“職場での声かけ”してますか?
はじめに
前回の最後で、三好さんから「“職場での声かけ”について聞いてみよう」というお話しがあったので、今回はこの声かけについて解説したいと思います。
唐突ですが、皆さんは“ネタ帳”って作っていますか?
まぁ、この連載を見ていただいている方々はお笑い芸人でも放送作家でもないので、ネタ帳なんか作っているわけありませんよね。
でも、「自分は話題が少ないな」と感じたり、飲み会やデートの時に「何を話したら良いかわからない」と困ったりした経験があるのなら、今からでもネタ帳を作ってみましょう。
声かけの話題には“雑学”が必要
これは第1回で紹介した書籍「天使に教わる 勝ち残るプロマネ」にも掲載されていますが、僕は写真のようなネタ帳を作っています。と言っても、こんな感じのスクラップノートですが。
そもそも、職場でする声かけの話題って、ちょっと休憩を促したり、息抜きであったり、そんな感じですよね。仕事で必要な声かけじゃないですよね。仕事で必要な話なら、回りくどく言わずストレートに“仕事の話”で声かければ良いだけなので。
そう考えると、声かけの話題ってやっぱり“雑談”なんですね。つまり、声かけは“ちょっとした雑談”から始まります。
で、そうなると雑談の話題には雑学が必要になる、というわけです。
雑談と本題とは違うものですから、職場で仕事の話をしたり、家庭でご近所さんの話をしたりすることではないんですよね。お互いに知っている共通の話題……例えば趣味の話なんかがあればそれに越したことはありませんが……、ただ、毎回同じ話題しかできなければ「ねぇねぇ聞いて」と声をかけただけで「また、あの話か」と思われてしまいます。
つまり、“意外性がない話は飽きられる”ことがあるのです。
でも、先のような“雑学スクラップ”たるネタ帳を作っておけば、話題に事欠くことはなくなります。初対面の相手に“どんな話題が刺さる”のかを探る時なんかにも使えますしね。おススメです。
世の中に興味を持つことができる
雑学スクラップを作ると決めれば、否が応でもネタを探すようになって、自ずと世の中に興味を持つようになります。日々新聞を見たり、自分の周囲に起こったことに敏感になったり。「なんで?」「どうして?」「へぇー!」って感じです。さらに、自分にどういう知識が不足していて、何を学べば良いのかもぼんやりと見えてくる、という派生効果も得られます。
これって、すごく良いことだと思いませんか?
話題を出すタイミングは重要! 時には熟成させる
話題には“旬”というものがありますよね。“今話題の……”というものです。
時には旬の話題も良いのですが、それしか話題がないと“薄っぺらな印象”を与えてしまうことがあります。あるいはミーハーに思われたり、自己主張目的だと思われたり。現代は特にSNSやブログで誰もが情報発信する時代ですから、それこそみんながみんな“旬の話題”に乗っかろうと話題の奪い合いになっていたりします。
それはそれで悪いことでもないのですが、それ以外の話題をベストなタイミングで出すことができれば、相手も“おや?”と思うはずです。
そこで、スクラップした話題をすぐには使わず、最高のタイミングで出すためにずーっと持っておく。つまり自分自身の“資産”にする。そしてここぞ!という場面で〝切り札〟として使うと効果的なんですね。
話題の豊富な人って、ノートにスクラップするのか、メモするのか、記憶するのかといった違いはあっても、結局は何かしら、こういう地道な努力をしているんですよね。天才と呼ばれているお笑い芸人でも同じです。
実際に雑談として話題を振ってみる
そして、最高のタイミングで出すためには、こんな感じで話を振ってみるんです。
実はこの前、岐阜県高山市の飛騨牛専門店の焼き肉屋さんに取材に行ったんですよ。
で、メニューを開くと、美味しそうな写真と飛騨牛のサーロイン、飛騨牛のロース、飛騨牛のカルビなど、“飛騨牛”のメニューがずらーっと並んでる。それで「まずは“タン塩”と思って探していたら……なんて書かれていたと思います? “国産牛のタン塩”と書いてあるんですよ。飛騨牛専門店なのに“飛騨牛のタン塩”ではなく、“国産牛のタン塩”ですよ。
もちろん、最初に焼いて食べました。そうしたらこれが、今まで食べたことがないほど美味しいタン塩だったんですが、飛騨牛専門店で国産牛のタン塩って書いてあるのは不思議じゃないですか? それで、お店の方に聞いてみたんです。
「メニューに国産牛のタン塩と書いてありますが、飛騨牛のタン塩ではないのですか?」
そうしたら、「いいところに目を付けましたね。タンは日本中どこの焼き肉専門店に行っても国産牛のタン塩と表記されているはずですよ」ですって。
すごく気にならない?
