ストレージ階層化で価格性能比を高める
ストレージの自動最適化が求められる背景
ハード・ディスク・ドライブ(HDD)の技術革新やサーバー仮想化技術の浸透などを背景に、階層型ストレージ管理をストレージきょう体内で自動化する需要が高まっている。コスト削減と応答性能(レスポンス・タイム)の維持・向上という、相反する2つの課題を同時に解決する手立てとして注目を集めている。
米EMC(以下、EMC)がストレージ製品に搭載している機能の1つである「FAST」(Fully Automated Storage Tiering: 自動階層化)は、こうした"自動階層化"を実現する代表的な例である(FAST機能紹介はこちら、VMware環境向けFASTホワイトペーパーはこちら)。
今回は、ストレージ階層化(階層型ストレージ管理)の必要性と効果から、ストレージ階層化を自動化するFASTまで、ストレージ階層化に関する最新技術動向を解説する。
ストレージ階層化を自動化する
ストレージ階層化とは、互いにアクセス性能が異なる複数の種類のドライブを単一のストレージきょう体内に混在させ、データのアクセス頻度に応じてドライブを使い分ける運用を指す。こうした運用をストレージ内で自動的に実施するのが、ストレージ階層化の自動化である。
FASTを搭載したEMCのストレージでは、価格あたりの容量が少ないもののアクセス性能が高いフラッシュ・ドライブ(*1)と、アクセス性能は劣るものの価格あたりの容量が大きいSATA(Serial ATA)接続のHDDを組み合わせて、性能とコストを最適化する(図1)。
*1: フラッシュ・ドライブは、半導体を用いたフラッシュ・メモリーを記録媒体として利用するドライブ装置である。SSD(Solid State Drive)とも呼ばれる。EMCでは、信頼性の高い企業向けのSSDのことを、コンシューマ向け製品と区別するためにEFD(Enterprise Flash Drive)と呼んでいる。
図1: 「ストレージ階層化」の仕組み |
データ・アクセスによってHDDにかかる負荷は、ケース・バイ・ケースである。例えば、日中のオンライン処理や夜間のバッチ処理など、業務サーバーからストレージにアクセスする目的の違いによって、負荷は変化する。そもそも、アクセス頻度が高いデータもあれば、あまりアクセスしないデータもある。
筆者は職業柄、業務で実際に使われているストレージについて、性能面での改善策を調査する機会が多い。もっとも多いケースは、複数のHDDのうち一部のHDDにアクセス負荷が集中しているという状況である。例えば、ある時間帯に限って発生する高負荷な処理がある。これを短時間で終わらせるため、多くのHDDを搭載する。ところが、こうしたHDDのほとんどは、多くの時間帯においては、まったく使われない。こうした状況がある。
高負荷なHDDで原因をひも解いてみると、わずか数個の特定の論理ボリュームに対するアクセスが、HDD全体、ストレージ全体の負荷の多くを占める、というものである。こうした状況の下では、ストレージ・コストを減らす目的でアクセス性能が劣るSATA HDDへと買い換えた場合、性能問題へと発展してしまう。
論理ボリュームの数が少ない場合には、チューニングにおいて、HDDを手動で組み換えることもできる。ところが、多くの環境では、論理ボリュームの数が膨大となるため、手動でHDDを組み換えることは困難となる。そもそも、ボリュームの数が多いと、利用状況の分析だけでも大変な労力を要する。
チューニングの実際は、業務サーバーからのI/O要求を、個々のサーバー単位、および論理ボリューム単位へと分解し、少数のHDDにアクセス負荷が偏ってしまう原因を追究するところから始まる。こうして、負荷が偏る原因を特定できたところで、アプリケーションからの要求を加味した最適化を行う。移動先ストレージの空き容量や、データの移動が業務に与える影響、移行時間の見積もりと移行スケジュールの調整など、各種の要素を考慮して進める。
メンテナンスのためにストレージを停止させても構わない時間がどれだけあるか、といった問題もあり、ストレージを実際にチューニングするには、多くの事前準備や移行計画、各種の作業をともなう。さらに、ストレージのチューニングは専門知識を備えたベンダーに依頼することが多く、また長期間化することから、費用の面で高額となる場合が多い。
このような事態に陥らないため、サイジング(容量設計)において、本来必要なHDDの量を大幅に超えた余剰のHDDリソースを搭載する、というアプローチがとられてきた。結果として、搭載しているHDDのほとんどを使っていないという"ストレージ使用率の低さ"という問題が、実態として浮かび上がってきている。
ストレージ応答性能向上とコスト削減を両立
一般に、エンタープライズ向けのSSDでは、単体ドライブあたりのIOPS(1秒あたりのI/O処理数)が、HDDの約30倍ほどになる。応答時間は、HDDの約10分の1で済む。これは、HDDのI/O処理能力を1回とした場合に、約30回多くの処理ができることを意味する。応答性能で見た場合は、同じ時間で約10回多くの処理が可能になることを意味する(図2)。
図2: ドライブ種別ごとの性能比較 |
HDDに高い負荷をかけていたデータ領域がSSDに移動することで、HDDへの負荷が減り、余裕が生まれる。こうして、HDDに残った負荷の少ないデータ領域を、さらに大容量なHDDに集約できるようになる。HDDの搭載本数が減ることで、ストレージの消費電力と設置面積の削減にもつながる(図3)。
図3: FAST適用によるコスト削減効果の例 |
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