各会議のスケジュール・参加者・場所を決定します。 (4)会議体一覧
6 今後の作業
(10分×4チーム)
R社弁田
各チームPL
上記の会議体にあわせて、各チームの日次打合せ予定を共有します。 (5) 日次スケジュール(各チーム別)
7 次回予定   8/15(水)10:00〜12:00
@C社301会議室
予定議事:
1. ToDo・課題確認
2. 進捗報告
3. 要件定義の進め方について
4. その他
 

表2:リアリティのあるアジェンダの例

   H氏の丸い背中を思い出しながら作った今回の弁田氏のアジェンダには、以下にあげる3つのポイントがある。


ポイント1:時間配分を明記する。

   実際は予定とずれてしまうことも多いが、それでも書いておく。そうすることで、ネタの重さを皆が共有できる。あるいは、予定している時間でとても終わらないことが事前にわかり、時間延長の調整を早めにかけられる。

   ユーザは他の会議も抱えている。議事が長引いても延長できないし、当日になって会議のキーマンが急に「今日は途中で退室します」ということもある。大事な話や、キーマンがいないとできない話を前に持ってくる、といった調整を行うには、アジェンダに時間配分を示しておくと助けになる。


ポイント2:どのように議論するか、どこまで結論を出するのかを明記する

   会議の目的として、意識合わせ/説明・報告/結論・意思決定のどれが重要なのかを明記しておくとよい。会議のテーマは口頭で説明することが多いが、何を目的に説明しているのかの理解が得られず、聞いている側が不安になるケースも多い。

   説明する側の考えをあらかじめ伝えておくことで、その話をどういうつもりで聞けばよいかがわかり、効率の良い議論に繋がる。


ポイント3:提示資料を明記する。

   説明は割愛するが、提示すべき資料をアジェンダに書いておけば、直前になって資料がたりないといった不安がなくなり、また人数分の資料印刷を他者にお願いすることができるといったメリットもある。

   このようなアジェンダ作りは大事な会議だけではなく、日次の会議でも継続・実践することに意味がある。毎回の会議で、誰が何をして、どういう結果を得たいのかを事前に想像し、そのために必要な事前調整をやっておく。そうすることで、プロジェクトマネージャの姿勢が現場のチームリーダーにも伝わり、現場でも1つ1つの会議を効率よく回そうという意識が高まる。

   このようなアジェンダを各チームリーダーが作ってくれるようになると、プロジェクトマネージャは安心してチームリーダーに会議の仕切りを任せることが出来るようになる。未来のプロジェクトマネージャ候補が育っていくのだ。

   これらのポイントをまとめると以下のようになる。

プロジェクトマネジメントを助けるツール名:リアリティのあるアジェンダ
効果:1つ1つの会議を効率よく消化でき、ユーザとベンダーの信頼感が高まる
プロジェクトに対するユーザ納得度への貢献:★★☆☆☆

   続いて、プロジェクトをリアルに描く上で、もっとも重いポイントの1つである「成果物の作り方」についてみていくことにしよう。

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ウルシステムズ株式会社 村上 歴
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  村上 歴
シニアコンサルタント。8bit時代からのコアな技術屋であり今でもそのつもりだが、最近はパワーポイントの方が主な成果物になっている。「この矢印の意味は何ですか?」のように、文書を添削してくれるツールがつくれないか思案中。


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第2回:アクセル全開で臨むキックオフ
アクセル全開で臨むキックオフ
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