相手は「えーなんで? 教えて?」みたいな感じで聞き返してくれると思います。そこから雑談が始まる可能性が高くなるんですよね。この場合は、相手の「知りたくなる“?”」につなげています。
ちなみに、お店の人はこの雑談の答えをこんな風に教えてくれました。
「牛の格付けは、牛をお肉にしてから(専門用語では牛枝肉という)肉質を調べてランク付けして“飛騨牛のロース、カルビ”などと表記しますが、“タン”は枝肉にする前に取り除かれます。それで仮に飛騨牛のタンでも飛騨牛として格付けする前なので、国産牛のタンと表示するのです」
今思い出しても美味しかったなあ! あの飛騨牛のタン塩。私は今でも、あれは飛騨牛だったと思っています。だって飛騨牛専門店で国産牛のタン塩ですよ。お店の人も「美味しいタン塩でしょ。こんなに美味しいタン塩は飛騨高山に来ないと食べられませんよ」ってそっと教えてくれましたからね。
こんな感じで話していたら、ここからさらに話を広げることも、早々に終わらせることもできます。そういう意味で“まずはネタ集めをする”。これが答えですね。
【解説】ビジネススキルとしての“雑談力”(三好)
大倉さん、ありがとうございます。ここからは三好の解説になります。
“声かけ”できないといけないという認識
“職場での声かけ”は、優秀なリーダ(プロジェクトマネージャや経営者、政治家、教師など)は必ずやっていることで、今の時代、生産性を高めるための必須スキルになっています。進捗遅れの兆候(体調の確認等)を把握するためにも行わなければならないことなんですね。そこで、まずは「マネジメントする立場になったら、やらないといけないことだ」という認識を持つ必要があります。
“本当の雑談”ができているか?
でも、今回の大倉さんの話を聞いて再認識したのは、“本当の雑談”ができている人は少ないんだということ。
皆さんも、自分の日常の話題を思い出してみてください。仕事の話、家庭や家族の話、趣味や好きなものの話ばかりじゃないですか? 僕なんか乃木坂46の話しかしませんからね(笑)。
乃木坂以外の、それこそ雑多な話題ができるようにならないと、「ちょっといい?」って声をかけた時に、警戒されたりウザがられたりしてしまいます。
“いやらしい声かけ”と“温かい(喜ばれる)声かけ”の違い
声かけには“いやらしい声かけ”と“温かい(喜ばれる)声かけ”があります。いやらしいと言っても下ネタじゃありませんよ。ただ自分が話したいからという理由だけで、相手の事情に関係なく話しかけてしまう“自分本位の声かけ”のことです。これは職場でもマネジメントの現場でも一切必要ありません。これそのものが“ハラスメント”になることも。
マネジメントにおける声かけは、相手のことを想って最適なタイミングで、必要だから行うものなのです。それこそ休憩を促したり、モチベーションを高めたり、回復させたり……すべてが相手の状態に応じたものになります。
で、それは“話題”に現れてくるから相手にも伝わるんですよね。自分本位の声かけは「何か話題を作って話しかけたい!」というのが根っこにあるので、相手の好きなものや趣味に合わせたり、最近の流行や時事問題であったり、自分が“何か話題を欲しい”というのが話題に現れるんですね。
これに対して、相手の事情に合わせて気持ちを軽くしたり、テンションを上げたりしたいと考えている人は、最適なタイミングで最適な話題を提供することを考えるので、日常から雑多な話題を収集しています。
ちなみに思考は態度に出るので、思春期の子供や想いを寄せる人に話しかけて冷たくあしらわれたりするのも、自分本位の声かけと見透かされていることは少なくありません。
そういう意味で、ネタ帳を作り“すぐに使わない雑学”をストックしていくのは良いことですよね。“底を見せない魅力”とは、そんなところから生まれるのかもしれません。