教育現場におけるオープンソース実証実験 1

OSDSの背景

OSDSの背景

   まず本プロジェクトの背景を整理しておきましょう。

   Linuxや*BSDを代表とするオープンソースソフトウェア(以下OSS)は、サーバ分野で広く使われて、組み込みやエンタープライズ分野に浸透 してきました。昨年頃からは、最後の牙城であるデスクトップ分野での利用が注目されるようになってきました。実際、デスクトップ利用向けにチューニングさ れたLinuxの完成度もかなり向上し、現実味を帯びてきています。

   しかし残念ながら、Linuxのデスクトップ環境を日常的に使用している層はまだ少数派です。ほとんどのPCはプロプラエタリOSで動作しており、 そのうえで動作するプロプラエタリなオフィスアプリケーションスイートがデスクトップ向けソフトウェア市場で非常に大きなシェアを占めています。

   このような現状はソフトウェアの発展に対する閉塞感を産むことに繋がります。そこでOSSのデスクトップ利用を普及させることによって、その状況を打破するための試みが世界各国で検討されています。日本でも、これまでに様々な試行錯誤が行なわれてきました。

オープンソースOSのデスクトップ利用

   Open Source Applications Foundationによるレポート、「DESKTOP LINUX TECHNOLOGY & MARKET OVERVIEW」に、対象とするユーザ層別にその導入可能性を論じた興味深い議論があります。いわく、Linux PCをデスクトップ端末として利用できる層は、表3の順番になるとのことです(注1)。


  1. 高いIT技術レベルを持つ技術者、学生
  2. 定常業務作業者
  3. 頭脳労働者、いわゆるホワイトカラー
表3:Linux PCをデスクトップ端末として利用できる層
 
※注1: ただしこのレポートでは、K12、すなわち小中学生および高校生への適用には障害が多いだろうとの指摘もなされています。

http://www.osafoundation.org/desktop-linux-overview.pdf

   一方、本事業の企画を検討した日本OSS推進フォーラムのデスクトップワーキンググループは、OSSデスクトップ導入現場の対象とし て、まず学校、次いで官公庁・自治体、最後に一般企業というロードマップを立てました。OSDSはそのファーストステップに位置付けられるプロジェクトで す。

デスクトップ利用に対する障害

   Linuxのデスクトップ環境を利用することに対して障壁となっているものは何でしょうか。大きな項目として、少なくとも3つあげることができます。


  1. 作り込まれたイントラシステム(独自クライアント、IE依存のWebアプリケーション、etc)
  2. 相互に交換するファイルのデータフォーマット
  3. 特定用途向けアプリケーションソフトウェア
表4:Linuxのデスクトップ環境を利用する際の障害
 

   一般的に、教育現場にはIT機器の導入と維持管理にかける潤沢な予算はありません。そのため、ほとんどの学校ではイントラシステムは導入されていない状況で、その整備はあまり進んでいません。したがって、幸か不幸か(1)の障害はクリアしています。

   (2)のデータ交換についても、児童・生徒が教育用端末として使う限りは、文書をやりとりする機会が少ないことが期待されます。自分の家の「お父さ んのパソコン」で宿題を片付けるという場面は考えられなくもないのですが、少なくとも今回の実験で得た知見によれば、小中学校でのIT活用方針にも合致し ないこともあり、そのような利用形態は限られていました。

   最後の(3)は、教育現場では教材アプリケーションとなりますが、その対応が最も大きな問題です。教育現場でも実際に様々なアプリケーションが用いられており、何らかの対策を考えなければなりません。

   今回の実験対象となったつくば市内の各校では「スタディノート」というアプリケーションが広く利用されています。このアプリケーションは、子ども向 けのプレゼンテーションツールに電子掲示板システムを組み合わせたシステムで、つくば市ではスタディノートを利用して学校の枠を超えた共同学習が盛んに行 なわれています。今回、OSDSではLinuxクライアントへの移行を促すために、Linuxで動作するスタディノート・クライアントを新たに開発しまし た。

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