CNCFのCTO、Chris氏の「Cloud Native Predictions for 2021 and Beyond」に見る、クラウドネイティブに関する予測【前編】

2021年6月29日(火)
赤井 誠

はじめに

国内外で「クラウドネイティブ」に取り組む企業やエンジニアが増え、クラウドネイティブ関連のイベントへの参加者も活況を呈しています。一方で「クラウドネイティブとは、なんでしょうか?」という疑問を持っている方々も多くいます。

そこで本連載では、クラウドネイティブについて解説するとともに、それを支える基本的なテクノロジーやソフトウェア、そして、特にエンジニア視点として、どのように学んでいくかを紹介していきます。

今回は、クラウドネイティブの普及を支援するCloud Native Computing Foundation(以下、CNCF)のCTOを務めるChris Aniszczyk氏が、2021年年初に公開したブログ「Cloud Native Predictions for 2021 and Beyond」の概要を紹介し、今後のクラウドネイティブの動向を探ります。

2021年以降、クラウドネイティブは
どうなっていくのか

まず、簡単にChris氏について紹介しましょう。

前回まで、3回にわたって紹介した「Cloud Native Trail Map」を提供するCNCFは、Linux Foundationのプロジェクトの1つで、クラウドネイティブなテクノロジーの普及を目指す財団です。

Chris氏は、CNCF発足からしばらくはCOO職を務めていましたが、現在はCTOとして活躍しています。また、Linux Foundation のデベロッパー プログラム担当バイスプレジデントでもあり、開発者コミュニティと協力し、オープンソースプロジェクトの推進を支援しています。以前は、Twitter社でオープンソース担当として開発者支援チームをリードし、Twitterのオープンソースエンジニアリング、戦略、カルチャーの責任者でした(以前にTwitter社時代の彼の講演を記事にまとめたことがあります。興味がある方はこちらを参照ください)。

余談ですが、LinkedInに掲載されている経歴によると、テキサス州立大学オースチン校でMBAを取得しているそうです。筆者も、同校に2000年に交換留学した経験があります。Chrisの卒業は2007年なので、後輩と言って良いかもしれません。

さらに余談になりますが、彼のファミリーネームであるAniszczykをどのように発音するのか、イベントでよく話題になっています。気になる方は、ぜひご自身で検索してみてください。

なお、今回紹介するブログは、Chris氏がメンバー企業や開発者からクラウドネイティブの動向を聞いた上で、2021年以降の動向について、彼の考えをまとめたものです。

注目ワード(1):クラウドネイティブIDE

1つ目の注目は、「クラウドネイティブIDE」だと指摘しています。ここで、そもそもクラウドネイティブIDEとは何でしょうか。調べてみたところ、現状で一般に利用されている用語ではないようです。

オープンソースのIDEといえば、Chris氏も長く開発に関わった「Eclipse」が有名です。EclipseはJavaアプリケーション開発に使用されることが多いですが、現在はプラグインを利用することでC++、Python、Rubyなど多くの言語を利用できます。

ここから考えると、クラウドネイティブIDEとは、クラウドネイティブテクノロジーを利用して、開発、運用していく上での統合開発環境だと言えるでしょう。今後一般的に利用されるようになるかも知れませんし、IDEと言えば、クラウドネイティブな開発環境もサポートしていることになるかも知れません。

Chris氏は、次のように述べています。

「将来的には、開発ライフサイクル(コード、ビルド、デバッグ)は、ローカルのEmacsやVSCodeを使ってセットアップするのではなく、大部分はクラウド上で実行されるようになります。すべてのプルリクエストに対応した完全な開発環境が用意、事前設定、デプロメント環境に接続されて、開発やデバッグのニーズを支援することになるでしょう。具体的なIDEには「GitHub Codespaces」と「GitPod」があります。GitHub Codespacesはまだベータ版です。GitPodではPrometheusを例にして、ライブで試行できます。1分ほどでエディターとプレビュー環境を備えた完全にライブな開発環境を構築できます。この開発環境(ワークスペース)がコードで記述され、チームの他の開発者と共有できます。」

・GitHub Codespaces

GitHub Codespacesは、GitHub社が開発を進めるIDEです。ユーザーは、クラウドでホストされた開発環境Codespacesを素早く起動できます。Webブラウザ、またはVisual Studio Codeから利用できます。

●GitHub Codespaces公式サイト:https://github.com/features/codespaces

IDEを提供する企業と言えば、やはりマイクロソフトです。GitHub社を傘下に持つマイクロソフトは、昨年9月にVisual Studio CodespacesをGitHub Codespacesに統合することを発表しています。Visual Studio Codespacesは、Gitリポジトリへのアクセス、組み込みのコマンドラインインターフェイスを備えたWebブラウザベースのエディタを搭載し、Visual Studioとも連携が可能でした。この統合で、より幅広い開発者がGitHub Codespacesを利用できるようになることが期待されています。

なお、GitHub Codespacesは限定ベータ期間中です。価格もまだ確定していませんが、シンプルな従量課金制の価格設定が予定されています。現在は無償で利用できるため、開発者がこの新しいコンセプトを体験するには良いタイミングかもしれません。

・GitPod

Gitpodを開発するGitpod Inc.は2020年に創業された非常に若い企業です。GitpodもGitHub Codespacesと同様にクラウド上に開発環境を構築し、WebブラウザやローカルのIDEからアクセス可能なプラットフォームです。ソースコードは、ライセンスAGPLの元GitHubで公開されています。

●Gitpod公式サイト:https://www.gitpod.io/

開発者は通常、Webブラウザから「Eclipse Theia」を利用してコーディングを行います。Eclipse Theiaは、Eclipse Foundationが開発するIDEで、昨年4月にバージョン1.0に到達したばかりの最新IDEの1つです。

●Eclipse Theia公式サイト:https://theia-ide.org/

利用時間制限がない契約では、毎月25ドルで利用可能です。50時間以内では無償で利用できるため、こちらも開発者がこの新しいコンセプトを体験するには良いと思います。

おわりに

まだまだ、クラウドネイティブIDEを利用したという人は少ないと思います。「クラウドネイティブIDE」と言われても、ピンとこない人も多いでしょう。GitHub CodespacesとGitPodは、どちちも似たコンセプトを持つプラットフォームであること、Visual Studio Code(VS Code)とよく似たEclipse Theiaを利用可能なこと、GitHubを利用していることなどを考えると、利用するための取っ付きは悪くないと思います。

次回も、引き続きChris氏のクラウドネイティブの動向を探るブログから、2021年以降の新しいトレンド予測を紹介していきます。

MKTインターナショナル株式会社 代表取締役社長
日本HPに入社後、ソフトウェアR&D、事業企画、マーケティング部門を歴任。Linux事業リーダーとして日本HPをLinux No.1ベンダーに、HPC事業を立ち上げHPC No.1ベンダーへと導く。2011年4月MKTインターナショナルを起業し、現職。『できるPRO MySQL』(インプレス刊)等著書多数。

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